見出し画像

どうしようもない僕たちは食を求めて旅をする〜ニューノーマルのフードツーリズム

01 何もできないけどお腹はすく

第二波が過ぎたと思えば、第三波がやってきました。さらに敵は新型に形を変化させ、あの手この手で私たちを脅かしています。各地で緊急事態宣言も続々と名乗りをあげ、事態の深刻さは増すばかりです。またGoogleの提供するCovid19-感染予測ダッシュボード(※1)では感染者の予測数は右肩上がりで上昇しています。(水色が過去、濃い青は予測数)

画像1

画像2

図1:コロナダッシュボード(Google)

本来、GoToトラベルキャンペーンやGoTo EATキャンペーンも一時停止することなく継続できる状況であれば良かったのですが、残念ながら過去にも飲食を伴う会合での感染例もあり致し方ない現状かと思います。もはやこうなってくると、日々の予防を心がけるしかなく、厚生労働省によると2021年春に可能性があがっている(※2)ワクチンに期待が高まるばかりです。

観光として考えた際にはより厳しい状況は続き、旅行業、宿泊業、交通事業社、飲食店など多くの観光関係者の方々は頭が痛い日々が続きます。私たちのようなマーケティング事業社にとってもお手伝いできる範囲は限られ厳しい状況は同じです。

02 前途多難なニューノーマル時代

成す術のないコロナですが、そうは言っても何もしないわけには行きません。冷静にこのニューノーマルの時代を眺めて見たときに、見えてくるものがないわけではありません。各企業や各地域の組織からも様々な状況が報告されていますが、2020年12月に日本政府観光局(JNTO)から公開されたレポート(※3)では、台湾や香港の約50%程度の人が2021年中に日本訪問への意欲を持っており、年齢層や収入などの属性によって海外旅行の意欲に変化は見られていません。つまり、ワクチンなどの安全が確保されれば、これまでと同じようにどの年代も旅行したいと考えていると言えます。

また、すでに収束している台湾の行動変化で見ると(※4)、日本と同様に宅配サービス利用の急増や国内旅行では離島へ訪問する人が増えるなどの変化は見られています。家族で楽しめるエンタメ性のあるホテルなども人気の一つに挙げられます。

興味深いのはJNTO調査の旅行先でのアクティビティについてですが(以下図、参照※3)、今後旅行に行った場合にそのアクティビティが増えるかどうかという質問に対して、エンターテインメントパークへの訪問をはじめ、ハイキングやサイクリングでさえも減少傾向が見られています。台湾やオーストラリアで見ると今後、増える以降があるものは20項目のアクティビティのうちたった2項目でした。香港やイギリスもそれよりは多いもののほぼ同様の結果となっています。
そしてその希少な増加項目として、各国で共通していたものは「食事文化/ガストロミー体験」と「自然体験」です。観光業として、もはやどうしようもないこのニューノーマルの時代にこの2項目だけが残ったのです。

画像3

図2:日本政府観光局によるアクティビティの調査(2020年12月)

以下は、図2の旅行先で挙げられているようなアクティビティの頻度は増えますか、減りますかという設問の回答です。

そのうち(増えると回答した%)ー(減ると回答した%)=(増減の差分)を見ていきます。右にふれるほど、頻度は増えると回答したことになります。

画像4

図3:香港(アクティビティの増減の差分。横軸は回答の割合%)

画像5

図4:台湾(アクティビティの増減の差分。横軸は回答の割合%)

画像6

図5:豪州(アクティビティの増減の差分。横軸は回答の割合%)

03 国内旅行におけるグルメの存在感

自然体験については、先ほどの台湾の離島訪問とも共通しており、密を避けるという意味では想定の範囲ではあります。しかし、食について調べてみると、やはり旅行者のニーズにも現れていることがわかりました。

Trip.comグループが公開した2020年6月中国の端午節の国内旅行のレポート(※5)によると、キャンピングカーでの旅行や農村ツアーやグルメツアーなどのテーマ型旅行がトレンドであったと報告されています。やはりここでもグルメに注目が集まっています。

さらに自治体国際化協会のアフターコロナにおける中国人富裕層のインバウンドによるレポート(※6)では、週末1泊2日程度の短期旅行でこれまでのような多くの観光地をめぐる旅ではなく美味しい料理を食べるだけ、買い物をするだけといった目的型の旅行が増える可能性を示唆しています。同様のレポートでの行楽ジャパンのデータによると、次回に日本に来る際に期待するものとして「日本料理」がトップになっています(※6)。

じゃらん宿泊旅行調査2020では、「地元ならでは美味しい食べ物が多かった」というランキングで、1位はのどぐろ、カニなどの石川県、2位は海鮮、ジンギスカン、ラーメンなどの北海道、3位はチキン南蛮などの地鶏メニューのある宮崎県が挙げられています(※7)。

画像7

図6:中国人訪日旅行意欲(横軸は回答数、2020年5月行楽アンケートより再構成)

04 富裕層と食

またJNTOの掲げる富裕層対策(JNTOの富裕層定義は旅行中100万円以上の消費額)という観点では、やはり通常よりも安全を確保しやすい旅行者層といえるため、ニューノーマルの時代には注目すべき対象となりそうです。4~5人乗りで近隣国を移動するプライベートジェットでは数百万円〜、またトータルコーディネイトされた数千万円を超えるプライベート旅行などが可能となります。地方での高級車手配やラグジュアリーな宿泊施設の建設なども謳われていますが、やはり観光コンテンツとしての食はいつの時代も変わらず特別なものになるかと思います。リッチな旅行者のニーズに限りませんが、ハラールやヴィーガンといった食の多様性もテーマの一つです。

05 さいごに

このWithコロナでは、観光にとって厳しい時代であることは間違いありませんし、何をやっても進化を続けるコロナという敵に絶望することもあります。様々な方の努力や工夫によって、いくつかのキーワードは見えてきましたが、どうしようもない状況は続きます。

それでも、人として普遍的な食へのニーズは変わらずそこにありますし、もっと言うと「移動すること」「直に新しいものを見たい」という人間の本能的な欲求は消えることはないのでしょう。そう考えると目の前の対策に加えて、今後の方向性を着々と練っていくことが私たちのステップであると信じています。

参照

※1:Googleの提供するCovid19-感染予測ダッシュボード
https://datastudio.google.com/reporting/8224d512-a76e-4d38-91c1-935ba119eb8f/page/ncZpB
※2:厚生労働省 ワクチンの詳細について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00179.html#007
※3:日本政府観光局 「訪日旅行市場における新型コロナ感染症の影響と需要回復局面の旅行者ニーズと志向に関する調査」2020年12月
※4:Vponセミナーレポート「コロナ対策で成功した台湾の取り組みとは」2020年10月https://www.vpon.com/jp/blog_taiwan-aftercovid19/
※5:Trip.comグループ 中国国内の旅行需要回復傾向レポート 2020年7月
https://jp.trip.com/newsroom/trip-com-group-releases-2020-dragon-boat-festival-holiday-big-data-report-2/
※6:自治体国際化協会「アフターコロナにおける中国人富裕層のインバウンド~旅の特徴やこれまでとの変化~」
http://economy.clair.or.jp/topics/6753/
※7:じゃらん宿泊旅行調査2020
https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2020/07/b5370da05088ae09fe8e0930ec03e4ff.pdf
※8:日本政府観光局「富裕旅行市場に向けた取組について」2020年10月
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001366730.pdf
※9:Markezine/ウネリ−:データ&ペルソナで理解。コロナ禍でオフィス街にどんな変化が?六本木・渋谷・品川の行動データを比較(2021年1月)