見出し画像

離婚後共同親権について、さらに慎重かつ十分な国会審議を求める会長声明(岩手弁護士会)

5月10日、岩手弁護士会が、「離婚後共同親権について、さらに慎重かつ十分な国会審議を求める会長声明」を発表しました。

"修正改正案については、多くの国民が懸念の声を上げている現状にあり、懸念の声は現実に生じている子の利益を損なう状況を踏まえたものである。"
"夫婦関係や親権という国民の身近な事柄に大きな影響を及ぼす法改正であることに鑑みれば、参議院においてもさらに慎重かつ十分な審議がなされることを求めるものである。"

1 単独親権となる要件の立証困難性に関して配慮し、具体的な適用場面に踏み込んだ審議を求める。
2 意見を聴かれる子の権利(子の意見表明権)の保障を求める。
3 子どもの手続代理人等の費用の国庫負担等を求める。
4 共同親権の場合に、単独で親権を行使できる場合についてさらに具体的な審議を求める
5 事件数の増加に応じた家庭裁判所の人的・物的体制の整備を求める。

なお、共同親権について声明等を出した弁護士会は以下の通りです(5月26日現在)。
日本弁護士連合会、札幌市弁護士会、函館弁護士会、岩手弁護士会、仙台弁護士会、群馬弁護士会、埼玉弁護士会、千葉県弁護士会、愛知県弁護士会、岐阜県弁護士会、金沢弁護士会、福井弁護士会、京都弁護士会、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会、島根県弁護士会、広島弁護士会、福岡県弁護士会、鹿児島県弁護士会

http://www.iwateba.jp/wp/wp-content/uploads/2024/05/離婚後共同親権についてさらに慎重かつ十分な国会審議を求める会長声明-1.pdf

※note掲載にあたり、見出しを太字にする、行間をあける等の編集をしています。


離婚後共同親権について、さらに慎重かつ十分な国会審議を求める会長声明

 2024 年 2 月 15 日、法制審議会において、離婚後の共同親権の導入を柱とする「家族法制の見直しに関する要綱案」が採択され、同年 3 月 8 日、民法等の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)の閣議決定を経て、現在、改正案について国会での審議がなされている。衆議院法務委員会において、同年 4 月12 日、改正案附則 16 条以下に 17 条から 19 条を加える修正をしたうえ可決され、同月 16 日、衆議院本会議において、同法律案が可決され(以下「修正改正案」という)、参議院に送付された。なお、同修正改正案には、夫婦が互いを尊重して子どもを育てることができるよう政府に支援を求めるなどする附帯決議がなされている。
 上記修正改正案及び附帯決議において、離婚後共同親権に関して示されてきた種々の危惧に対して一定の対応が示された点においては評価しうるものと考えるが、なお、以下に述べるような課題があり、離婚事件等の夫婦関係や子どもをめぐる事件を扱う弁護士らから現場での混乱を危惧する意見が述べられている。
 現在、参議院において審議が行われている最中であるところ、当会は、次の点についてなお検討する課題があるものと考えるので、現在の審議において、さらに慎重かつ十分な審議を求める。

1 単独親権となる要件の立証困難性に関して配慮し、具体的な適用場面に踏
み込んだ審議を求める。

 修正改正案 819 条 2 項は「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双
方又は一方を親権者と定める」とし、法文上、離婚時に、父母の同意のない場合にも、家庭裁判所が共同親権を命じることが出来る旨が定められている。
 この父母の同意なき場合の離婚後共同親権については、同条 7 項で、家庭
裁判所が判断するに当たっての考慮事由が定められている。なかでも、同項 2号では、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(「暴力等」)を受けるおそれの有無」が考慮事由として挙げられており、配偶者からの暴力等(いわゆる「DV」)を受けている場合には単独親権となることが明記された。
 しかしながら、暴力等については、暴力等が継続するおそれがあると主張
する被害者に立証が要求されるところ、家庭内において暴力等に晒されている被害者が証拠収集を試みることは容易ではない。すなわち、証拠収集を試みていることが発覚すると、さらに暴力等に晒される危険があり、被害者はそのことを危惧し、証拠収集を躊躇することになる。こうした被害者の証拠収集の困難性に対する配慮は、修正改正案では特段なされていない。上記条項の解釈、適用にあたっては、家庭内の事柄に関して証拠収集が困難であることが少なくないことを踏まえ、適用場面にまで踏み込んだ具体的な審議を求める。


2 意見を聴かれる子の権利(子の意見表明権)の保障を求める。

 修正改正案 824 条の 2 第 7 項は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」とするのみである。
 子どもの権利条約 12 条並びに同条約の精神にのっとり制定されたこども基本法 3 条 3 号及び 4 号には「自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会」が確保されること、「その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され(る)」ことが規定されている。それにもかかわらず、修正改正案の上記条項には、「子の利益のため」と規定するにとどまっており、修正改正案 824 条の 2 第 7 項が規定する考慮要素の中に「その年齢及び発達の程度に応じた子の意見」を明示すべきである。
 なお、附帯決議 3 項では、子の意見表明権の保障について「検討を行うこ
と」とされているが、単独親権となるのか共同親権となるのかは子にとって重大な事柄であり、その子の知らないところでその子のことが勝手に決められてしまうことがないよう子の意見表明権の保障を明示すべきである。


3 子どもの手続代理人等の費用の国庫負担等を求める。

 附帯決議 3 項においては、「子自身の意見が適切に反映されるよう、専門家による聞き取り等の必要な体制の整備、弁護士による子の手続代理人を積極的に活用するための環境整備」が求められている。その積極的活用のためには、国費化を含めた法律扶助制度等の整備が必須である。親とは別個の人格を有する子の権利を別途保障することを目的とすることから、子どもの手続代理人等の費用については,人身保護請求の国選代理人のように、原則無償還で、国費により費用負担すべきである。
 また、現行の子どもの手続代理人の制度が家事事件手続法に規定されてい
ることから、例えば離婚調停段階であれば子どもの手続代理人が利用できる
が、訴訟に移行した場合には利用できないという不具合もあり、この点も法改正が必要である。
 参議院での審議に際しては、これらの具体的な課題についても充実した審
議が必要である。


4 共同親権の場合に、単独で親権を行使できる場合についてさらに具体的な
審議を求める
 修正改正案 824 条の 2 は、共同親権の行使方法として、教育・医療・居所指定等、子に関する重要事項については、父母が共同して決定しなければならないと定めるが、ただし書では、「子の利益のための急迫の事情」がある場合は、親権の単独行使ができるとしている。また、同条 2 項は、「監護及び教育に関する日常の行為」も、同様に、親権の単独行使ができるとしている。
 この点につき、修正改正案附則 18 条では、その趣旨及び内容について国民に周知を図ること、附帯決議 2 項では、文言の意義及び具体的な類型等を、ガイドライン等によって明らかにすべきことが規定ないし決議された。
 しかしながら、「急迫の事情」という文言について、法制審議会においては、「DV や虐待が生じた後、一定の準備期間を経て子連れ別居を開始する場合」であっても「急迫性は継続する」とされたが、一般的には、「急迫」の文言からは疑義が生じうる解釈である。
 また、「日常の行為」という文言についても、「日常」はあまりに多義的であり、「急迫の事情」と同様、現場において疑義や紛争を生じる可能性がある。「急迫の事情」「日常の行為」という規定については、文言自体の変更を含めた慎重な審議が必要である。


5 事件数の増加に応じた家庭裁判所の人的・物的体制の整備を求める。
 修正改正案では、家庭裁判所に多くの判断が委ねられ、家庭裁判所が定めるべき事項が多く規定されているが、現状においても、増加する家事事件に対して、人員配置や設備の改善は追いついていない 。
 附帯決議 7 項でも触れられているところであるが、「子の利益」の最後の砦である家庭裁判所が修正改正案で期待される役割を十全に果たすため、家庭裁判所の人的・物的基盤の拡充が急務であり、修正改正案の施行までに実現されるよう求める。

 離婚後共同親権の導入を含む修正改正案については、各地の弁護士会のみならず、全司法労働組合、全国青年司法書士協議会、日本小児科学会や日本産科婦人科学会など医療関係 4 団体など様々な立場から多くの懸念が示されるに至っている。
 また、2023 年 12 月 6 日から 2024 年2月 17 日まで実施された中間試案に対するパブリックコメントには、8000 通を超える多数の意見が寄せられ、その中で共同親権に反対する意見が賛成する意見の約2倍であった事実も公表されている。インターネット上の署名サイトにおいても、開始した離婚後共同親権の導入に懸念を示す署名は、現在約 23 万筆の賛同を集めるに至っている。さらに、DV被害当事者や弁護士、国会議員などが国会議員会館前に参集し、離婚後共同親権の導入により子の利益が損なわれることを強く懸念し、子の利益を守るためのデモが2回にわたって実施された。
 このように、修正改正案については、多くの国民が懸念の声を上げている現状にあり、懸念の声は現実に生じている子の利益を損なう状況を踏まえたものである。
 以上のとおり、夫婦関係や親権という国民の身近な事柄に大きな影響を及ぼす法改正であることに鑑みれば、参議院においてもさらに慎重かつ十分な審議がなされることを求めるものである。

2024年(令和6)年5月10日
             岩手弁護士会
             会 長 前 田 毅


各地の弁護士会の声明については、こちらをご覧ください。


その他、離婚後共同親権に関する声明などは、こちらにまとめています。


よろしければサポートお願いします。 共同親権問題について、情報収集・発信の活動費として活用させていただきます。