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共同親権について、十分かつ慎重な審議を求める会長声明(島根県弁護士会)

4月30日、島根県弁護士会が、「共同親権について、十分かつ慎重な審議を求める会長声明」を発表しました。

共同親権について声明等を出した弁護士会は以下の通りです(5月26日現在)。
日本弁護士連合会、札幌市弁護士会、函館弁護士会、岩手弁護士会、仙台弁護士会、群馬弁護士会、埼玉弁護士会、千葉県弁護士会、愛知県弁護士会、岐阜県弁護士会、金沢弁護士会、福井弁護士会、京都弁護士会、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会、島根県弁護士会、広島弁護士会、福岡県弁護士会、鹿児島県弁護士会

https://www.shimaben.com/files/original/20240430102049185c4ba3222.pdf

※note掲載にあたり、見出しを太字にする、行間をあける等の編集をしています。


共同親権について、十分かつ慎重な審議を求める会長声明

 2024年3月8日、民法等の一部を改正する法律案が閣議決定を経て衆議院に提出され、同年4月12日、衆議院法務委員会において可決、同月16日、衆議院本会議において、一部修正の上同法律案が可決(以下、可決された法律案を「修正改正案」という)、参議院に送付された。
 同修正改正案には、夫婦が互いを尊重して子どもを育てることができるよう政府に支援を求めるなどする附帯決議がなされているが、むしろ以下に述べる問題点が解消されず、子どもが安心して生活するための制度設計として、十分な審議がなされているとは言えない。
 今後、参議院において審議が行われる中で、以下の問題点を十分審議すべきであり、また、問題点が残されたまま拙速な導入がなされないよう求めるものである。

1  問題点1
 修正改正案第819条第1項は、「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。」とする。
 日本は、他国と異なり、当事者の意思及び離婚届の受理で離婚が成立する協議離婚制度を有しており、また、離婚全体の約9割が協議離婚である。
 そのため、協議離婚において、子の利益の観点から単独親権が望ましいDVや虐待がある場合はもとより、当事者の婚姻中の支配・被支配関係の影響の下で、一方当事者の真意に反して共同親権を強いられる可能性が否定できない。

2  問題点2
 修正改正案第819条第2項は、「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める」とし、法文上、離婚時に、父母の同意のない場合にも、家庭裁判所が共同親権を命じることが出来る旨が定められている。
 そして、この父母の同意なき場合の離婚後共同親権については、同条第7項で、家庭裁判所が判断するに当たっての考慮事由が定められている。なかでも、同項第2号では、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(「暴力等」)を受けるおそれの有無」が考慮事由として挙げられており、配偶者からの暴力等(いわゆる「DV」)を受けている場合には単独親権となることが明記された。
 しかしながら、家庭内において暴力等に晒されている被害者が証拠収集を試みることは容易ではない。また、DVには非身体的暴力が含まれることはDV防止法にも明示されているところ、このようなDVの客観的な証拠収集はさらに容易ではない。このような証拠収集の困難性に対する配慮は、修正改正案では特段なされていない。
 このように上記条項の解釈、適用にあたっては、家庭内の事柄に関して証拠収集が困難であることが少なくないことを踏まえ、法がどのように解釈、適用されるのかについて、場面ごとに具体的な審議がなされることを求める。

3  問題点3
 修正改正案第824条の2第7項は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」とするのみである。
 子どもの権利条約第12条並びにこども基本法第3条第3号及び第4号には「自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会」が確保されること、「その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され(る)」ことが規定されている。それにもかかわらず、修正改正案の上記条項には、「子の利益のため」と規定するにとどまっている。
 なお、附帯決議第3項では、子の意見表明権の保障について「検討を行うこと」とされているが、単独親権となるのか共同親権となるのかは子にとって重大な事柄であり、その子の知らないところでその子のことが勝手に決められてしまうことがないよう子の意見表明権の保障を明示すべきである。

4  問題点4
 修正改正案は、共同親権のもと単独で親権を行使できる場合として、第824条の2但し書きで、「子の利益のための急迫の事情」がある場合、また、同条第2項で、「監護及び教育に関する日常の行為」としている。
 このうち、「急迫の事情」という文言について、法制審議会においては「DVや虐待が生じた後、一定の準備期間を経て子連れ別居を開始する場合」であっても「急迫性は継続する」とされたが、一般的には、「急迫」の文言からは疑義が生じうる解釈である。
 また、「日常の行為」という文言についても、「日常」はあまりに多義的である。
 子の監護養育においては、医療、教育、福祉、司法などあらゆる場面で子のために迅速かつ適切な判断が行われる必要があり、また、医療機関、学校、学校外の活動等、様々な機関の利用が想定される。にもかかわらず、単独で親権を行使できる場合かどうかの判断にためらいが生じ、様々な機関の利用が妨げられたり、迅速かつ適切な支援が行われないこととなれば、子の利益を損なう。
 この点、修正改正案附則第18条では、その趣旨及び内容について国民に周知を図ること、附帯決議第2項では、文言の意義及び具体的な類型等を、ガイドライン等によって明らかにすべきことが規定ないし決議されたが、現場において疑義や紛争を生じる可能性があり、文言自体の変更を含めた慎重な審議が必要である。

5  問題点5
 修正改正案は、離婚後の父母の双方を親権者と定めるにあたって、父母の一方を子の監護者に指定することが必須とされていない。
 監護者の指定がない場合、養育費の請求権者や児童手当等の受給者が不明確になり、現実に子を監護している親が経済的に困窮し、子の生活基盤が脅かされかねない。
 また、離婚後に父母間で親権の行使について円滑な協議を行うことは通常は困難であるところ、監護者の指定がされなければ、父母の意見対立を招来し、その解決のための家庭裁判所の判断にも時間を要するなど、子の利益に反する事態が懸念される。

6 問題点6
 修正改正案では、家庭裁判所に多くの判断が委ねられ、家庭裁判所が定めるべき事項が多く規定されている。また、近年増加する家事事件に対して、人員配置や設備の改善は追いついておらず、現在でも調停期日が迅速に設けられない状態である。
 附帯決議第7項でも触れられているところであるが、「子の利益」の最後の砦である家庭裁判所が修正改正案で期待される役割を十全に果たすため、家庭裁判所の人的・物的基盤の拡充が急務である。

 以上のとおり、子どもの利益に大きく影響を及ぼす法改正であり、今後、参議院において審議が行われる中で、以上の問題点を十分審議すべきであり、また、問題点が残されたまま拙速な導入がなされないよう求めるものである。

2024(令和6)年4月30日
島根県弁護士会
会長 桐山香代子


各地の弁護士会の声明については、こちらをご覧ください。


その他、離婚後共同親権に関する声明などは、こちらにまとめています。


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