トパーズ~虹と共に~〔2〕


≪2≫

【1】



パパ、ママ、おばぁちゃま。
私ももう17歳になったよ。

パパとママとおばぁちゃまが亡くなって凄く悲しかったけど、ジェイや涼パパやみんなのお陰で楽しく元気に過ごすことができてます。

ジェイは29歳になった今でもトップを走り続けてるよ。相変わらずあっちこっちで浮き名を流してて、涼パパはキー、キー言ってるけどね…。トップモデルだけあって連れてる女の人は綺麗な人ばっかり。モデルはなおのこと、女優さんだったり、どっかの令嬢だったり…。
事務所もこっちに移したことで何かとモデルさん達が出入りするからある意味この辺りでは名所と化してます。

特にジェイ目当てが多いよ。
パパとママの目は確かだったね。

それから
…………ジェイを見てるとママをナンパしたって話しも頷けるよ……。

―はぁ…、今朝もか…。

毎朝恒例なんだけど、ミーハーなうちの事務所のモデルさん達のファンが居る…。一応、住宅街からは少し離れてはいるんだけど、それでもご近所さんにご迷惑をかけるわけにはいかないので早朝、深夜の出待ち(?)はお断りしている。
以前、ジェイの熱狂的なファンが何日も座り込みをしてたコトがあって、涼パパが事務所の評判を落としてこの土地を離れざるをえなくなっては困る。ということでホームページや直接お願いしたり、門のトコロに貼り紙をしたりした。

そのおかげで「朝9時〜夜8時まで」

とファンの人達の中での暗黙のルールが出来たらしい。それでも毎朝そのルールをまだ知らない新たなファンの人達がチラホラやって来る。

『涼パパ、おはよ〜。今朝も3〜4人ほど来てるよ〜』

私の部屋には表の道路側に窓がある。
だから毎朝起きたら道路に来てるファンがいないか確認して、それを朝食を作ってる涼パパに伝えるのが日課になってる。

『おはよう、紗弥加。毎朝、毎朝よく飽きずにやってくるわね〜』

って言って呆れるフリしてるけど、実はそうやってファンの人達が来てるコトを涼パパは有り難く思ってる。
だってファンのお陰で事務所が成り立ってるんだもんね。

『ん〜…、涼さ〜ん、紗弥加ぁ。おはよ〜。う〜ん、コーヒーのいい香り〜』

そう言って風呂上がりで濡れた髪をタオルで拭きながらダイニングに顔をだしたのは女性モデルの響ちゃん。
うちの事務所の女性モデルで一番の稼ぎ頭です。始めは違う事務所に所属してたんだけど、6年前の22歳の時にうちの2トップの「レノン」に一目惚れしちゃって追いかけてきちゃった…。
で、3年越しの猛アタックの末に見事射止めちゃって、世間も事務所も公認の仲。

『学生時代に遊び半分でやってて、そろそろ辞めて就職活動しようかなぁって思ってた時にたまたま撮影現場に打ち合わせがあったらしくってレノンが現れたんだよね〜。
で、勝手に運命感じちゃって、レノンの事務所を探して移籍しちゃったぁ』

だって。
クールビューティーで大人の女な響ちゃんなんだけど、レノンの話になるとデレデレになっちゃうところが可愛いなぁって思っちゃう。

『また来てんの〜? サーヤ、涼さん、おはよ〜』

『あっ、丁度いぃトコに降りてきたじゃない。ジェイ、あんた、行ってきなさいよ』

『はぁ〜?
響、お前が行けばいぃじゃん。居候歴の一番下っ端のお前がッッ』

また始まってしまった……。ジェイと響ちゃん、この二人がかち合うと絶対と言っていい程の確率で言い合いが始まる。ある意味仲良しなんだけど……。

『あ〜ッッ、ムカツクッッ。
無理よ、私はお風呂上がりだも〜ん。ここはやっぱり一番居候歴の長いジェイが行けばいぃじゃん。
ねっ、ジェイさ・ま』

『あんた達、うるさいわよ。あたしは今、手を話せないんだから、ジェイ、あたしの次に年長者のあんたが行きなさい』

『だってさ〜。行ってらっしゃぁい。せ・ん・ぱ・い』

『えー、ダルい。……あっ、それだったらお前が行けばいぃじゃん。レノン』

『エッッ!? ……なんの話?行くってドコに? なんか急な仕事か?』

タイミングが良いのか悪いのか、レノンが入って来た。

『おはよう、レノン。
今朝もファンの人が道に居るから注意をしに……って話だよ。で、それを誰が行くかでジェイと響ちゃんが擦り合いをしてるの』

『おはよう、紗弥加。
なぁんだ、そういうコトか。んじゃ、行ってくるけど?』

ってレノンはあっさり承諾したんだけど、

『おはよう、レノン。レノンが行かなくてもいいのよ〜。ジェイが行けばッッ。涼さんに言われたのはジェイだもんねー』

と言って響ちゃんはレノンを隣に座らせた。

『はぁぁ!?
年長者って涼さんが言っただろ? ってコトはレノンだろ?俺より2コ上なんだし』

いつまでたっても終わらなさそうだった。

『………、もぉッッ! 私が行ってくるよ』

って言って私は立ち上がった。

『ダメッッ!』

4人が一斉に私に向かってダメ出しをした。

『紗弥加は事務所の人間じゃないんだからそんなコトしなくてもいいのよ。ジェイ、早く行ってきなさい』

『………、わかったよ。行ってくるよ』

涼パパに一喝されて渋々立ち上がりダルそうにジェイは玄関に向かって行った。

『ジェイ、俺も一緒に行ってやるよ』

と言ってレノンもジェイの後を追いかけて行った。

『レノンまで行くことないのにぃ〜』

って響ちゃんはふくれてた。

『毎朝、毎朝、懲りない奴等だなぁ……。レノンもそう思わね〜? 絶対わざと来てるヤツも中にはいるよな』

『まぁな。でもそのお陰で俺らもやってこれてるんだし有り難いことじゃん?』

『まっ、俺らがそんだけ魅力的ってことだな。レノン』

『そういうことだな』

なぁんて会話をしながら2人で楽しそうに歩いていった。2人は本当に仲がいい。ジェイとほぼ同じ時期に涼パパがスカウトしてきたレノン。立ち上げ時期から頑張ってきたから余計に…なのかもしれない。

『おはよう、君達、この事務所に何か用かな?』

『……………ッッ』

『それともモデル志望なの?』

『………、キャァァァー!』

外から凄い悲鳴が聞こえた。歓喜と驚きの入り交じった黄色い叫び声……。

『そりやびっくりするわよね。我が事務所の2トップが現れたら。まっ、ジェイなんかレノンの足下にもおよばないけど〜♪』

なんて嬉しそうに響ちゃんが窓から外を覗いて言った。

『なんだあれ? 俺らの顔見たら悲鳴だけあげて走って行った』

『注意する間もなく走って行ったけど、大丈夫かな? 涼さん』

『あんた達の顔見れたんだから暫くは来ないでしょ。また来たらその時はちゃんと注意すればいいわよ。
さっ、それより朝食にしましょ』

この家にいる時は必ず一緒にご飯を食べるコトになっている。
それが朝食でも昼食、夕食でも。私と住むことになった時にジェイと涼パパが私が1人で食べるコトがないように……と決めたこの家で生活するためのルールだ。

『涼パパ、じゃぁ、私、学校に行ってくるね』

『行ってらっしゃい。気をつけてね』

『あっ、丁度私達も出るから学校まで送ってあげるわ』

『響ちゃん、いいの?』

『今日は私達3人で撮影なの。ジェイは余計だけどね〜』

『本当にお前だけはムカツク。レノン、なんでコイツにしたんだよ』

『う〜ん、根負け!?』

って言いながら優しい瞳で響ちゃんを見ながらちゃんとエスコートしていく辺り紳士なんだよね。響ちゃん曰く、そんなトコにまたグッとくるらしい。

『ありがと。じゃ、行ってくるね』

手を降って行こうとしたら3人して車から降りてきて

『行ってらっしゃぁい』

って3人共極上の営業スマイルで手を振るもんだからみんな校門に釘付けになってた。

 『キャァァァー! ジェイとレノンよ〜!!』

 『響もいる〜!』

今朝の黄色い叫び声なんて比じゃないくらいの叫び声があっちこっちから聞こえてくる。

─── 目立つ……。

わざわざ車から降りなくてもいいのに……。しかも3人そろって……。絶対わざとだ。黄色い叫び声が聞こえるのがわかってるくせに……。
絶対わざとだ……。
私は下を向きながら下駄箱のある方へ歩いていった。

『おはよっ、紗弥加。
1人でもかなり絵になるのにやっぱり3人揃うと凄い目をひくよね〜。羨ましすぎるぞ、一緒に住んでるなんてっ』

私の背中をポンと叩いたのは親友の智香。

『おはよっ、智香。
あれ、絶対わざとだよ。目立つコト大好きなんだもん、あの3人……』

『それぐらいじゃなきゃずっとトップは走り続けられないよ。また紗弥加ん家に泊まりに行っていい? 3人が居るときにぃ〜。涼さんの料理も絶品だし、あの3人と一緒にご飯食べれたら最高よね〜♪』

って目をハートにしながら智香が宙を見てる。

『うん、涼パパにみんなのスケジュール聞いとくね』

『絶対よッッ! 持つべきものは友だよね〜』

始めはみんなうちのモデルさん達目当てで私に近づいてくる……。小さい頃はそれが凄く嫌だった。

 



≪2≫

【2】


ジェイと涼パパと暮らし始めるコトができて、1人にならずによくなって本当に嬉しかった。見知らぬ怖い人達と暮らさずによくなって本当に嬉しかった。事務所の引っ越しも終わり、落ち着いた頃レノンが事務所との往復が面倒くさいと引っ越してきた。この家に声が増えたコトが嬉しかった。
でも、それくらいから家が事務所と一緒になったコトが周囲にも知れ渡って私の周りが騒がしくなった。
子供ながらにその私の背景に釣られて群がる人達が怖くて、学校に行くのが嫌だと駄々をこねたコトがあった。
そんな時、ジェイが私に言った。

『そんな奴らはほっとけばいいんだよ、サーヤ? 人よりサーヤを覚えて貰えるのが早いって思えば。その中でちゃんとサーヤを見てくれる友達が現れるから。大丈夫。
泣かされたら俺が仕返ししに行ってやるからな』

って。
なんか、ジェイに言われたコトで吹っ切れるような気がした。それ以来、怖がらず、私に……私の背景目当てに近づいてくる人達をあまり気にしないように心がけた。ジェイの言うように私を見てくれる友達はなかなか現れてはくれなかった……。
結局、小学校では私自身を見てくれる人には出会えなかった。ジェイや涼パパ、レノンに励まされながらも不安を抱えつつ中学校に上がった。そんな時に出会ったのが同じクラスになった智香だった。
その智香も始めはやっぱりそうだった。
『私、智香。
紗弥加ちゃんの家ってあのモデル事務所のある家だよね? 不純な動機からだけど、どうか友達になって下さいッッ』

って昔テレビか何かで見た告白タイムの様に片手を私に差し出して言ってきた。思わず差し出された手を握り返してしまった私……。
でも、そのバカが付くような正直な告白(?)に今まで興味本意で近づいてくる人達とは違うかも?
って思った。

『こちらこそ宜しくお願いしますッッ』って。

それが智香との始まりだった。今では大の親友。大切な私の友達。変にオブラートに包んだ言い方で事務所のモデルに会わせてっなんて言わない。本当にストレートに言ってくれるので逆に気持ちいいくらい。
だから我が家に無条件で招待されるのは智香くらいだ。

『うぅぅ〜、
緊張するぅぅぅ〜〜ッッ。あ……あのジェイとレノンと響と……ご……ご……ご飯を食べれるなんて〜♪』

初めて我が家に智香が夢と希望(?)を抱いて泊まりにやって来たのは仲良くなって半年ぐらいした頃だった。

『ただいま〜。涼パパ〜? 智香が来たよ〜』

『???』

智香にはまだ詳しい事情を話してはいなかったから私が「涼パパ」と呼んだコトに不思議な顔をしていた。

『ジェイ〜? レノ〜ン? 響ちゃ〜ん? 誰もいないのかなぁ?
まっ、入って、入って、智香』

とりあえず部屋に行こうと智香と歩き出したらダイニングから顔を出したのは涼パパだった。

『紗弥加、お帰り』

『ただいま。こちらが智香だよ』

『いらっしゃい』

『智香、涼パパだよ。…………智香?』

『あっ…、こ…こんにちは。き……き……今日はお……お世話になります』

智香は真っ赤になりながら思いっきり頭を下げた。

『紗弥加、とりあえず荷物を置いておいで。もうすぐご飯ができるから』

智香の様子を不思議に思いながらとりあえず部屋に向かうことにした。

『はぁぁぁぁぁぁ。緊張したぁぁぁ。パパってダンディーだよね〜。大人の男って感じぃ。今日は最高〜。
ジェイにレノンに響に会えるだけでもし・あ・わ・せ
なのに、パパがあんなにステキでダンディーなんてッッ』

智香の目は宙を見ながらハートがいっぱい浮かんでた。キャー、キャー言いながら興奮状態にあった智香の口調が急に変わった。

『……紗弥加……』

『ん?どうしたの?』

『あのさ、えっと……、気になったんだけど、紗弥加ってパパのコト、涼パパって……。………あっ、……えっと…。………その…ごめん……』

口ごもりながら智香の表情が申し訳なさげになっていく。

『気を使ってくれなくていぃよ? 智香にはまだ言ってなかったもんね。実は……』

私は智香にだったら話してもいいと思った。いつも遠回しに言わず、歯に衣を着せずにストレートに言う智香が言いにくそうにしている。その様子が私を気遣ってくれているのが凄くわかったから。だから私は今までのコトを話した。小さい頃から私の背景に近づいてくる人達が怖かったこと。
でも、智香は今まで近づいてきた人達とはどこか違うって思ったコト、だから智香と友達になれて嬉しかったコト。

『紗弥加〜ッッ。ごめんね。不純な動機からで。嫌だったよね。でも、確かに始まりは不純過ぎる動機だったけど、今ではそんなコト関係なく紗弥加と友達になれて嬉しいよ』

そう言って涙ぐみながら抱きついてきた。

『これからもヨロシクね』

2人してそう言い合った。

『あっ、言い忘れてたけど……』

『えぇぇぇぇッッ………!』

涼パパの真実を話したらビックリしてた。

『ショックゥゥ〜』

『紗弥加〜、ご飯にしましょ〜?』

タイミングよく涼パパの声が下から聞こえてきた。

『ねッッ?』

私たちは笑いながらダイニングへと降りていった。

『さぁ、座って、座って。もうすぐみんなも帰ってくるみたいだから』

『あ……ありがとうございます。えっと、なんてお呼びしたらいいですか?』

少し緊張しながら智香は涼パパに聞いた。涼パパは優しい顔で

『ん? うちの事務所はみんな名前で呼び合うことにしてるから、「涼さん」でいいよ。わた……僕も智香って呼ばせてもらうから』

『涼パパ、無理して頑張って話さなくても大丈夫だよ? 智香には全部話してあるから』

『すいません、聞いちゃいました。紗弥加のパパのクダリも……。あっ……こんなコトまで暴露しなくてもよかった?』

涼パパと思わず顔を見合わせて笑っちゃった。やっぱり智香はバカが付くくらいの正直者だなぁって思った。

『そう。なら無理して男らしく話さなくても大丈夫よね? 智香、これからも紗弥加といい友達でいてやってね』

『任せてください。不純な動機もありますけど……』

『本当に正直な子ね。でも、逆にその方が安心でもあるわ。よかったわ。紗弥加、智香と友達になれてから本当に楽しそうに学校に行くようになったから。本当にありがとう。一樹も遥子も安心してると思うわ。本当に……』

うっすらと涙をにじませて、智香をギュッと抱き締めながらそう言った。

『誰だぁ? 涼さん泣かしたの?』

『それとも今になって宗旨替えしちゃったの?』

『その方があの世でミスターもヨーコさんも喜んでると思うけどね』

『エッッ! あっ、…………きゃぁぁぁぁっっ!!』

キーンとなるくらいに智香の歓喜の叫び声が部屋中に響き渡った。みんなの表情が一瞬止まったけど、さすがにこんな声を聞きなれているんだろう3人はすぐに笑顔になって智香に近づいて行った。

『こんばんは、君が智香? レノンです。ヨロシクね』

固まる智香の手を握って満面の笑みで挨拶をするレノン。

『響きよ。ヨロシクね。あっ、レノンは私のだからダメよ』

とウィンクをしながら未だに固まる智香と握手をする響ちゃん。

『ようこそ智香。これからも紗弥加を頼むね』

と智香にハグをしてまだまだ固まり続ける智香にトドメをさしたのはジェイだった……。

『しあわせすぎる……』

と放心状態でもう目がハートになってしまって、智香の回りはピンクに染まり、ハートがいっぱい飛んでるのが見えるみたいだった。

『紗弥加…、鼻血出して失神してもいぃ?』

ハートになった目で宙を見ながら智香が呟いた。

『…………。智香……、今失神しちゃったらみんなでご飯食べれなくなっちゃうよ?』

その瞬間、ハッと我に戻り

『……ダ……ダメッッ。それはダメッッ。こんな機会を逃すなんてコトできないっ』

って真面目な顔をして言うもんだからみんなで顔を見合わせて笑っちゃった。笑い疲れたところでお腹を抱えながら涼パパが口を開いた。

『紗弥加、本当に面白い子ね。みんなも帰ってきたコトだし、ご飯にしましょう。せっかくのあたしの自慢の料理が冷めちゃうわ』

美味しいご飯に舌鼓を打ち、たくさん笑った。智香は興奮状態で話続けた。涼パパもすっかり気に入って

『智香はこれからも我が家に来ることを許可します。紗弥加のコト、これからもヨロシクね』

って智香の手を握りながら言った。智香はその手をブンブンと握りかえしながら

『はいっっ。こちらこそヨロシクお願いします。それから、これからもジェイとレノンと響ちゃんが揃ってる時だけじゃなくぜひぜひ呼んで下さいッッ。あっ、でも3人とも居る時に呼んでもらえると最高に幸せですッッ』

ドコまでもバカ正直な智香はすっかり我が家に受け入れられた。





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