コミュのたのしみかた(シャニマス)
本記事は『アイドルマスターシャイニーカラーズ』の作中シナリオである「コミュ」とその読み方に関する紹介記事です。
同作品についてのネタバレを含みます。
記事概要
執筆動機
今年でシャニマスはサービス開始6周年だそうです。
おめでとうございます。
6周年を記念してnoteを活用した投稿キャンペーンがあるとのことです。
なんと、大賞~優秀賞の合計6名までには、本作の制作プロデューサーである高山祐介さんからの賞状とオリジナルQUOカード5000円分がもらえるらしい。
……────欲しい。オリジナルQUOカード5000円分が、高山の賞状という最強のマウントグッズが。あと声優さんからのファンサもほしいし、できれば僕だけにファンサがあってほしい。
そういうわけで、僕も何か記事を書こうと思います。
内容
コミュを読もうと思います。
大体どんなコミュでも見どころがあるのがシャニマスの嬉しいところだと思います。
方法
僕は箱推し気味のオタクです。
今すぐに「これ!」というコミュも思い浮かびませんでした。そういうわけで今回は適当なものを選びます。
……もしかしたら思う人がいるかもしれません。
「心身ともに充実して、『これを読むぞ!』と準備ができた状態でないと、コミュを読むのにも身が入らないんじゃないか」と。
──大丈夫です。
聞いてください。
今、あなたが付き合っている恋人に出会ったのは、自分史上最高にかっこよくてかわいい姿のときでしたか?
そうではないですよね。
だから大丈夫です。
ちなみに僕は今彼女がいません。
そういうわけで、今回はランダムに読むコミュを決めようと思います。ルーレットのスマートフォンアプリ(「ふつうのルーレット」:https://x.gd/j6kiy)を活用させてもらいました。
まずは、「アイドル(プロデュースコミュ&サポートアイドルコミュ: カードにあるコミュ)」、「思い出(イベントシナリオコミュ)」から選びます。その後アイドルを決めて、その次にプロデュースアイドルコミュかサポートアイドルコミュかを決めて、それから各コミュを選んでいきます。
つまり、とにかくルーレットに任せます
「アイドル」になりました。
次はどのアイドルにするか選びます。
28通りの項目を作るのが大変なので、まずはユニットを選んで、その次にアイドルを選びます。
ストレイライトになりました。
なんかいつも戦ってるイメージのあるアイドルグループです。
次はメンバーを決めます。
芹沢あさひになりました。
あさひはかわいいです。
今回はサポートアイドルコミュを読みます。
サポートアイドルコミュではユニットメンバー全員が登場します。
僕はあさひちゃんのサポートアイドルを17種類中11種類持っています。限定はほぼ引けていません。
特に意識せずに引いていたら自然とこうなる、といった感じです。
そのなかから選んでいきます。
一口にサポートアイドルといっても、それぞれイベントシナリオと関連しているものがあったり、ユニットメンバーとの仲の良さが違ったり、色々なことが変わってきます。
……もしかしたら思う人がいるかもしれません。
「シナリオコミュ読んだり限定SSRとかを持っていなかったりしたらストーリーが楽しめないじゃん」と。
──大丈夫です。
聞いてください。
女の子と出会ったとして、赤ちゃんだった頃から今に至るまでの全てを知っていなければ、その子と付き合うことはできませんか?
そうではないですよね。
だから大丈夫です。
ちなみに僕は女の子と付き合えたことがありません。
ルーレットが『【あめ、ゆき、はれ】芹沢 あさひ』を読むことに決めてくれました。
【あめ、ゆき、はれ】芹沢 あさひ
こんな感じらしいです。
イラストを見てみると、雪が降って、止んで、晴れたみたいな雰囲気です。愛依ちゃんの服装が派手ですね。
次に各話のタイトルを見たところ、どうやら頭文字がそれぞれ「雨」、「雪」、「晴」になっていて、なんだかお洒落な感じがします。
……よく分からないし、コミュを読んでいくことにします。
コミュを読む
とりあえず読んでいきます。
各話のタイトルが見えているので、一回は読んだことがあるか、プロデュースの編成に含めたことがあるみたいですが、記憶には残っていません。
大丈夫かな……。
雨音に足音、声は掻き消え
いやまずタイトルがお洒落なんよ。
すみません読みます。丁寧語は面倒だからやめます。
半分初見みたいな僕が、ぶつぶつ言いながら読んでいるものと思ってもらえれば、それで大丈夫ちゃうかな。
明日雪が降るらしい
めっちゃやばそうよね
もう社会人だけど、僕も全然雪だるま作れるかの方が気になる
かまくらは激アツ
もしかすると雪国民には分からないかもしれないけどめっちゃロマンある
さすがに雪だるまか?
ふたりのことが話題に出たときに計画運休のことを思い出すあさひちゃん偉い
明日の仕事現場が愛依ちゃんの家から近いから、これらからお泊り会をするらしい
コンビニ発見
歯ブラシを買い足しつつ、お泊り会のお菓子を用意するとか一番楽しい
なんぞ
見てた?
やめとく?
コンビニ行こうぜ!!!
濃厚って、しょうゆ?プリン?チップス?……ていうかしょうゆプリンチップスってなに?
ケーキいいね
返信してへんかったけど
すごい
可能性ある
あくまでもお菓子は諦めないスタイルやね
その択は天才かもしれん
最近のねるねる〇るねはすげえな
天気悪くて、愛依ちゃんの傘が壊れたから相合傘らしい
雨も降ってるし……つらくない?
こんなトラブル多くても楽しいって思うのは素敵やね
空を見上げていると明日の雪が気になるみたい
たくさん降ると仕事が大変だし、傘が壊れるみたいなことがあったら辛いけど、それでもやっぱり雪は降ってほしいよね
雪解けの街がやって来る
冬優子だ
ごめん
愛依ちゃんからも注意あり
素直……
なんで警報の打率って低いんやろうね
仕事終わりか〜〜
あるあるよね
わかる
あさひちゃんが来てるからかそんな風に思ったらしい
確かに、愛依ちゃんはいつも朗らかでノリがいいから感傷的?な物言いは珍しかったかも
素敵なことやね
心配らしい
その空間の単位面積あたりのビジュアル偏差値が高すぎるんよ
お父さんすぎる
お母さんすぎる
侘び寂びまで地球7周半くらいありそう
やってんねえ!
解けかけなら雪だるまは無理だよなぁ
なるほどな?
顔面狙っていくの強すぎ
雪合戦楽しそう
晴れ間に歌うは
なにしてんの?
おぉ
自分と匂いが違うことに興味を持ったらしい
貸してあげるらしい
同じ匂いらしい
おや
あー
エモい
ああごめん、そうやね
コロンとか匂いものは分かりやすいほうかもやけどね
もちがもちもちになったらそれはもうおもちなんよ
めっちゃ早口になるじゃん
すみません
ごめんなさい
怒ってるしいったん謝っとこ
はい……すみませんでした……(よし、楽しく話せたな)
愛依ちゃん?
あーなるほど
おぉ、しっかりケア……
同棲中のカップルみたい
コンビニで買ってたね
冬優子ちゃんのも買ったんだ?
そうよね
うん
ノリが最高にいい
まぁいいんじゃない?
夜更かしもしてるはず
どうしたのあさひちゃん?
?
そっか
自分、胸キュン、いーすか。
感想
あさひちゃんが可愛くてよかったです。
あとは愛依ちゃんのノリが良くて優しいところとか、冬優子にプロ意識があるところとか、そういうのがぶつかってしまうけど、なんだかんだで仲が良くて微笑ましかったです。
次のお泊り会も見たいなと思いました。
より深くたのしむために
シャニマスのコミュの良さは、深く楽しめるだけの奥行きがあるところかもしれません。そういう内容を自ら知るという体験は、きっと楽しいものだと思います。
このコミュも例に漏れず、奥深いところがあります。とはいえ、具体的な手本がなければ分かりにくいというのが実際だと思われるので、せめて手掛かりになるようなものを示したいと思います。
全体を俯瞰してみる、まとめてみる
あさひちゃんが可愛かったので振り返ってみます。
せっかく振り返るのだから、初めて読むときとは違うところも見てみることにします。
さっきは目の前の出来事を追うばかりだったし、ついでにそれ以外の、全体としてどうだったのかというのにも注目しましょう。
……全体に注目しよう、といっても全体のことが意外とよく分かりませんね。
それに、コミュの内容を思い出そうにも完璧に記憶できているわけではないので、まずは一話ずつ何があったのかを思い出すことから始めます。
【あめ、ゆき、はれ】芹沢 あさひの各話を、叙事っぽく──出来事に注目するようなかたちで、なんちゃって要約をしてみましょう。
『雨音に足音、声は掻き消え』
「芹沢あさひは仕事の前日に和泉愛依の家に泊まる予定である。当日の天気は激しい雪だと予報されている。彼女たちは『お泊り会』に向け、コンビニで宿泊と夜更かしの準備を進めるが、たびたび黛冬優子からのメールで注意を受ける。店を出ると、風雨が激しく、和泉愛依の傘が壊れてしまった。明日の仕事は無事に行われるのだろうか。」
『雪解けの街がやって来る』
「仕事当日は予報よりも雪が降らなかった。仕事を終えたストレイライトのメンバーが雪の街を歩いている。黛冬優子は雪にはしゃぐ芹沢あさひに注意の言葉を投げかけつつ、和泉愛依に昨夜の『お泊り会』の様子について訪ねる。和泉愛依とその家族にとって迷惑ではなく、むしろ特別な一日だったらしい。芹沢あさひは雪を黛冬優子に投げつけた。」
『晴れ間に歌うは』
「先日の『お泊り会』にて、芹沢あさひが和泉愛依と同じ化粧水を使ったという話が黛冬優子の顰蹙を買い、二人を叱る。そこで和泉愛依は芹沢あさひのアメニティを和泉家に備えておくと言い、黛冬優子も交えたお泊り会を提案する。彼女たちのやり取りのなかで芹沢あさひは期待に笑みを浮かべていた。」
目立つものについてよく見てみる
読み終わって、まとめてみると、このコミュでは芹沢あさひと和泉愛依が仲良く過ごしていたのがよく見られたなぁと思います。
あとは、黛冬優子がいつにもまして怒っていました。
もしかしたら、ここにこのコミュで表したいことがあるのかもしれません。
せっかくだから考えてみましょう。
考えてみる……そのために言葉を創ってみる(今回はたまたまそれっぽいものを知っている)
ここで、「官能」という言葉を説明することとします。
調べてみると、官能は「肉体的快感、特に性的感覚を享受する働き。」と説明されています。
「性」という語はきわめて広範な意味を含み、むやみな誤解を生みがちですが、ここでは「官能」という語を「やりたいことをやりたいようにすること、自らの欲求を抑制しないこと」というニュアンスで用いることとします。
さて、官能を阻害するものは様々に存在します。
例を挙げましょう。
僕が何となく出かけようとするときに雨が降りました。僕は出かけたかったのにと悔しく思いながら出かけるのを止めにします。このとき、「雨」は僕の官能を阻害しています。
他にも、東で礒部花凜さんの出演する『若きウェルテルの悩み』の朗読劇を観に行きたいけど、他の用事と被ってしまいました。僕は声優のオタクではないので、泣く泣く観劇を諦めたとします。このとき、「他の用事」は僕の官能を阻害しています。
ここである人は言うかもしれません、「雨が降っていても出かければいいし、他の用事をやめにして観劇しに行けばいい。それでも行かないのだから、それはお前の意志だろう。」と。
その通りです。やろうと思ってさえいれば、試みる事さえできないという事態はまずないはずです。
そうであれば、官能を阻害するものは、官能を抱くその人自身であると言えるでしょう。そうであれば、言葉としては阻害というよりは抑圧と言うのが正しいかもしれません。
──さて、それならば僕たちはどうして「官能」を抑圧するのでしょうか。
またどのようにして「官能」を抑圧することを覚えるのでしょうか。
この【あめ、ゆき、はれ】芹沢 あさひでは、思うがままに振る舞う、つまり官能的な芹沢あさひと、それに付き合う和泉愛依、そして全体を通して二人の振る舞いを戒める黛冬優子の様子が見られます。
細かいところも見てみる
それでは、まず彼女たちの官能を阻害(ここでは自身による抑圧ではなく、あくまでもそれを引き起こしたモノとして、敢えてこう表現します)したもののうち、目立つものを見ていきましょう。
まずは『雨音に足音、声は掻き消え』の「期間限定・濃厚しょうゆプリンチップス」です。
芹沢あさひが興味を示している一方で、和泉愛依はやや引き気味でした。ポテトチップス自体は悪くないと考えているのですから買おうとするのが普通に思われます。
どうして和泉愛依は嫌がったのでしょうか?
僕としては、しょうゆとプリンの味が混ざったり、それがポテトチップスになっているというのがよく想像できないし、味同士が混ざって、よく分からない味の塊になる予感がして心配になりますから、彼女もそうだったのではないかと考えます。
続いて、黛冬優子からの二回目のメールです。
これを見て、タイミングと内容があまりにもその場にあっていたので、見られているような気持になりました。あり得ないことだとは分かっていますが、このあと夜更かしを始めたらまたメールで怒られるような未来も想像してしまいます。
その後、コンビニを出ると雨が降り始めていました。傘を差そうとしたら強風で折れてしまいます。これはシンプルに辛いです。
一方で、そういった官能への阻害があっても、それぞれ上手い代案を思いついているみたいです。
お菓子選びではポテトチップスやケーキではなく知育菓子を楽しむことにします。
傘が折れてしまったことに対しては、相合傘をして解決していました。
また、和泉愛依はそれらの官能を阻害するような出来事に困った表情を浮かべがちなのですが、一方で芹沢あさひは楽しそうにしています。
そして、そんな芹沢あさひの様子に影響されてか、和泉愛依も、明日の仕事を中止に追い込むかもしれない雪のことを楽しみに思う心境が残っているようです。
『雪解けの街がやって来る』では、黛冬優子が雪遊び官能的な振る舞いに及ぶ芹沢あさひを注意します。
曰く、怪我をして、「この先の仕事がおじゃんになる」ことを恐れているようです。
他にも、いつもと違って見える街の風景について話し始めた和泉愛依には「随分センチ」だと驚いています。
彼女の反応には、芹沢あさひへの注意にも含まれていたような心配──危機感が含まれているようです。
ここで、これまでの「官能への阻害」を伴わない形式で、黛冬優子は和泉愛依に問いかけています。
それに対して、「家族は『アイドルがいる』」と喜んでいたことや黛冬優子も来れば「『アイドルが二人』だ」と、芹沢あさひが来るのと同じように喜ぶであろうと言いつつ和泉愛依は笑っています。
『晴れ間に歌うは』では、またしても奔放な芹沢あさひに黛冬優子からの注意があります。
話の中で、芹沢あさひが和泉愛依と一緒の化粧水を使ったことを聞いた黛冬優子は、これについても叱責します。
これにも色々な理由があるようです。
例えばそれは、事務員の七草はづきのはたらきを無下にしてしまうことや、それぞれの仕事でのコンディションをできるだけ整えるべきだと思ってのことらしいです。
芹沢あさひはそういった準備をつまらないと感じるのですが、
確かに、そういうのは人間として、あるいはアイドルとしての義務なのかもしれません。
しかしながら、これに対しても和泉愛依によって、「和泉家に化粧水を置いておく」という解決策が提示されています。
どうやら、先日のお泊り会の際に芹沢あさひが購入した歯ブラシを和泉家に置いたままにしていることが発想の元になったようです。
さらには、黛冬優子の分も用意があるらしく、既に来るものとして考えていました。
彼女たちは黛冬優子に話を持ちかけます。
芹沢あさひは今から楽しみなようです。
改めて各話をまとめる
ここまで見てみると、各話で何を言いたかったのかが分かってくるような気がします。あらためて見ていきましょう。
『雨音に足音、声は掻き消え』
この話では、予報された雪を中心として、和泉愛依の期待が官能の抑圧へと移ろっていく様子が描かれていると言えるかもしれません。
黛冬優子からの「見ているかのような」戒めのメールや、自分の代わりに濡れてくれる傘が壊れてしまったことや……を通して、和泉愛依は冒頭ほどには無邪気な期待を持てなくなっているようです。
しかし、それでも雪を楽しみに思う気持ちはなくなりませんでした。
それは、例えば、一緒に注意の抜け穴になるお菓子が見つかったことや、相合傘を申し出てくれたことや、相合い傘をそれを楽しんでくれている人がいてくれたからかもしれません。
『雪解けの街がやって来る』
前話にて、大雪予報を受け仕事前日に寮に泊まったり、お泊り会の二人に繰り返し注意のメールを送ったり、何かと用心深いのが窺える黛冬優子が描かれています。
この話でも、今まさに雪に覆われた街で遊ぶ芹沢あさひに注意をし、昨夜の和泉家の様子を気にかけますが、それぞれの注意には何かしらの危機感があるようです。
雪で遊ぶのを注意したのは、芹沢あさひが怪我をして今後の仕事に支障をきたす可能性を感じてのことだと言っています。
振り返ってみれば、前話で二人に送ったメールでの注意──夜更かしをするな、油っぽいものやカロリーの高いお菓子は食べるなというものにも、明日の予定に悪い影響があるかもしれないと考えてのことらしく思われます。
そうであれば、ここで昨夜の和泉家の様子を問うたのにも、何かしらの危機感が、つまり「これから起こるかもしれないことへの恐れ」があると言えるかもしれません。
昨夜、彼女は仕事の日に大雪が降るからと、少しでも現場に向かいやすい寮に泊まりましたが、理想をいうならば芹沢あさひと同じように和泉家に泊まるべきでした。そうすればより仕事現場に着きやすくなりますし、メールなんて不確実な手段を取らずとも二人のお目付け役として働けたでしょう。
それでも和泉家に泊まらなかったのは、彼女の家族から疎まれるかもしれないと考えたためかもしれません。彼女は「騒ぎすぎてうるさいとか」と例を挙げているのですが、例を示す方法をとらないといけないくらい、どんなことで迷惑に思われるか予想することは難しいのです。
結果としては、芹沢あさひは雪遊びで怪我をすることもなく、昨夜のお泊り会は大いに歓迎され、大雪警報は嘘のように晴れ渡り……要するに、黛冬優子の取り越し苦労だったようです。
僕だったら悔しい気がしそうなものですが、黛冬優子は笑っていました。
そんな彼女に向けて芹沢あさひは雪玉をぶつけています。
この雪玉は、よく晴れた日の安堵を壊すようでありながら、同時に、まるで誘うかのようでもあります。
『晴れ間に歌うは』
このコミュでは、後日、雪の日とその前夜について事務所で話す三人の様子を通して、これまでに描かれた官能とその抑圧が、官能に取り込まれていく様子が描かれているように思われます。
このコミュでは、芹沢あさひが和泉家に泊まった翌日、自身から和泉愛依と同じ匂いがしたことに興味を覚えているようです。
和泉愛依の髪の匂いを嗅いでみて、その匂いがヘアコロンに由来するものだということが分かりました。
けれど和泉家に泊まった翌日は、髪だけではなくて、色々なものがいつもと違って、和泉愛依と同じ匂いがしたそうです。
そうした話のなかで、彼女が和泉愛依の化粧水を使ったという話をすると黛冬優子が反応します。
前話『雪解けの街がやって来る』にて示されたように、やはりここでも、いつも通りの万全な準備をするべきだという考えは、仕事で起きえる何らかの、予想できない物事への危機感に由来しているのかもしれません。
ここで、黛冬優子は「アイドルの義務」を主張します。
確かに、芹沢あさひたちのこれまでの行為を振り返れば、仕事の前日に夜更かしをすることや容姿に望ましくない影響を与えそうなお菓子をむやみに食べてしまうこと、怪我をしそうな危ない遊びをすることなどは、アイドルとして良い仕事をしようとするときにはあまり良いことではないのかもしれません。
そうすると、「アイドル」として生きる(これは社会で何らかの役割を負って生きていくこと全体に敷衍してもよいでしょう)のであれば、常に思うままに遊ぶのではなく時には苦しい我慢が必要になるということを示しているのかもしれません。
つまり、欲望に従って官能に耽るばかりではなく、それを適度に抑圧しなければいけないということを伝えようとしているのかもしれません。
しかしながら、ここでは和泉愛依からの申し出によって物事が解決します。
彼女は、自身の家に芹沢あさひの化粧水を置けばよいと言うのです。
確かに、そうすればお泊まり会を楽しみながら、黛冬優子の示した「いつも通りの良い準備をする」というアイドルの義務は少なからず達成できそうに思えます。
官能は、官能それ自体の働きによって抑圧を必要としない解決をもたらすようにも見えます。
そうしているうちに、和泉愛依は、彼女の準備に必要な様々なものを家に備え付ければ良いと言いました。さらには、黛冬優子にもこれを勧めています。芹沢あさひにそうしているように、彼女専用の歯ブラシが既に和泉家にあるそうです。
黛冬優子は、次のお泊り会に自身も参加するものとして芹沢あさひと和泉愛依の話が盛り上がっているのを見かねて、反駁します。
……するのですが、賑やかな騒ぎのなかで話はどこまでも進んでいきました。
芹沢あさひはそうした席のなかにあって、先ほど興味を抱いた、いつもと違う、けれどお揃いの匂い……くすぐったいと表した不思議な、なにかへの期待に胸をくすぐられるのでした。
コミュ全体を通してまとめてみる
これくらい各話のことがまとまってくると、『【あめ、ゆき、はれ】芹沢 あさひ』を通して、シャニマスくんが描こうとしたものの輪郭がなんとなく分かってきたかもしれません。
『雨音に足音、声は掻き消え』では、官能とその抑圧の発生が描かれ、『雪解けの街がやって来る』では、官能への抑圧が危機感に由来していることが示されました。そして『晴れ間に歌うは』では官能の抑圧が更なる官能によって有耶無耶にされていく様子が描かれているとも言えるでしょう。
この文脈を背景に、芹沢あさひは思うままに振る舞い、黛冬優子はそれらと自らを適宜抑圧しようと試みて、和泉愛依はそれを共に楽しんだり怖くなったりもして、そうして何かの予感に期待と恐れを抱きながら、彼女たちらしく雪の降る一日の周辺を過ごしていたのかもしれません。
コミュのよみかた
今回は、「官能」という言葉を中心にコミュを読みました。
そうすることで、何となくコミュの全体像を把握することができるようになったのかもしれません。
また、「こういう話だったのかな」と思い浮かべることで、ようやく気付けるようになる一つ一つの物事もあるかもしれません。
本当は、そういう物事の一つ一つについて「ここの表現がいいよね」という話をしたいのですが、どうにも文章では語り尽くせないところがあります。
そういうわけで、今回は「官能」というものを取り上げてコミュを読むに留めることとします。
言葉とその周りに結び付いている色んな意味や物事との関係について既に僕が知っていたのは見過ごせないことですが、そうでなくても、全体を通して表現したいことや、一つ一つの会話や、背景や、芝居や……に思いを馳せることを通し、プレイヤーとして何かを知ることができたかもしれません。
また、『【あめ、ゆき、はれ】芹沢あさひ』は、ストレイライトが登場してから比較的初めのほうに発表されたコミュです。
その後の彼女たちが過ごしていく日々のなかでは、今回取り上げてみた「官能」に限って言っても、描かれなかった様々な物事が今後描かれていっているのかもしれません。
そういうわけで、この記事で紹介したような観点も一つの観点として持ちつつコミュを読んでみてもいいのかなと思います。
あらためてイラストを見てみる、よく見てみる
せっかくだから、コミュとその全体像が分かったことで「この表現がいいよね」と思えたものを一つ紹介しようと思います。
イラストを見てみましょう。
画面には俯瞰視点からの景色が描かれています。
左下には両手を広げた芹沢あさひが後ろを振り返っています。彼女の視線の先、画面の中央から右側には和泉愛依と黛冬優子がいて、二人は先を行くユニットメンバーのことを笑顔で、あるいは何か注意するように口を開きながら見ています。
植え込みに挟まれた狭い道には、降り積もり、そして解けつつある雪があり、ところどころに固いアスファルトや、水たまりに映った空が覗かれます。
目を引くのは中央の和泉愛依でしょうか。ともすれば寂しげな雪景色のなかにあって、少女の派手な色彩が目に鮮やかです。畳んだ傘を手にして笑った息が白くなっている様子には、清澄な空気のなかにあってそれでも賑やかなやりとりが思われます。どこか雪の日に似つかわしくない色合いに思われたショッキングピンクは、しかしながら昨夜風に折れてしまった代わりの傘とそれに合わせた服装らしい。だからそれは間違いなく、道に残った白い氷晶のように、雪の降った日の情景であるらしい。
彼女の顔が向いた先には芹沢あさひがやはりまた笑っています。閉じたビニール傘を振り回して跳ねる天真爛漫な少女は、後ろの二人をどこかに連れていこうとするかのようです。
打って変わって、先行く二人を視界に収めて歩く年長の少女は、傘を開き鞄を脇に抱えています。パステルを基調とした服装ながらも、その鞄の色は芹沢あさひがこの前日に彼女に選んだ歯ブラシと同じであろうピンク色です。芹沢あさひはこのパステルから離れた鞄の色を──優しい印象に隠された鮮やかな彩りをこそ彼女の色だと思っているのかもしれません。
また、和泉愛依と黛冬優子は、ともにブーツを履いて水たまりを踏んでいます。ブーツは、泥濘から彼女たちを守っています。跳ね回る少女と対照に両足を地面に着けて小さく歩く黛冬優子の姿勢は、身に付けた自身の服を、アイドルとして綺麗でいるという義務を守ろうという心構えによるものなのかもしれません。
和泉愛依もまた、雪の前夜を過ごして、かまくらを作れるほどの雪や楽しいお泊り会の甘いケーキは、常に良いものではないと知ることになりました。
彼女たちが、この水たまりから一歩を踏み出すと、泥が跳ねて汚れてしまうかもしれない。そんな場所に彼女たちは立っています。
──彼女たちの踏んだ水たまりには光を孕んだ空の色が映っています。黛冬優子の傘に遮られた陽の光は、僅かに足元を照らすばかりではありますが、彼女の表情を眺めていると、傘を閉じた二人にそうするのと同じように、雨と雪との痕跡に照り返って、彼女の顔を照らしているようにも見えます。
先を行く少女の眼差しもまた、晴れわたる世界の光を帯び、輝いているのかもしれません。
あとがき
これで今回の記事はおしまいです。
ところどころ冗長なところのある長い記事で、引用や参考文献の表示についても、「この記事との関係が察せられてアクセスさえできればいいんじゃない?」という感じの、とにかくいい加減な体裁の記事になりましたが、それでも目を通していただき、ありがとうございました。
繰り返しにはなりますが、「シャニマスのコミュは面白い」と思います。
ぼんやり眺めているだけで素敵だなと思えるものや、込み入ったプロットのあるもの、一見すると特に何も起きなかったように見えるものもあれば、劇的な出来事の陰に変わらないものがあったりするもの……「気まぐれに選んだコミュがどうしようもなく退屈だ」ということを気にしなくていいのは随分と嬉しいことです。
また、僕はこの記事で紹介したような視点でコミュを読むこともします。
このようなたのしみ方は、本作の制作プロデューサー高山祐介さんが、シャニマスに描かれる人々の、いわゆる実在性についてのインタビューで仰っていた「シナリオチームの皆さんは、シナリオを『描いている』や『考えている』ということをあまり口にされません」という言葉を鑑みると、どこか不誠実なものなのかもしれません。(「『シャニマス』開発スタッフインタビューシナリオ編。アイドルたちの物語は“描く”というより、監督として“カメラで撮影する”感覚。実在性の高いシナリオを制作するためのこだわりに迫る」──ファミ通.com、2024.5.8 17:15)
一つ一つの描写や全体の描写を見て、「制作者の彼らはこのようなことを表しているのではないか」と考えることは、シャニマスに登場するアイドルを含む人々が「制作されたキャラクター」であることを前提とするものだからです。
「彼女たちは『描かれたもの』であり、『考えられた』キャラクターである」
……もしかしたら、彼女たちは架空の存在で、私たちの生きるこの世界にはいないのかもしれません。
──ただ、彼女たちの抱いたこれから起こることへの期待や、何が起きるか分からない恐れや、そんな未来に備えておこうとすることや、そういう準備が取り越し苦労に終わって笑ってしまうようなことなどは、私にも、確かに、何度も覚えがあります。
そういう意味では彼女たちは、紛れもなくそこに生きているのでしょう。
最後に、シャニマス制作プロデューサーの高山祐介さんへ、僕の心からのメッセージを添えてこの記事を終えようと思います。
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ありれるれん