見出し画像

勝手にロックダウン日記 虹色の雪  (5/23)

この間、近所のブックカフェにふらふらと吸い込まれてしまった話を書いた。

あれを境にして、自分の中で少し何かが変わった気がする。それまで、とにかく自分の生活はどんどん内へ内へと閉じていく感じだったが、あの瞬間、そのドアが少しだけ外に向けて開いた。たぶん4月7日に自分の中のドアをバシッと閉じ、開口部を3%くらいに減らしたしたわけだが、それを13%くらいにしようかな、という程度の変化が起こっている。これが「気の緩み」というものなのだろうか。うん、そうかもしれないし、もしくは「with コロナ」とか「新しい生活様式」と呼ぶものなのかもしれない。

刻々と空気が変わる中で、自分自身も変わり続けている。この生活に慣れた部分もあれば、いつまでも慣れない部分もくっきりしてきた。

発狂せずに生きるためには、たまに外でお茶くらいは飲みたい、というのも本音だったし、それでも人混みには行きたくない、というのも本音だ。その間くらいで自分は揺れ動いている。それにしても、近い将来、娘は保育園に戻るだろうし、Iくんも取材に出かけ始めるだろう。そうするとまた別の不安が出てくるに違いない。

さっき、妹から「近い間に一度、母を交えて家族で集まらない?」という提案があった。人が街に溢れるであろう6月以降よりも、真面目にStay Home生活をしてきた今の方が安全だろうから、いまのうちに一度顔を見てゆっくり話をしておこう、というのがその理由だった。
うん、そうしよう、それもいいね、と私は答えた。
確かにその通りだなと思った。

やれやれ、まったくなんて先が見えない世界に私たちは生きてるんだ。

ま、こんな生活の中でも、幸いにして娘は朗らかにすくすくと育っている。昨日は「絵を描きたい」と言うので、水彩絵の具で絵を描いて午前中を過ごした。

最初に一緒に描いたのは、娘が大好きな「お城」の絵。

「お城の1階には、おうさまとおきさきさまがすんでるの。それで2階はたからものがいっぱいあるの。3階はおひめさまの部屋なの。ママは二階にたくさん宝物を描いてよ」(娘)
「宝物ってどんなもの?」(私)
「ネックレスと金ののべぼう」
「金ののべぼうなんてよく知ってるね。絵本で知ったの?」
「うん、かいけつゾロリに出てきたよ」
「ほかには?」
「わかんない。宝物は、ママが考えて。私は十字架と防犯カメラ描く」
「十字架ってどうして?」
「ドラキュラがこないようにだよ」
「なるほど、にしても、防犯カメラなんてよく知ってるね」
「うん、おしりたんていに出てきたよ。早く、早く。ママは宝物を描いてよ」
「うーん、なんだろ。そう言われてみれば、ママにとって宝物ってなんだろう。宝石とか持ってないし」
「ママの宝物? そんなの簡単だよ、ナナ、わかるよ」
「え、なに?教えて!」
「ママ、いつも言ってるじゃん。ママの宝物は、わたしだよ!」

わははは! これには大爆笑した。
確かにいつも言ってる。私にとっては娘こそが宝ものだよって。
しかし本人からなんの躊躇いもなく言われると思わなかったわ。
娘は爆笑した私を見て一瞬キョトンとしたあと、何がおかしかったのだろうか、という顔になりまた絵の具でお城の続きを描いた。

その後、娘は二種類以上の絵の具を混ぜると新しい色ができることを発見した。赤と青を混ぜると紫。赤と黄色を混ぜるとオレンジ。赤と白でピンク。
「すごーいいいい!」
これは、まさに世紀の大発見だったようだ。
「すごい、いろんな色ができるよ!!!」
興奮しながら、パレットにどんどん絵の具をだし、惜しげも無く混ぜ合わせる。色数が増えるごとにどんどんどす黒くなっていくので、ちょっともったいない気がしたけれど、自由にやらせた。
そうして、たくさんの新しい色を作ったあと、娘は指に絵の具をつけて画用紙に何かをペタペタを塗りはじめた。画用紙にはいろんな色のドットが増えていく。

何を描いてるのかな?
「えーと、これは虹色の雪」

私は、ひとつとして同じではない色のドットが描きつけられていくのを、ぼんやりと見ていた。

混じる、混ざる、交じる。
いいよなあ。そうそう、私たちは交わりたいんだ。
一色でもなく、二色でもなく、無数のグラデーションのなかで暮らしたい。大切なものを真ん中に抱きしめながら、たくさんの色に囲まれて暮らしたいんだ。
虹色の雪。
降るといいね。
そのうちね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?