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勝手にロックダウン日記 なんだか混乱する (5/7)

5月7日だ。勝手にロックダウンが始まって早1ヶ月だ。そして、みんなにとっても緊急事態が始まってほぼ1ヶ月だ。
これまで、あちこちのお店のシャッターには「5月6日まで休業します」の文字が貼られているところがおおかった。しかし、連休中に緊急事態宣言が続行が決定し、東京都も引きつづき休業協力を要請。「5月6日まで」は5月31日になるのかなと思った。

ところである。いつも通り恵比寿の山小屋に仕事にきてびっくりした。
いままでお休みだったお店もちらほらと開いているではないか。そしてなにより、歩いている人の数が桁違いに多い。明らかに通勤する人たちである。そして、お昼頃に貼ると近所のラーメン屋も定食屋もなんと満席の様子。行列ができている店もある。なんといきなりこの街の活気はもとの50%程度までどーーん!と戻った印象である。(さすがに駅ビルは閉まってるけどね)

なんだなんだ?日常が戻りつつあるのか?
私はすっかり混乱した。そして、ちょっと考えて納得した。

日本はそもそもの検査数が圧倒的に少ないから、コロナ感染拡大状況の全体像が掴みにくい。そして連休中は検査数はさらに少なく、一部メディアも「東京の感染者数は連続二桁」といったような、非常にミスリードなタイトルの記事を出している。二桁で当たり前じゃん。そのそも、検査数がめちゃ少ないんだからさ。

3日 399人検査、91人陽性
4日 219人、87人
5日 109人、58人
6日 65人、38人
7日 23人陽性

陽性者の数だけを見ると、「収束に向かってる、よかったねー」という雰囲気だけが造成されてしまうので、ミスリードもここまでくるとめちゃくちゃ腹立たしいわ。


だいたい政府は、この緊急事態宣言解除の基準も出口戦略もまだないらしい。全体像も基準もない中で、ただ「緊急事態だぞー!Stay Home!」って言ってるってことか? 
おかげで、どんどん「緊急事態」の説得力が薄れつつあるし、同時に、自粛を続けるうちに人はなんとなくコロナライフに慣れつつあるのだろう。

ああ、もうそろそろいいですね、これ以上休めないわな、1ヶ月頑張って感染者も減ってるようですしね、いいお天気ですね、みたいな感じでなし崩しに通勤やら営業が始まっているとしか思えない。うーむ。。。

まあ、いいや。。。まだ実像が見えないし情報もないのだから、こうなると自分が直感で信じた道をいくしかないよな。私が思うには、東京はまだコロナは収束から程遠いような気がするんだよなあ。だから、自分は、自分が納得する日まで勝手にロックダウンを続けようと思う。

ということで、テイクアウトランチを食べながら、矢萩多聞さんがやっている「本とこラジオ」を聞く。今日のゲストは映画「タゴールソングス」の監督、佐々木美佳さん。

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noteでもちょいちょい触れてきたが、「タゴールソングス」はなかなか規格外の映画である。タゴールという100年前の詩歌の哲人の歌がどう現代のインドやバングラデシュで歌い継がれているのかということを追ったもので、一見するとマジメでマニアックすぎるテーマだが、その偏見を優しく覆すような不思議な魅力をもっている。コルカタやダッカの喧騒を眺めているうちに、なんだかよくわからん世界に連れ去られ、映画世界にふんわりと巻き込まれていく感じがある。そして、その巻き込まれた世界が、なんとも心地よい風が吹いているのだ。

私は10年前に「バウル」と呼ばれる人々の歌を探しにいき、その時にタゴールの家も見にいった。そもそも、タゴールはバウルの影響を多大に受けていると言われている。彼が作ったバングラデシュの国家も実はゴゴン・ホルコラという若いバウルが作った歌をもとにしたものらしい。そんなこともあり、私はこの「タゴールソングス」を見ながら、歌の力により心も体も洗われてていくようなあの感覚、マンゴーの香りがする優しい風をしきりに思い出していた。

このコロナという苦しい時代だからこそ、時に絶望しそうな人生の中で、人々が歌を拠り所にして生きる姿は胸を打つだろう。ただ、アンラッキーなことに、「タゴールソングス」の封切りははコロナの感染拡大の時期と見事に重なり、まだ劇場での上映スケジュールは未確定だが、立ち上がったばかりの「仮設の映画館」に参加し、見れるようになったので、ぜひ見てもらいたい!

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いい機会なので、ついでに私の「バウルを探しに」ついても書いておこう。「バウルを探しに」は2013年に幻冬舎から発売され、2015年に文庫化された私の2冊目の本だ。

写真家の中川彰さん、そしてベンガル人のアラムさんと一緒に、謎めいた歌「バウル」を探してバングラデシュを旅した日々の記録である(タゴールも出てくる)。

文庫版の解説は「はぐれノンフィクション軍団」の隊長の高野秀行さんが書いてくれたし、また、思いがけず新田次郎賞を受賞したりして、我ながらとってもいい本だと思うのだが、実は一度も増刷されたことがなく、手に入りにくい状態が長く続いていた。しかし、きっと地道に売っていけば、いつの日か必ずや増刷してもらえるに違いない!と思っていたわけだが、去年、編集の大島さんとやりとりするうちに、もはや増刷の見込みは極めて低いという版元の意向がほぼ明らかになった。この本はこれ以上刷っても売れないだろう、と営業から判断されたのだ。

がーん、そうなのか! アッパーパンチをくらったような衝撃だった。

この本は故・中川彰さんの遺作ともいえるもので、この本がなくなると、彼もこの世からいなくなってしまう。こうやって本って死んでいくのか、悲しいなあ。。。。

そんなことを先の矢萩多聞さんと話すと、「それだったら、もう一回出せばいいんですよー!」という。
ん、そんなことできるの?
「三輪舎がいいと思います!」
という彼の一言ではっとした。
「なるほど!それはいいかもしれない」

なにしろ、三輪舎はすでにベンガル関係の本を出している。

そして、ひとり出版社なので、きっと長く大切に扱ってもらえるんじゃないかな、という勝手な予感があった。そして同時に、三輪舎とならば、いままでの幻冬舎版とは全然違う本が作れるかもしれない、という予感が走った。私には、実はまだ秘蔵のコンテンツがあった。

幻冬舎版には、中川さんの写真はほとんど収録されていない。中川さんが亡くなったあとも、100枚以上の手焼きの写真が保管されていたが、そのなかでいまの本に収録されているのは、ほんと6枚くらい。しかもモノクロでトリミングされたものだ(彼が生きてたら怒ったかもしれない)。しかし、オリジナルはフィルムで撮ったとてもいい写真なのだ。せっかくなので、あの写真に光を当てたい。これを機に、彼の写真をちゃんとした形で収録した新しい「バウルを探して」を出せないものだろうか!!

問題は、三輪舎の中岡さんが、すでに2回も世に出た本をもう一度出す、しかも、大手版元に売れないと判断された本をさらにスケールアップした形で出す、というクレージーな決断をするかどうか、だけである。すぐに中岡さんと会って話し、写真を見てもらうと。

なんと、中岡さんは予想通りにクレージーであった。すぐに「うちでだしましょう」と言ってもらえた。

やったああああ!!! 

これには、もともとの編集者である大島さんも喜んでくれた。彼女も「バウル」のことを好きでいてくれて、密かに本が増刷されないことを残念に感じていたのだ。こうして、版権を移し、「バウルを探して 完全版プロジェクト」(三輪舎)が立ち上がったのが1年前。ブックデザインは、その成り行き上、多聞さんである。

こうして、今年の4月15日の発売を目指した。しかも、とても贅沢な仕様の本になり、写真のセレクトも終わり、デザインも進み(かっこいカバー!!)、ゲラも再校までいって、校了まであと少しだぞ、走り抜け! というところまでいった……ところで、いまコロナの影響で、プロジェクトは少し立ち止まってしまった。もはやどうなるかわからないまま、発売日は延期を重ねている。これが、「バウルを探して 完全版」の現状である。

しかし、決して遠くないいずれの日かに、必ずやみなさんにお届けできると信じている。(すでに書店さんも注文を入れてくれてるし、きっと中岡さんからもなんらかのアナウンスがあることでしょう!)

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(カバーデザインを選んでいる時の様子。ただし、最終的なものはこの写真の中にはない。お楽しみに)

夜、家に帰ると、娘と夫がドーナツを作って待っていてくれた。ケーキを作ろうとしてけど、卵がなく断念し、結果ドーナツになったらしい。ほんのり甘くて、おいしいドーナツだった。




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