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タランティーノに絶対実写化してもらいたいアニメ「Black Lagoon」

2020年4月20日(月)

【Day 32】

月曜日。どこに行くわけでも、定時に仕事が始まるわけでもないのに、憂鬱な気持ちになるのはなぜだろうか。もしかしたら、夜遅くまでNetflixでブラックラグーンを見てしまったからかもしれない。

ブラックラグーンは一言で表すならハードボイルドアクションの部類に入るアニメだ。犯罪や殺し、テロなど重いテーマの内容が多いため、まとめて見ると緊張から解放された時にドッと疲れるのだ。

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舞台はタイにある架空の犯罪都市。凄腕の女ガンファイター、武器を商う教会のシスター、傭兵崩れのロシアンマフィア、元テロリストのメイド……そんな世界にひょんなことから日本人のサラリーマンが放り込まれ、訳ありの運び屋一味になる——この荒唐無稽さ、クエンティン・タランティーノあたりが実写化したら、相当面白いものになると思う(あるいは、原作者がタランティーノに傾倒していたからこその作風という可能性もある)。

だが同時に、リアリティを伴った緻密な舞台設定や、ボキャブラリー豊かで(単語自体は汚いにも拘らず)知的な台詞回しが物語に説得力を生んでいて、ついつい引き込まれてしまう。

そんな作品だから、心に残る名台詞がやたらと多い。

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例えば、主人公の一人レヴィが、サルベージのために潜入した沈没潜水艦の中で、乗組員の髑髏と軍服の勲章を並べて、もう一人の主人公・ロックに「これはなんだろうね」と尋ねる。ロックが「勲章と髑髏だ」と答えると、レヴィはこんなセリフを語り始める。

これはモノだよロック。とことん意味を還元していけば、残るのはその言葉だけだ。モノって単語だけだ。そこんところで改めて価値を付け直すとしたら、それは思い出なんて世迷い言じゃねえ。それは万人が認める共通のテーマだ。金だよ。それ以外の価値なんざ、感傷だらけの戯言だ。

金は神か?とうろたえるロックに、レヴィはさらにこう畳み掛ける。

力だよ。神よりよっぽど役に立つ。ロック、こいつをのぞいて何に価値を求めるんだ?あんたは。神か?愛か?笑わすぜ。あたしがクソガキ時分に地べたを這いずり回っていたあのクソ溜めじゃあ、どういうわけか神だの愛だのはいつも品切れでね。モノの分からねえ時分にゃ、神様に泣いてすがったりもしたものさ。ま、そいつを信じられたのも、無実の罪でお巡りに半殺しにされた夜までだ。

設定的には英語をしゃべっていることになるのだろうが、どことなく落語のようなリズムの台詞回しがクセになる。


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作品の枠を飛び越えて、アニメ史上最恐の女性キャラクターとも評される、ロシアンマフィアの女ボス・バラライカさんにはことさら名シーンと名台詞が多い。

特に記憶に残っているのは二つ。

共産政権時代、ルーマニアの無計画な人口増加政策によって「チャウシェスクの落とし子(これ自体は史実)」と呼ばれる孤児となった双子の殺し屋と抗争し、自らの軍隊を率いて双子の弟を追い詰めた時のセリフ。

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(僕たちはいっぱい殺してきたから永遠に生きられるという弟に)

それがお前の宗教か。素晴らしい考え方だ。だが正解は、歌にもある通り、“No one lives forever”、そういうことだ。さて、私はひどくお前を責め抜いて殺してもいい。部下のことを考えれば釣りの上に特典がつく。だが、あいにく私はお前のように下品ではない。だから私はお前が死ぬのをただ眺めることにする。その銃創ではもって10分だ。お前がこの世を去る数分を、サハロフ、メニショフ両名の鎮魂に充てる——お前には、わからんだろうな……

このセリフを聞いた時、「何かを信じてそれを拠り所に行動する行為」、そしてそれをもって人を惹きつけることは全て宗教なんだ、とハッとしたことがある。例えば、会社なんかはある意味そうだろう。特にスタートアップは宗教的な色合いがどうしても強くなる(これは別に悪い意味ではない)。


さて、バラライカさんのもう一つのセリフは、女子高生が組長となった弱小ヤクザと大きな組の抗争にホテルモスクワ(ロシアンマフィア)が加勢した時に、ロック(彼は日本人だ)を通訳として抜擢したエピソードから。

自分の生き方を選べず、そうなるしかなかった女子高生組長に感情移入しすぎて、ロックは単なる通訳という立場を踏み越えバラライカさんに抗争を止めるべきだと進言してしまう。

彼女をキレさせたトリガーは、「あなたにも守るべき正義があるだろう」という言葉だった。

バラライカさんは片手でロックの胸ぐらを掴むと駐車中の車のボンネットに叩きつけ、額に銃を突きつける。

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正義か。これほど万人に愛される言葉もないな。素晴らしい言葉だ。しかしな、自分の力を行使するわけでもなく、他力本願で誰かの死を願う。お前の言う正義だって随分と生臭いぞ。血だまりの臭いが鼻につく。そう思わないか?

これに対し、ロックは「あんたの勝利は確実なのに、まだ足りないのか」と食い下がる。

そして、この後バラライカさんは最恐の片鱗を見せるのだ。

足らないな。命を乞う時のコツはふたつ。ひとつは命を握るものを楽しませること。もうひとつはその人間を納得させるだけの理由を述べることだ。お前はまだどちらも満たしてはいない……さあ踊れェ!!そこまでして助ける義理がどこにある?

ここは、背後でバラライカさんの部下とロックの用心棒として付いてきたレヴィが銃を突きつけ合っていたりもしていて、そこまで含めて非常に緊迫感のある名シーンなのだが、バラライカさんのセリフだけを抜き出して見ても、結構世の中の真理をえぐっている気がしてならない。

自分の力を行使せず他力本願で正義を振りかざす……Twitterあたりで毎日見るシーン、とも捉えることができる。

命を乞う時じゃなくても、決裁権を握る人間に対して何かを交渉するなら、楽しませるか、納得させるか、というのはビジネスでも同じだろう。

ちなみに、バラライカさんのCVは小山茉美さんである。小山さんの別の代表作は、鳥山明のドラゴンボール以前の名作、ドクタースランプの則巻アラレちゃん。そっちも別の意味で最強キャラだ。

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「んちゃ!」からの、

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「さあ踊れェ!!!」。

そのギャップを知ると、バラライカさんの迫力がより一層楽しめること請け合いである。

アニメの実写化はよくコケるが、これほどそのままのイメージをしっかり保って実写化が成功しそうな作品もなかなかないんじゃなかろうか。あー、誰かタランティーノに実写化を掛け合ってくれないかな〜……と、やっぱり他力本願で願ってみる。


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