見出し画像

「信頼のブロック」を積み上げる

2020年5月11日(月)

【Day 53】

昨日作ったカルボナーラは卵黄10個使用していたから、余った卵白をどうするか悩んでいた。アッコの手前、捨てることは許されない。

昨日のうちに長女が機転を利かせてメレンゲクッキーとラングドシャを作ってくれたが、それでもまだゆうに7、8個分ぐらいの卵白が残っている。

僕は、昼食時に長女に頼んでみた。

「もっちゃん、今日はシフォンケーキ焼いてよ」

「えー、やだよ。おとうがやれば?」

頼みの綱の長女も、今日は気乗りがしないようだ。かく言う僕も気乗りがしないのだけれど。

その時、次女が割って入ってきた。

「ハイハイハイ!むにーがケーキつくる!」

「……」(僕)
「……」(長女)
「……」(アッコ)

こんなにも乗り気な次女を前に、誰も首を縦に振ろうとしない。なぜなら、次女には難しいと、三者三様に考えているからだ。

もちろん、サポートがあれば、次女だってできるだろう。先日はアッコのサポートを受けて立派なラザニアを完成させている。

しかし、週末ならともかく今日は月曜日で、アッコはもちろん、僕にも色々とやることがある。つまり、サポート体制が作れないということだ。

長女の場合は、iPadを操って、勝手に自分で適当なレシピを見つけてきて、全ての工程を1人で完結させることができる。だからこそ、長女に頼んだのである。

みんなのツレない態度を見て、案の定次女が駄々をこね始めた。

「なんでもっちゃんはよくてむにーは作っちゃダメなの?」

「むにーには無理だね」

長女が身も蓋もない言い方で次女をシャットアウトする。

「むにーもできるもん!」

なおも食い下がる次女を、僕はなだめようとした。

「むにーの場合は、また今度お休みの日に何か一緒に作ろう。さ、ご飯早く食べちゃって。机の上にいっぱいこぼしてるから、それ拾って」

しかし、むくれている次女は、机の上に溢れた食べカスを拾おうとはしない。

「むにーだって作れるのに」

僕の言葉を完全に無視して、恨み言を呟くばかりである。

いつもなら瞬間的にイラっとして鋭い言葉を発してしまう場面なのだが、今日はここで一つ深呼吸をして、噛んで含ませるように言い聞かせることにした。

「むにー、聞いて。なんでむにーがシフォンケーキを作れないかと言うと、まだ『信頼のブロック』が積み上がってないからなわけ」

次女は相変わらずむくれていたが、「ブロック」という言葉に少しだけ反応した。やはり。レゴが好きで、TVでも「レゴマスター」を楽しみにしているだけある。実際、そこを狙っての言葉選びでもあった。

仕事でも大事な「信頼のブロック」

「ママとかおとうが、むにーにやってほしいことを言ったりするでしょ?例えば今だったらこぼしたご飯拾いなさい、とか。なんでうるさく言うかというと、それは『むにーだったらできるだろう』と思っていることだから。難しい言葉で言うと「期待値」って言うんだけど。

期待値は一人一人に対して違うけど、むにーに対して『これならできるだろう』と思って言っていることは、それぞれがちっちゃな“信頼”というブロックのピースなわけ。ママとかおとうから言われたことを、むにーがスッとやるたびに、信頼のブロックが積み上がって、だんだん大きくなっていくわけ。

その繰り返しで、信頼のブロックが大きくなったら、むにーがやれることは増えるのね。例えばシフォンケーキを1人で作るのもそう。iPad買ってもらえるのもそう。信頼のサイズが大きくなればなるほど、やらせてもらえることが増えていくわけ。

でも、もし全然やらなかったり、やったとしてもすごいイヤそうにやったり、『なんでみぱはやらないの?』みたいな感じで人と比べたりしていると、そのブロックは積み上がらないわけ。だって、おとうたちは、むにーならできるだろう、っていうことを頼んでいるわけだから。

これは、年齢とかは関係ないから。むにーより大きい子でも、全然ブロックが積み上がっていない子もいるかもしれない。逆に、むにーより小さい子でも、ブロックをどんどん積み上げられる子もいるかもしれない。

それから、ブロックが積み上がって大きくなった時は、やれることも増えるけど、同時にやらなきゃいけないことや考えなきゃいけないことも増えるからね。なぜなら、信頼が大きいっていうことは、より難しい期待に応えられるっていうことだから。

これ、むにーが大きくなって、仕事をするときも同じだからね。お仕事でお給料もらうのも、楽しい仕事をむにーに任せてもらえるかどうかも、全部『信頼のブロック』で成り立ってるから」

——ああ、俺、なんだか今いいこと言ったぞ。

子供に何か言い聞かせる時、例え話がピタリとハマると、心地よい陶酔感を味わえると感じるのは決して僕だけではないハズだ。

ブロックの例えがよかったのか、次女は想定以上に僕の話を真面目に聞いている。もしかしたら、早速1ピース、信頼のブロックを積もうとしているのかもしれない。

次女が素直に耳を貸していることが余計にそうさせたのか、意気揚々と食事を終え、鼻歌交じりに食器を片付けていると、ふとした不注意のせいで鍋にためていたお湯を派手に床へブチまけた。

「あーーっ!」

僕の素っ頓狂な叫び声を聞きつけ、アッコがキッチンに駆けつけてきた。アッコは、床を拭こうと僕が手にしていた布巾を奪い取ると、おもむろに周囲を拭き取り始めた。

「ああ、いいよ、俺がやるから」

「お湯がこの引き出しの中とかにも入り込んでるでしょ?おとうはこういうの絶対に拭き残すから、これは任せられないね」

……えぇ……( ;´Д`)

結局のところ、どんなにいい事を言っていても、アッコに対する僕の信頼ブロックは、まだ全然積み上がっていないのである。

ついでに言うと、結局シフォンケーキは僕が作る羽目になったという……

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?