第11話 エッセイ『祖母のあじめし』

「わ、わ、わし、い、いつ死ぬかわからへんでな」
吃り癖のある祖母は、皿を差し出しながら、ニカっと笑って言った。
おにぎりがいくつか乗っていた。
「あ、あ、あじめし炊いたぞ。ほれ、焦げのおにぎりや」
あじめしとは、炊き込みご飯のことだ。
ガス釜で炊くので、あじめしでもお米はつやつやと立った。
祖母は釜の焦げを集めておにぎりを握り、私や弟に出してくれた。

祖母の作るあじめしは、味が濃くて実に美味しい。
焦げの部分はこんがりと醤油が照り付き、頬張ると、口いっぱいにふくよかな香ばしさが広がる。出汁がよく染み込んだ牛蒡や蒟蒻、鶏肉は、噛めば噛むほど旨味が滲み出て食欲をそそる。
育ち盛りの私と弟は、ガツガツとおにぎりにかぶり付いた。
「旨いか。そうか、そうか」と言い、祖母はまたニカっと笑った。

祖母は、正確には私の大叔母にあたる。嫁に行かず、大家族で店を切り盛りする実家の家事を一人で担った。
吃音に加え、病気の後遺症で身長は120センチほどだった。
時々、客や家の者からその外見をからかわれた。
それをただにやにやと笑ってやり過ごす小さな祖母を見て、幼い私は祖母に気づかれぬよう、隠れて泣いた。

「いつ死ぬかわからんへんでな」と言ってあじめしをこしらえ続けた祖母は、ある日、本当にぽっくりと亡くなった。

大人になり、祖母のぬくもりを求めてあの味の濃いあじめしを作ろうとした。しかし、何度作っても、ただ塩辛いだけだった。
「ほれ、ほれ。作れるうちに作ってあげられて良かったわい」
ニカッと笑う祖母の顔が浮かんだ。

(600文字の短文エッセイ テーマ『味覚の記憶をたどる』)

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