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ガンアンドコフィン

 校舎に入った瞬間から何か様子がおかしかった。
 教師も生徒も誰もいない。
 中学校が無人になる時間にはあまりにも早すぎる。
 三階の教室を横から夕陽が不気味に照らす。

 そして、一人もいない生徒の代わりにいたのが、ゾンビだ。
 青白い病的な肌で、のしのしと緩慢に動く生ける屍。

「なんでっ、なんで学校にゾンビがっ!」
 それと目があった瞬間に、それまで恐怖のあまり立ちすくんでいた少年は一目散に教室の外へ駆け出していた。
 遅れてゾンビたちが足音に気づきノロノロと追いかけてくる。
 少年は走る。息を切らしながら階段へとたどり着き、転げ落ちるように下る。
 喉の奥はひりつき、脚は悲鳴を上げている。
 それでも、なんとか一階まで逃げ切った。
 玄関は階段のすぐそばであり、下駄箱が見えると一直線に速度を上げた。

 しかし、その直後何かに躓き、その場に倒れ込む。
 足元を見ると、またしても学校に似つかわしく無い物があった。
――棺桶である。
 躓いた弾みで蓋が外れている。中には死体などは入っておらず、代わりに一つの拳銃が。
「何で学校にこんな物が……」
 吸い寄せられるように拳銃を拾い上げる。銃器の類は詳しくないが、彼にも年代物であることが分かった。
「オオオオォォォ!」
 突如聞こえる唸り声。振り返ると、一体のゾンビに接近を許していた!
「ウワァァァ!」
 無我夢中の反射的行動であった。絶叫と共に銃口を向け、引き金を引く。
 銃声。瞬間、弾丸がゾンビの額を貫く。それは力を失いフラフラバタリと倒れる。

「何がなんだか……」
 学校に突如現れたゾンビ、棺桶、拳銃。彼の頭は未だ混乱の中である。
 ふと棺桶を見る。蓋にはアルファベットが刻まれていた。

――DJANGO
「ド……ドジャンゴ?」

『ジャンゴだ。Dは発音しない』
「エッ⁉」

 己の耳を疑った。聞き間違いでなければ、今の声は目の前の空の棺桶から聞こえたのだ。

――棺桶が、喋った。

《続く》

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