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スタートアップでの10年と、これからの旅

先日29歳の誕生日を迎えたとともに、スタートアップ/ベンチャーという世界に飛び込んで、今年で10年目を迎える。
自分にとって大きな節目であるこのタイミングで、これまでの振り返りと、これから取り組む大きな挑戦について筆を執ろうと思う。

19歳、スタートアップ人生のはじまり

自分がスタートアップの世界にどっぷりと入るまでにはいくつかの原体験のようなものがあったが、背中を押された、という意味でビジョナル社(当時のビズリーチ社)の影響は大きい。

当時ビズリーチは渋谷の桜丘の坂の下、ファミマの上だったか(と記憶している...)に入っていて、代表の南さんが初の著書を出すにあたってのお手伝いで、少しだけ出入りさせてもらった。当時のビズリーチは、まだ10代だった自分の想像する「会社像」へのアンチテーゼのようで、いろいろな企業の方々が週末にやってきては「草野球感覚(南さんがそうおっしゃっていたのをよく覚えている)」で事業を作っていた。

当時、デザインとSEOで少しばかりの受託をしていたものの、アルバイト三昧の毎日を送っていた自分にとって「働く」という概念を叩き壊されたような衝撃と、底知れぬ高揚感を覚えた。

セイコー六本木ビルでの日々

ほどなくして知人の紹介で、当時スタートアップの聖地だったセイコー六本木ビル(CAMPFIREやフリークアウトなどが入居していたシェアオフィス)へと赴き、『くらしのマーケット』を運営するみんなのマーケット社でお世話になった。当時、このオフィスの皆さんはもはや仕事をしているのかふざけているのかすらよくわからず、アンリさんの著書にもあったが(自分もちょっとだけ登場させていただいた)、まさしくカオスだった。

当時はとにかくサービスの初動をどう作るか、とにかく手を動かして考えていて、一日中あらゆるサービスのUI/UXやマーケティング施策を眺めては良さそうなものを取り入れてみる、といったことを繰り返していた。物が飛び交ったり人が倒れたりしている奇怪なオフィスの中、はじめての世界に飛び込んだばかりの自分はとにかく目の前の仕事に熱中していた。

蓋を開けてみれば当時あの場に集まっていたスタートアップは片っ端から成功しており(あらゆる努力は当然理解しているが)、狂気のような執念で10年向き合い続けるということの重要性を、身を持って実感している。
この頃から自分の中に、なにかに全力で挑戦したいという「熱」のようなものを意識し始めた。

スタートアップでの武者修行とMERY

ほどなくして起業を考えたが、当時はまだサービスの作り方、伸ばし方を学びたいという吸収欲が勝った。昼間はラクスル(やすかねさんは当時から圧倒的だった)、オーマイグラス(めがねシャチョウお元気そうでなによりです)、STORES(いまではheyとして社会インフラになりつつありますね)といったスタートアップでお手伝いさせていただき、夜はフリーランスとして受託に勤しんだり、趣味でサービス開発をしたり、文字通り寝る間を惜しんで働きまくった。

ある程度自信が付いてきたのもあり、いよいよということで起業のテーマを考え始めたのだが、当時フリーランスとして関わっていたperoli社で毎晩のように「一緒にやろうよ!」と誘われ続けた結果、創業メンバーとして入社し、一緒にMERYをつくり、伸ばし、DeNAへのM&A〜PMIを経験した(この辺は書くと長いので一足飛びに)。

この頃になると、自分の経験してきたあらゆることを(起業するかどうかは別にしても)、もっといろいろな事業に活かせるのではないか?という気持ちを持つようになり、エンジェル投資をはじめた。自分の投資スタイルは、求められなければ無言、求められたらどこまでも。数年連絡を取っていない会社もあれば、投資先のコードを書くこともあったし、デザインを教えることもある。自分の培ってきたものが投資先に活用され、成長していく。Exitも、何度か経験させてもらった。エンジェル投資はとにかく楽しかった。

行き詰まって見つけた熱

そんな折、あらゆることに深くのめり込み過ぎたせいか、とにかく頻繁に体調を崩すようになった。仕事にも集中できず、家で倒れているだけの毎日。しまいには家で倒れているのもつらくなり、山奥に療養に行ったり、各地を転々としながら体調がよくなるのを待ったりした。スタートアップの世界に足を踏み入れて5年、初めて立ち止まって、自分と向き合うだけの時間を過ごした。

そういう時間の中で、自分にとって仕事や起業がどういうものなのかがわかってきた。仕事だと思ってやる仕事は苦手だ。ただ単純に好きなことに熱中して、朝も夜もわからないぐらい夢中になる感覚。自分にとって起業は、好きなことにとことん向き合い、それを大きな挑戦にするための手段だ。それが人や社会の役に立った時、成功という結果になってついてくる。起業のためのアイデアを探しても見つからなかったのは、そういうことだった。どうせやるなら好きなことを、とことん。自分の熱を、社会に大きな影響を与えてしまうほど貫くために、起業をしよう。

退職と起業

寝込みながらも起業を決意し、体調が回復したのち、退職の意志を伝えた。残された時間は日々の仕事に全力で集中しようと、力が漲っていた。

だがそんな矢先、自分たちの作ったサービスが閉鎖に追い込まれることになった。当時は理不尽に思うこともあったが、数年かけてくり返し咀嚼するたび自分の未熟さに気付かされ、今ではあらゆる点を大いに反省し、しっかりと受け止めている。

MERYが新たなパートナーと手を組んでこれからの一歩を踏み出すための準備を終えたところで自分は退職し、しばらくののち、起業の準備をスタートした。

Hotspringという熱

そんな20代の前半を終え、Hotspringという会社を立ち上げるに至った。社名の由来は、湧き出る熱。好きなことに全力で向き合い、大きなものを作りたいという熱が地表に湧き出て、人々を喜ばせる。そんな瞬間を切り取った、結構気に入っている社名だ。

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起業してでもやりたかったこと。それは、余暇をより豊かなものにすること。仕事に熱中し続けていた自分が初めて立ち止まった時、ふと旅に出て、そこから人生観が大きく広がった。余暇をもっと楽しく、豊かにするために仕事をする。それなら、自分の人生を賭けて頑張り続けられる。

旅行は間違いなく楽しいし、人生が豊かになるものだが、出かけるまでには多くのハードルがある。それなら、自分の得意なオンラインのサービスで、そんなハードルを徹底的になくしていこう。

まずはどんなハードルが存在するのかを直接聞いて一緒に解決してみようと考え、ズボラ旅というサービスをはじめた(この目的を完遂したとみなし、ズボラ旅は昨年いっぱいでサービスをクローズした)。多くの人が、オンラインではまだまだ気軽に旅行を予約できないという思いから、街の旅行代理店に行くという。しかし結局それも面倒で、旅行を諦めてしまう方がたくさんいた。インターネットやスマートフォンがこれほどまでに普及している世の中で、なんとかする方法が必ずあるはずだ。

海外旅行という挑戦

そんな旅行へのハードルは、海外旅行において特に顕著だった。あらゆる面で海外が身近になりつつある今、ちょっと週末出かけるぐらいの感覚で海外にいけたら、どれだけの人の人生が豊かになるだろう。想像しただけで、一刻も早くサービスを作りたくなった。

そんな風にスタートしたHotspringの海外旅行サービスのリリースは、去年の春を予定していた。いくつかの世界トップクラスのプレイヤーとの提携で獲得した安価で安心なオンラインの海外旅行商材を、これまでオフラインにしか存在しなかったような体験で予約できる。これが広まれば、思いつきで世界に飛び出す人は格段に増えるだろう。そんなリリースへの興奮に胸を踊らせていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大がはじまった。

コロナ禍と、いま考える未来

いま自分たちにできることはなにかを毎日考え続け、一時的に国内旅行に舵を切った。GoToトラベルキャンペーンでは、スタートアップの機動力を活かして、とにかくかんたんにキャンペーンを利用してもらうことで日本に活力を取り戻そうと考え、国や事務局の方針をとにかく最速でプロダクトに落とした。国内に舵を切っておよそ半年で、月次流通は億の単位になった。国からもさまざまな形で、その迅速さを評価してもらえている。Hotspringのサービスである『こころから』の国内旅行事業は、成長軌道に乗りはじめた。

だが、コロナ禍がはじまり1年が過ぎた今も、ぼくらが挑戦を夢見た海外旅行の市場は、絶望的なまでに消失したままだ。関係者の中には、別の仕事に就かなくてはならなくなった方も多い。大手の旅行代理店は、オフライン店舗の大規模な撤退を進めている。

自分たちが変えようとした海外旅行の市場は別の形で大きく変わり、数年かけてオンライン化していこうと考えていたオフラインでの体験は、物理的に激減してしまった。そんな現状を見て、これまで培ってきた自分の10年分の熱は、すべてここにぶつけることを決心した。それに、もう自分一人の熱ではない。Hotspringの熱は、いつかまた来るであろう海外旅行を予約する瞬間の歓びを最大化するために、今後すべて注ぎ込む。

旅に出られず悲しんでいる方も、一度は離れざるを得なかった旅行業界でまた働きたいと願う方も。一人でも多くの方が海外旅行市場の回復を通して笑顔になれる社会を、必ず作ろうと思う。コロナ禍が落ち着いて海外旅行を考えはじめた頃、ぜひ『こころから』を開いてみてほしい。

おわりに

20代最後の歳、少しだけ今までを振り返るつもりが、ずいぶん色々と書いてしまった。この10年、日本のスタートアップの世界であらゆる熱が生まれ、社会を変えていく様子を特等席で見つづけてきた。今度は自分の熱で、今まで見てきた中でも最大の挑戦をしていこうと思う。

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