見出し画像

【感想】『「超」整理』 | 根底にある原理は現代でも十分通用する

情報

○著者:野口悠紀雄
○読了日:2021.04.19

感想

「整理は分類である」の固定概念を真っ向から否定し、「分類せずに検索する」にフォーカスした情報の整理術を伝授してくれる本。

 多くの読書術の本に「ベストセラーは読むな」という主張がされていることが多い。流行りのベストセラーを読んでも他者との差別化は図りにくい、というのが主な理由だ。

 わたしも(若干斜に構えて)その教えに可能な限り則ろうとしているが、たまにベストセラー本を読むと「あ〜なるほど。こりゃ売れるわ」と感じる本がある。さすがベストセラーは伊達じゃないわけである。

 本書はまさにそんな一冊だった。この本が出版されたのは1993年。もはや約30年前の本だが、当時はベストセラーだったらしい。

 骨子としては、冒頭に述べたように「分類する整理術を止めて、時間軸を検索キーにすることで書類や資料、情報を整理することが重要」といった内容である。

 著者は具体的に「押出しファイリング方式」という方法を提唱している。以下、簡単にその方法を箇条書きでまとめる。

・A4版の書類が楽に入る封筒(角型二号)を準備する
・書類をひとまとまりごと封筒に入れ、日付と書類の封筒右肩に書く(2021.04.22/土地問題資料 など)
・それらを本棚に立てる
・新しく作った封筒は本棚の一番左端に立てる
・取り出して使った封筒も一番左端に立てる

 こうすることでよくアクセスする封筒が常に左端に存在し、使われない封筒はどんどん右側に「押出されて」いく。ゆえによく使う資料へのアクセス時間は短く済むし、右側に押し出された封筒は使っていないものなので、捨てやすくなる。

 実はわたしはこのメソッドを本書を読む前から実践している。成毛眞さんの『情報の「捨て方」』という本のコラムに書かれており、良さそうだなと思って試したのがきっかけである。

 さすがに角型二号の封筒を大量に準備できなかったので、事務所にたくさん転がっているクリアファイルで書類をまとめているのだが、これがなかなかいい感じ。

 まずなにより、著者が言うように分類しなくていいので、書類整理へのハードルがグッと下がる。キングジムに閉じるためにパンチによる穴あけ作業がないのもありがたい。些細なアクションだが、そういった細かいめんどくささが机のエントロピーを増大させることはみなさま重々承知だと思う。

 検索のしやすさも全く問題ない。結局のところ、つねにアクティブな書類群なんて3〜5くらいなのである。

 さて、これだけだと本書は「新しい整理法を紹介してくれるHOWTO本」で留まってしまうのだが、この本のおもしろさはHOWTO以外にふたつある。

 まず、著者がこの「押出しファイリング方式」の有用性を読者に伝えるために、従来、一般的とされていた整理法(*1)と徹底的に比較・検証している点。
*1 例えば、似たジャンルの本を分類・整理する「図書館方式」など

 「検索スピード」「簡単さ」「捨てる仕組みが組みまれているか?」などの判断軸を設け、それぞれの整理法を比較している点がすばらしかった。

 たかが、整理法にそこまで厳密にしなくとも、と思う人もいるかも知れないが、わたしは論理立ててきちんと物事を論証していく著者の姿勢に感銘を受けた。自分も仕事に対して、常にこういう姿勢でありたいと思う。

 もひとつのおもしろさは、著者の未来予測精度の高さ。今でこそGoogleが台頭し、情報は「ストックからフロー」、「蓄積ではなく必要なときに検索できればよい」なんて主張は当たり前になりつつあるが、本書が執筆された93年はパソコン黎明期の時代。

 インターネットだってまだそこまで普及しきってないときだろう。実際、本書ではパソコンにおける情報も時間軸を検索キーに整理することを推奨しているが、使う媒体はフロッピーディスクだ。時代を感じる。

 そんなときから、検索にフォーカスした情報整理に着目していた著者の先見の明の高さには驚く。

 従来の整理方法では、情報をストックとして扱っている。つまり、将来に向かって価値が減少することを重視していない。したがって、「いかに保存するか」に重点があり、「いかに捨てるか」は、副次的なこととしか考えられていない。
 情報が比較的少ない時代には、こうした考えが妥当したかもしれない。しかし、現代のように情報が増えてくると、基本的な考え転換する必要がある。つまり、情報とは生まれ消えるものであり、一定の寿命を持ったフロー量であると、捉える必要があるのだ。

 約30年前に提唱された本書のメソッドが現代でも十分通用するのも、こういった根本的な原理というか考え方が、すでに今の時代にマッチしていたからだと思う。

 逆を言えば、30年も前から情報過多、情報に溺れる世の中になりつつあるという警鐘はされていたわけだ。にも関わらず、30年後の自分たちに改善は見られるどころか、事態はより悪化とまでは言わないが、深刻化している気がする。

 自分が使っている整理術について、オリジナルを読んでみようと軽い気持ちで取った本だったがいろいろ考えさせられた。野口悠紀雄氏の本は他の著作も読んでみよう、そう思わせられる本だった。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?