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【ホテル・旅館向け】マニュアル以上のおもてなしを当たり前にするために

ホテルや旅館の接客には、もちろんマニュアルがあります。そのマニュアルに従ってトレーニングが行われ、まずは誰もがマニュアル通りの接客を習得していきます。

ただ、ホテルや旅館に宿泊するお客様から求められているのは、いわゆる「マニュアル通り」の接客ではなく、マニュアルを超えた「心のこもったおもてなし」なのです。

では、顧客が求める『マニュアル以上のおもてなし』を、そこで働くすべての従業員が実行できるようになるにはどうすれば良いか。
これまでのホテル・旅館での10年間の現場経験から考察をしてみました。

①「おもてなし」とは?

そもそも「おもてなし」とは何なのでしょうか。
その語源は諸説ありますが、個人的に共感する定義づけは、
おもてなし:相手のことを「想って(おもって)、為す(なす)」こと
です。

まずは、相手のことを想うことが重要。
・相手に喜んでもらいたい
・相手に笑顔になってもらいたい
・相手を感動させたい
どれだけ相手のことを本気で想えるか。

そして、その想いを行動に移すこと。つまり、相手のために「為す」こと。
どれだけ相手のために手間や時間をかけて、想いを届けるために行動できたか、これが合わせて重要なのです。

おもてなしには、想うこと、為すこと、どちらも欠けてはいけないというのが、肝なのです。想うだけで行動しないと、相手に伝わらない可能性が高いですし、相手を想わずに行動だけすると、心がこもっていないことがすぐに見透かされてしまいます。

②マニュアルとおもてなしの違い

おもてなしの定義づけができたところで、マニュアルとおもてなしがどう違うのかを確認していきます。

マニュアル:行動や作業の定型・手順を体系的にまとめたもの
おもてなし:相手のことを「想って(おもって)、為す(なす)」こと

これらの定義から読み取れるマニュアルとおもてなしの違いについて、いくつか挙げてみます。
・マニュアルは、過去に誰かが決めたものであるが、おもてなしはそうではない
・マニュアルには個人の自由度がなく、おもてなしには自由度がある
・おもてなしは、誰かのことをイメージしたものであるが、マニュアルはそうではない
・マニュアルは、誰かに教えたり伝えたりすることができるが、おもてなしは教えたり伝えたりするのは難しい
・マニュアルは体で覚えられることが多いが、おもてなしは頭や心を使わないと身に付けられない

③マニュアル以上のおもてなしを当たり前にするための方法

おもてなしの定義やマニュアルとおもてなしの違いについて述べてきましたが、最後に「マニュアル以上のおもてなしを当たり前にするための方法」について、私なりの見解を提案していきます。

おもてなしに必要な3つの力を身に付ける

1.観察力
2.想像力
3.実行力

1.観察力
おもてなしをするためには、まずは相手のことをしっかりと観察することが必要です。相手の表情や身に付けているもの、ちょっとした仕草やぼそっとつぶやいた言葉。すべてのものに意味があり、理由があります。

2.想像力
しっかりと観察をしていると、ふと気づく違和感やちょっとした変化があるはずです。
例えば、「お食事の乾杯の時に、みんなで拍手をしていたな」「時々足をさすっているな」「さっきまで笑顔で話していたのに、ふと暗い表情になったな。」などです。
これらの違和感や変化を見逃さず、そこから想像を働かせていくことがおもてなしにつながっていきます。
・乾杯の時にみんなで拍手をしている→何かおめでたいことがあったのではないか?
・時々足をさすっている→足を痛めているのではないか?
・ふと暗い表情になった→自分が不快なことを言ってしまったのではないか?何か悲しい出来事があったのではないか?

この想像力には正解はなく、相手に聞かない限り真実は分かりません。だからこそ自由に自分なりの想像を広げてみてほしいのです。

3.実行力
想像ができたら、そこで満足して終わるのではなく、勇気を持って行動をしてみてほしいのです。
・お食事のデザートの際に、お祝いのプレートを用意してみる
・足の痛みに効くように湿布をお渡ししてみる
・「ご不快な想いにさせるようなことを言ってしまいましたか」と思い切って尋ねてみる

自分の想像が間違っていたらどうしようと不安になり、思い切って実行に移せないことが多いかもしれませんが、間違っていても良いのです。何かしら実行に移してみることで、相手には「自分のためにやってくれたのだ」という想いが伝わり、例え間違っていたとしてもその想いに喜びや感動が生まれるのです。そして、勇気を持ってチャレンジすることで、自分の想像力が正しかったのか、間違っていたのかを振り返ることができ、確実に次のチャレンジにつながります。

このように、おもてなしには、「観察力」「想像力」「実行力」の3つがどれも欠かせません。

「マニュアル」から「おもてなし」への段階を踏んだトレーニングや学びを実施する

茶道や武道にも「守」「破」「離」という段階があるように、ホテルや旅館でのサービスにも「マニュアル」から「おもてなし」への段階があるはずです。それをまずは従業員全員に知ってもらうこと、そして「おもてなし」まで到達するトレーニングや学びの場を与えること。これが大切だと考えます。

多くの現場は、マニュアルを習得するためのトレーニングが終わると、あとは個人に任せ経験を重ねていくのみ、というところがほとんどではないでしょうか。それだと、自分がいまどの位置にいるのか、おもてなしは身についているのかということが不安なままです。
おもてなしのケーススタディなどの機会をつくり、観察力の磨き方、想像を膨らませるノウハウ、実行するための具体的なアドバイスなど、「守」の段階から、「破」「離」の段階に導いていく学びを全体で進めていくこと。全員がおもてなしを当たり前に実行していくためには、定期的にこのような機会や場を設けることが必要です。


マニュアル以上のおもてなしが当たり前にできるホテルや旅館が増えれば、日本の「お・も・て・な・し」は本物になっていき、観光業が世界に誇れるものになっていくはずです。

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