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改造町人シュビビンマン3開発の思い出


無謀な勢いで突っ走る若いころ


 私は漫画の持ち込みを中学二年からやってまして(最初は週刊少年サンデーでした)、高校二年からは描いたイラストを出版社に持ち込んでゲーム関連の雑誌や書籍、攻略本のイラストを描くアルバイトをしていました。
 これを続けながら高校卒業後は漫画家先生のアシスタントになり漫画の修行をしていこうと考えていたのです。
 この時点では行先が決まっていたわけではないんですが…

 そんな生活を送りつつゲームが好きなのでゲームセンターにほぼ毎日通ってたのですが、高校三年生の三学期頃にゲーセンで仲良くなった二学年上(専門学生)のひとから
「就職先のゲーム会社のグラフィッカーが足りないみたい、面接だけでも受けてみない?」
と誘われて行った先が当時市ヶ谷にあったウインズという会社でした。

 高校生からイラストのアルバイトをしてたという経歴が面白かったらしく、その時の面接官(後の上司)に「きみ、採用」と言われ、そのままドット研修に突入します。(この時点では高校はまだ卒業してなかった)

 このドット研修がめちゃくちゃ面白くて、自分が打ったドットがモニタに映って動いたときは本当に感動しました。それからは憑りつかれたように会社に泊まり込んでドット練習しまくってたのですが、思い出すと当時の先輩の小山英二さんに徹夜に付き合っていただいたり(今更ながらすいませんでした…)この後、長きにわたり付き合いが続く仲井さとしさん(当時は中井覚)と出会ったり、それまで体験してこなかった世界に夢中になりました。

 あとゲーム画面に表示される絵はキャラや背景、エフェクト、ステータス画面レイアウト等々勉強になるものが沢山あって、いわば総合美術だから漫画を描くときにも絶対に活かせる!と思ったことも大きかったです。
 実際、今でも原稿を描く際にこの頃のドット絵時代に培った考え方を活かす機会がちょいちょいあります。

 そんな感じでまずは契約社員でドット仕事(研修も兼ねた実務)して、社員になる場合は改めて…みたいな段取りではじまりました。

1991年 麻布の森ビル

 高校も卒業し春からは渋谷駅からバスで麻布の森ビルの中にあるNCS(日本コンピューターシステム)「メサイヤ」のオフィスへ、ウインズからの出向ということで通い始めます。
 なんとPCエンジンで遊んでた「改造町人シュビビンマン」の最新作のチームでドットを打つことになり、ウインズ組のリーダーは面接官だった斎藤智晴でした。
 音楽を担当されてたのはシュビビンマン2から引き続き葉山宏治さん、音楽を作るひとと出会ったのは初めてで、ヘッドホンにキーボードがかっけー!と思いました。
 シュビビンマン3は本当に曲が粒ぞろいなので聴ける機会がある方は是非是非聴いてほしいです。

 新鮮なことだらけで刺激を受けながら、練習で置くドット絵とは違う本当に発売されるゲームのドット絵仕事がはじまります。

ドットまみれの日々

キャピ子。初仕事だったので張り切ってドットを打ってますね。
原画はAICさんで、スキャンした原画をドット絵にしていきます。
ビーチ。シュビ3はPCエンジンCDロムロムのゲームなのですが、
クイックなゲーム進行を目指して一度のデータ読み込み量を抑えるため、
シュビ3のビジュアルシーンに使える色数には制限がありました(後述)
スクロール表示されるキャピ子。担当する絵は基本的に担当者ひとりでドット全部やります。
最初の頃は女の子を描くことに対し「もっと上手い人が他にいるのに!」
と苦手意識がありましたが、枚数をこなすうちにだいぶ鍛えられました。
この絵は手前のキャピ子がスプライト表示で背景はBGで別スクロールさせてます。
ゲーム画面からスクショしてるのですが、別スクロールだから背景がちょっとおかしなことに…

 ▲キャピ子が持ってる浮き輪がうまくドットで表現できない~とか悩んでた気がします。カーブをドットできれいに描くのって難しいんですが、いい感じに描けると本当にうれしい。 この浮き輪はジャギ消しで手を入れすぎててなんだか惜しい感じ…

キャラデザとデモシーンの絵コンテはゲーム開発側でつくり(シュビ3の絵コンテは斎藤智晴)
そこからアニメ会社(シュビ3はAIC)に発注、原画が届いてから開発現場でスキャン、一枚一枚ゲームハードに合わせた仕上げをしていきます。
ゲーム画面の解像度は今から考えるとかなり粗く、ハード毎に発色も違うので1ドットでも置く場所や選ぶ色が変わるだけでキャラによってはガラッと表情や見栄えが変わって見えます。
また解像度的に原画通りの絵を再現しにくい時もあり、現場のドッター個人個人のさじ加減に任されつつ、あまりにも独自な解釈と仕上げをしていると怒られてリテイクが出ることもありました。
このチョピンというキャラのマント内の武装はせっかくスクロール表示されるのに画面的にスカスカに見えたので、私の方でドットで仕上げる際に原画よりもディティールアップしました。狙いを伝えたら怒られなかったので良かったです。
ここでは追加効果として別スプライトで歯が光るアニメを作って入れてもらっています。
クレハ姫とキャピ子。キャラも背景もその原画を割り振られた者がその絵全部のドットを担当。
色はキャラ毎にRGB指定設定画が用意され各自の手元にあり仕上げる色が統一されてました。

 ビジュアルシーン(デモ画面)では、アクション画面と同じやり方で「キャラ(スプライト)」を「BG」の手前に表示するやりかたでドットを打っています。今のようなレイヤー機能は無く、キャラもBG毎に線も色も全て一枚絵内に描き込み、クチパクとか目パチはアニメする別キャラ(スプライト)を絵の上に乗せて表現するのが当時一般的だったかと。
 あの頃は他にもハードスペックに適応した独特な工夫がチームや会社毎にいろいろありました。

 PCエンジンは1パレット16色、1画面内にパレットを複数組み合わせて表示できその機能をフルに使えば(勿論、綺麗にドットを置く腕前も必要)かなり豪華なグラフィックになるのですが、シュビビンマン3ではデータ量を抑えたスムーズな読み込み、快適なゲーム進行の為に1パレットは半分の8色以内、一度の画面で表示できるパレット数も少なめにルールが設定されていてその制限内でドット絵を仕上げています。
 描きながらあと1色あれば…とかあと1パレット使えれば…みたいな事はドットを打ちながらよく思ってたんですが、強制的にこのルールで描くことで色の端折り方とか見え方、効率的なまとめ方を学ぶことができました。

▼このnoteを投稿後、X(Twitter)でPCエンジンでドット絵を描かれてた方からリプをいただいたので開発当時の空気感の補足のためにも引用させていただきます!(引用了承いただきました)

 そうなんですよね。この8×8ドットって色切り替えできる最小単位なのですが、ドット仕事をする上でカチっと上手いことハマると武器にもなり、ちょっと足りなくなったりするとなんとかしなきゃいけない敵にもなりました。

 描いてる最中としばらくの間は全部の絵のエディタ上の状態とゲーム出力した状態が頭の中にはいってました。当時の開発ノートには後から参照できるようにごちゃごちゃっとメモが残してあります。▲

 また、「色数制限してデータ量を抑える」というやり方でゲーム進行(読み込み)が早くなるという工夫を知る事ができたのも当時衝撃で、同じハードでもゲームによって作り方は工夫でいくらでも変わるし、たぶんどこかで自分の知らない凄い作り方をしてるゲームがあるんだろうな、とも思い一層ゲーム作りに魅力を感じました。

 速度アップではなく、読み込み回数を減らすため…納得しました。
岩崎さん、補足ありがとうございます!(引用了承済)

初めてのゲームキャラ(とメカ)デザイン

デザインを担当した魔空艇(このドットは同期の方が置いたもの)
ゲーム本編の魔空艇。斎藤智晴のドット。

▲この魔空艇はゲーム仕事ではじめて採用されたデザインです。
 今タイトルのゲストキャラである姫たちが乗り込む魔法を動力にした小型艇というお題で斎藤から注文されデザインしたのですが、思いつくまま何パターンか描いた中でこの「銃+ドラゴン」が採用されました。
 小型艇なのに羽ばたいて尻尾がついている(しかもゲーム中は別パーツで羽と尻尾が動く想定)のが異世界の魔法の乗り物っぽくて面白いかと考えました。
 元々クレハ姫のデザインは上がっており、コクピット回りのキャノピーとか曲面が多いクリアパーツはクレハ姫の肩のクリアパーツとなんとなく合わせています。

魔族戦闘隊長

 他の魔族たち(同期絵描きがデザイン)はほぼ人間の顔じゃなかったんですが、魔族戦闘隊長はシュビビンマンたちと対峙した時に人間の顔をしていた方がヒロイックでいいなと思って顔色が悪い隈取りの人にしました。あの頃よくみかけたタイプのデザインともいう。
 ゲーム内では池田秀一さんが声をあてられてて「自分がデザインしたキャラの声を池田さんが演じてる!」と嬉しかったです。

リテイクの嵐

シュビ3ラストの夕日パートの自分担当の一部。この辺はスムーズにOKもらってたものの…

▲何度も何度もリテイクでつっかえされたのはラストシーンの上から下へスクロールする一枚絵です。
 斎藤のリテイクはこれといった修正指示が無く「俺が気に入らないからダメ」という理由で「だからどーゆー絵が欲しいんだよ!」と当時は理不尽に感じたものです。
 どうドットを置けば彼を納得させることができるだろうか…と考えまくったことでだいぶ鍛えられました。

ゲームは会社所有のコンテンツと知る

シュビビンマン1と2のパッケージ。うらべ・すう画
ドット作業の合間に描いてたパッケージやマニュアル、広報用のラフ
キャラが多すぎ&入り組みすぎ、セル画で仕上げる時に大変!と言われ
最終的にはもう少しわかりやすく抑えめに…。
パッケージはゲーム本編ビジュアルシーン原画のAICがセル画仕上げしています。

 ▲シュビ1,シュビ2からの流れもありますし、当然パッケージイラストとか大事な絵はうらべ・すう先輩が描くものだと思っていたので、シュビ3で参加されないと聞いた当時は衝撃でした。

 と同時に、会社オリジナルゲームの場合、ゲーム開発者=原作者の立場と同じではないという意識もここでできたと思います。
 ゲームタイトルは会社の所有するコンテンツであり、スタッフはその時その時に配属が決まった者たちで作るのが当たり前なのです。
 だから長いシリーズはその時々関わったスタッフの個性でコーティングされていって奥ゆきや深み、味わいが出てくるんじゃないかしら…

さらばウインズ

 私がウインズ所属時に制作に関わったゲームはPCエンジンの「どらごんEGG!」とPCエンジンCDロムロム「改造町人シュビビンマン3」の2本でした。(共に発売はメサイヤ)

▼どらごんEGG!の話

 夏の終わりか秋に入るかそこらくらいだったと思うのですがシュビ3の自分の担当パートが終わった後、先輩交えてウインズの正社員になるかどうかの話になったとき正社員になったら副業禁止というのがどうしても引っかかってました。
 実は高校時代からやってたイラスト描きのバイト、まだ続けてたんですよね。これができなくなってしまうのと漫画の持ち込みができなくなってしまうのは嫌だったこと、他にもいろいろ(若さゆえの煮えたぎるエネルギーというか)腹の中でドロドロがあったんですが、さておきシュビ3後、契約満了ってことで結局ウインズを辞めることに。

 辞めたといってもウインズの面々とはそれからもしばらくメサイヤで顔を合わせ、お世話になることになります。

シュビ3スタッフロールの自分とこ。まだ有賀等だったころ。
このふたりはシュビ2のシュビビンマンシェイド、ミューとジータ。

そしてフリーランスへ

 ウインズを辞める前後、当時のシュビ3のプロデューサー土田俊郎さんから「ありがに向いてると思うドット仕事があるんだけど」と声をかけられ、「副業?ゲームのスケジュールが間に合うならOK」ということでメサイヤとフリーランス契約してこの後メサイヤのゲーム2本の制作に関わることになりました。
 この時に開発したゲームがSFCの「らんま1/2町内激闘篇」と「らんま1/2爆烈乱闘篇」になります。

 そして現在までずっとフリーランスで仕事を続けていますが、フリー絵描きとして直接依頼されたのはこれが最初でした。クソ生意気な10代の若僧を一人前として扱ってくれて声をかけてくださった土田さんには今でも感謝しています。

合掌

 ウインズの先輩方とは私がウインズを辞めた後もゲーム業界の先輩として、或いは絵描き友達として遊んでくれたり飲みに行ったり、特に斎藤とはほぼ毎晩のようにチャットで遊んだり一緒にライブや旅行に行ったりしていました。

 ロックマンメガミックス「復活の死神」の原稿でヒーヒー言ってた頃、斎藤が原稿の手伝いに来てくれたんですが
「なかなかいい絵が描けてるな。なんだか俺も自分の絵が描きたくなってきたから帰る!」
 と原稿が終わってないのに晩御飯を食べたら帰ってしまってびっくりしたのを思い出します。彼らしいというか…

 すうさんはメガミックスもTHEビッグオーも単行本を買って読んでくれていて、ビッグオー5巻が出たあと飲み会で集まったときに
「ビッグオーはアニメと全然違うのが面白い。ありががどんな最終回を描くのか楽しみだ」
 と言ってくれました。当時6巻を執筆中で「もうすぐ終わるんでどんな感想をもらえるか楽しみです」みたいな返しをしたような気がします。

 うらべ・すうさんと、LA斎藤智晴はその後…どう書くのが適切なのかわからないですが、すうさんは2001年(ビッグオー6巻が出る直前)、斎藤は2006年、ふたりとも30代で若くして逝去されました…信じれない話です。

 先輩だったはずの二人の年齢をもう今では軽く追い越してしまって、亡くなったということに対して年々リアリティが無くなっていくんですよね。
 それでいてあの一緒に過ごした熱い日々だけが記憶に残り続けています。

斎藤に何度もリテイクくらいながらドットを打ったシュビ3ラストシーン


 シュビ3開発当時はもう30年以上前の話なので、ところどころ思い込みや記憶違いとかがあるかもしれません。(もし当時の関係者がこのnoteに気づいて間違いを見つけたらご指摘ください)

 今回はこんな感じでした。

追記
 シュビビンマン3制作中のコミュニティノートについて更新したので、よろしければ合わせてお楽しみいただければ嬉しいです。


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