アパートの鍵貸します

 便利な場所にあるアパートに住んでいたばっかりに、ろくでもない上司に部屋を貸す主人公。会社で好意を寄せた女性が、そんな上司の浮気相手だった。

そんな女、こっちから願い下げだ。と思うが、恋は盲目。上司と恋に落ちることだってあるだろう。でも、この作品のヒロインは、上司を愛していると言いながら、最後は主人公のところに走る。それで、なんとなくハッピーエンドになっているけど、節操のない女と言われてもしょうがないだろう。主人公と結婚したら、その後どうなることやらと思わずにはいられない。

主人公は、なにかと嘘を言う。アパートの隣人に、いつもお盛んですな、と言われて、それを認め、恋する女性の義兄にも強がりを言って殴られる。すべて正直でないゆえの受難だ。でも当人はそれを気に病むわけではない。むしろ喜んでる。コメディの登場人物として、誰もが有する人間の一つの特質を誇張されている。

 本作も一般にコメディに分類されるが、笑えるところはほぼなかった。主人公が困るところが面白いのか。人が苦しんでいるのを見て笑うのは最低だ、と思うが、英語でスラップスティックという単語があるように、日本にもどつき漫才があるように、人が叩かれるのを見て笑ったり、痛い表情がおもしろく感じたり、人間は他人が苦しむのを喜ぶようにできている。

 人生は苦だと釈迦は悟った。日本仏教は、苦の世界を浄土にしよういうもがきの歴史だ。事実である苦の世界を、楽の世界にするには、見方を変えるしかない。その具体的方法は、痛みを喜びと感じることだ。視界に幾分のかすみをかけ、事実かどうかなど気にすることなく、痛みに気付かず、はたから見れば苦しい状況を喜ぶくらいの楽天家が、人生を楽しめる。人生を楽しむのに、正しいかどうかなんて関係ない。正しくてつらい人生より、間違ってて楽しい人生の方がいい。本作の主人公も、恋の盲目の挙句に、お目当ての女性が、転がり込んできてくれたのだ。

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