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#ファンタジー小説部門
創作短編 #3 大きな魚に乗ると鱗が痛い
水は苦手だ。
幼い頃は水に顔をつけることすら出来なかったし、今でも泳ごうとすると不恰好に沈んでいくだけで苦痛でしかない。
そんな僕は今、薄暗い地下水路を歩いている。
腰ほどまである水を、音を立てかき分けながら進んでいくが、服が水を吸って上手く歩けない。
よく整備された地下水路は人気がなく、自分の立てた水音で騒がしい。
右ポケットのスマホは電波すら繋がらないものの、そこにあるだけで安心感があ
創作短編 #2 枕抱え眠る
深夜3時。ベッドから落ちた。
あー、またやってしまった。
起きあがろうと手をついたが、ガクンとすり抜ける。あるはずの床がない。
予想外なことが起きると妙に落ち着くもので、似たような昔の記憶を辿ってみる。
幼い頃の私は寝相が悪く、寝ている間に床に落ちたりひっくり返ったりしていた。
小さな私からしたら大したことでは無かったのだが、母は心配だった様だ。
怪我のないようにベッドのあらゆる隙間に枕
創作短編 #1 連続性に抗う
気がつけば、大きな白壁の前に立ち尽くしていた。
目と壁の距離は50センチほど。
壁表面はものすごく滑らかで思わず触れたくなる。
何の素材で出来ているのかは分からないが、有機物ではないようだ。
ここに居る理由を思い出そうと、五感に意識を傾けてみるが、
周囲から音ひとつしない。
風もない、香りもない。
やけに明るい空が痛い。
この変化のない空間で異物なのは自分なのだと、思わず息を止める。