創作短編 #1 連続性に抗う

気がつけば、大きな白壁の前に立ち尽くしていた。

目と壁の距離は50センチほど。

壁表面はものすごく滑らかで思わず触れたくなる。

何の素材で出来ているのかは分からないが、有機物ではないようだ。

ここに居る理由を思い出そうと、五感に意識を傾けてみるが、

周囲から音ひとつしない。
風もない、香りもない。

やけに明るい空が痛い。

この変化のない空間で異物なのは自分なのだと、思わず息を止める。

周りを見てはいけない様な気がして、動けない、動きたくない。

こんなことをいつからかずっと繰り返していたのだろうか。

何とか体の強張りを断ち切ろうと、思い切ってふーーーーっと息を吐いた。

動きを他の誰にも悟られぬよう、ゆっくり目線を上げると、大きな屋根が目に入った。

家だ。それも真っ白な。

壁にも体にも影ひとつないから気がつかなかった。

では下はどうかと、足元に目線をやるとやはり影はなく、芝生に覆われた地面が目に入る。

目の前の異様な白さにばかり目を取られていたが、地面が右方向に盛り上がっている。

そちらに目をやると、小さな丘が見えた。

登ってみるか。

とにかく白い家から離れたい。

最初はゆっくりと音をなるべく出さぬ様に歩いたが、次第に慣れてサクサクと進む。

なかなかの傾斜の丘をようやく越えた先には、
先ほどと同じ家が建っていた。

似た様な丘も奥に見える。

見た目はまるっきり同じだ、しかし自分には先程のとは完全に別物だと感じた。

要素は同じだが、何かがちがう。
僕には分からない何かだ。

「ループもの」ではないのなら一先ずよかったと、家をぼーっと眺めていると、

突然大音量でアナウンスが流れはじめた。

聞き馴染みのない言語だ。

かなり不気味ではあるが、館内放送といった随分と淡々とした口調だ。

だが、音の出所が分からない。

開放的な空があるはずが、モールの中の様な反響を感じる。

どの方向からも逃げたいのに、後退りをした。

何かが見ている。

そしてこのアナウンスは僕ではない何かに向けたものだ。

ここでも無いものとして扱われるのか。

延々と繰り返されるアナウンスに、頭がガンガンする。

気を紛らわそうと、目の前の白壁を一度蹴り飛ばしてみたが、何も起こらない。

反動がない。

それでも意識を逸らそうと、痛みを確かめたいと蹴り続けると、突然無音に包まれた。

一瞬自分のせいかと思ったが、違った。

次第に足元が膨らみ始めた。

柔らかに連続的に変化している。

さっきまであった丘が一様になろうとしてる。

謎のアナウンスはこのことか。

嫌に目がチカチカすると思えば、空がぐにゃりと歪み始めている。

呆気に取られ、只ならぬ様相の空を眺めながら再び立ち尽くしていた。

ここにいれば、自分もいつか変えられてしまうだろう。

そう思うと同時に鈍く踏み出した。

変わることの何が恐ろしいのかも分からないが、
家々の間を不恰好にも走りつづけた。

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