見出し画像

フランク・ザッパの没後のライブ盤

 この記事では、フランク・ザッパの没後に発表されたライブ盤を「時系列順に」並べ、簡単なレビューを書いていく。ザッパのアルバムはとにかく数が多いので手を出すのが億劫になりがちだが、こうして整理することによって取っかかりを作ることが出来れば幸いである。

 なお、「Halloween 77」についてはSpotify等の音楽ストリーミングサービスに入っていないためレビューすることが出来ないので、あらかじめご了承ください。


Road Tapes, Venue #1 (2012)

Kerrisdale Arena, Vancouver, BC, Canada
August 25, 1968

 オリジナル・マザーズ期のライブ盤。生前のアルバムでは「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 5」の1枚目や「Ahead Of Their Time」でこの時期のライブ演奏を聴くことが出来るが、「On Stage Vol. 5」はドキュメンタリー的な性格が強く、「Ahead Of Their Time」の前半はThe BBC Symphony Orchestraとの共演というイレギュラーな演奏であるため、言うなれば「普段の」ライブを収録したこのアルバムにはまた別の価値があると思う。

 オリジナル・マザーズはザッパがステージ上でウンコを食った(嘘)という話が広まる程度にはアングラなイメージを持たれているわけだが、実際こうしてライブを聴くと案外きちんと演奏していることが分かる。もっとも、ザッパからすれば当時のメンバーの演奏技術は納得いかないものだっただろうが……。「Trouble Every Day」では途中で録音テープが切れる所をドアが閉まる音でごまかしていてちょっと面白い。


🆙The Mothers 1970 (2020)

Disc 2
Piknik, VPRO
Uddel, Netherlands
June 18, 1970
+
Pepperland, San Rafael, CA
September 26, 1970


Disc 3
Civic Auditorium, Santa Monica, CA
August 21, 1970
+
Coliseum, Spokane, WA
September 17, 1970

Disc 4
FZ Tour Tape Recordings

 フロ&エディ期(タートル・マザーズ期)のライブ盤。4枚中3枚がライブ音源で、2枚目の1曲目~13曲目は1970年6月18日にオランダの公共放送局VPROのテレビ番組「Piknik」で行ったライブ、14曲目~17曲目は同年9月26日のライブの一部、3枚目は同年8月21日と9月17日のライブを繋ぎ合わせたもの、4枚目はザッパが各所で個人的に録音した音源となっている。

 内容については良くも悪くも発掘音源というか、特に音質面においては「上質な海賊版」レベルのものもあり(意外にもザッパの個人録音である4枚目が最も安定している)、基本的にはフロ&エディ期が好きで、後述の「Road Tapes, Venue #3だけでは物足りないという人が聴くべき作品だと思う。全体的にインストが充実しており、特に3テイク収録されている(うち1テイクはソロのみ抜粋)「King Kong」はどれも出色の出来。


Road Tapes, Venue #3 (2016)

Tyrone Guthrie Theater, Minneapolis, MN
July 5, 1970

 フロ&エディ期のライブ盤。時期的にはツアーの最初の方で、この時点ではフロ&エディ期特有の寸劇要素はなくロック色が強い。「Chunga's Revenge」収録曲「The Nancy & Mary Music」の元音源であり、同曲が「King Kong/Igor's Boogie」と「The Clap (Chunga's Revenge)」の即興演奏から構成されていることが判明した。

 このアルバムはアーリー・ショーとレイト・ショーの両方を収録しておりお得感があるが、残念ながらアーリー・ショーの一部は音質がかなり悪い。この辺はいかにも発掘音源らしい大らかさではある。


Carnegie Hall (2011)

Carnegie Hall, NYC, NY
October 11, 1971

 フロ&エディ期のライブ盤。モノラル録音。こちらは圧巻の4枚組で、アーリー・ショーとレイト・ショーのみならず、前座のアカペラグループ「The Persuasion」のパフォーマンスまで収録されている。

 本編のボリュームも凄まじく、30分に渡る「King Kong」や45分以上(!)の「Billy The Mountain」など、思わずゲップが出るような演奏が目白押し。このアルバムを聴けばフロ&エディ期のライブの様相はほぼ把握出来ると思う。


Wazoo (2007)

Boston Music Hall, Boston, MA
September 24, 1972

「Grand Wazoo」期のライブ盤。ザッパが20人編成のビッグバンドを率いてツアーを行っていた時期の録音で、この時期のライブ演奏は生前のアルバムでは一切聴けないため非常に貴重な内容である。曲順に手が加えられており、本来は「The Adventures Of Greggery Peccary」の後に演奏されていた「Big Swifty」がその前の位置に移動している。

 聴き所はやはり30分以上に渡って演奏される「The Adventures Of Greggery Peccary」の初期版だろうか。「Billy The Mountain」もそうだが、こんな長尺かつ複雑極まりない曲をライブで演奏してしまうザッパのマネジメント能力には畏敬の念を覚えざるを得ない。「Big Swifty」もバンドのノリノリなグルーヴが楽しい。アンコールは「Penis Dimension」と「Variant I Processional March」のメドレーで、後者は後に「Regyptian Strut」と改題されて「Sleep Dirt」に収録された。


Imaginary Diseases (2006)

October 27-December 15, 1972

「Petit Wazoo」期のライブ盤。前述した「Grand Wazoo」のツアーが短期間で頓挫した後、人数を半分に縮小して再出発した時期の録音。ちなみにザッパ本人が生前にプロデュースした作品の一つでもある。

 自分はどうもこのPetit Wazoo期があまり好きではない。単純に人数が減った分中途半端に聴こえるのと、埋め草的なジャムセッションが多いのが主な理由である。従ってあまり書くことがないのだが、「Farther O'Blivion」はかっちりとした作曲もので好き(後の時期でも演奏されるのでこの時期特有の強みというわけでもないが)。


Little Dots (2016)

October 27-December 15, 1972

「Petit Wazoo」期のライブ盤。感想は「Imaginary Disiases」と大体同じ。「Cosmik Debris」の初期版(イントロのフレーズが二回繰り返される)と「Rollo」の長尺版(この曲は後に「St. Alfonzo's Pancake Breakfast」に組み込まれたり、1978〜1979年のツアーでは「Yellow Snow Suite」のコーダとして演奏されたりする)を含む。


Road Tapes, Venue #2 (2013)

Finlandia-talo, Helsinki, Finland
August 23-24, 1973

 1973年上半期のツアーのライブ盤。この時期のザッパはジョージ・デューク、ジャン・リュック・ポンティ、ルース・アンダーウッドら凄腕ミュージシャンを率いてインスト中心の超絶演奏を繰り広げていたが、生前のアルバムでは「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 6」収録の「Father O'Blivion」しか日の目を見ていないという不遇な時期でもある。

 開幕から8曲を一気にメドレー形式で演奏するなど飛ばしまくりの内容で、ザッパのプログレ的な側面が好きなら必聴レベル。ここで聴ける「Village Of The Sun」は初期版で、「Roxy & Elsewhere」収録版とはアレンジが違う。ボーカルはジョージ・デュークが取っていて、これはこれで味があって良い。


Halloween 73 (2019)

Auditorium Theatre, Chicago, IL
October 31, 1973

「Roxy」期のライブ盤。後述する「The Roxy Performances」と時期が被っているので、正直書くことが殆どなかったりする。あえて言うならばツアーの最初の方なので全体的に過渡期っぽい雰囲気があること、ザッパ特有のユーモアなのか、「The Hook」のフレーズ(「デッデッデデッ……デーデッ!」というやつ)がやたらと入ること、リハーサル音源の「Magic Fingers」は結局セットリストには入らなかったので貴重であることくらいか。


The Roxy Performances (2018)

Roxy, Los Angeles, CA
December 8-10, 1973

「Roxy & Elsewhere」の元音源。ロキシーにて三日間に渡って行われたライブ、リハーサル音源、スタジオでのセッション等がCD7枚に詰め込まれており、ザッパが率いた全てのバンドの中でこの時期こそが最強だと思っている自分にとっては殆どバイブルの如きアルバムである。ライブをそのまま楽しむのも良し、「Roxy & Elsewhere」と聴き比べてどういった編集がされていたのかを確かめるのも良しで、2018年になってようやくリリースされたという一点を除けば文句の付けようもない名発掘盤だと思う。

 極めて個人的な感想だが、「I'm The Slime」と「Big Swifty」のメドレーは「You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 1」で聴いた時は曲の繋ぎ目に編集が入っていると思っていたので、その場で完璧に合わせていることを知った時は泡を吹いて倒れそうになった(大袈裟)。


A Token Of His Extreme Soundtrack (2013)

KCET, Los Angeles
August 27, 1974

 「One Size Fits All」期(「Helsinki」期)のライブ盤で、同名の映像作品のサントラ。ただし理由は不明ながら完全収録はされておらず、「Approximate」と「Cosmik Debris」が入っていない(後述の「The Dub Room Special!」には収録されているが、「Approximate」が入っているのは映像作品のみでサントラには未収録)。「One Size Fits All」収録の「Inca Roads」のベーシックトラックはここから取られている。


The Dub Room Special! (2007)

KCET, Los Angeles
August 27, 1974
+

The Palladium, NYC
October 31, 1981

 同名の映像作品のサントラだが、1974年と1981年のライブをニコイチにしているため今となっては微妙な立ち位置のアルバム。しかもサントラは収録曲数が映像作品よりも少なく、「Nig Biz」(1981年)「Approximate」(1974年)「Cocaine Decisions」(1981年)が未収録となっている。現在はそれぞれ「A Token Of Extreme」「The Torture Never Stops」という単体の映像作品が出ているため、基本的にはそちらをチェックすれば良いと思うが、こちらに収録されている「Cosmik Debris」(1974年)は「A Token Of Extreme」には入っていないという……。


Orchestral Favorites 40th Anniversary (2019)

Royce Hall, UCLA, LA, CA
September 18, 1975

「Orchestral Favorites」の40周年記念盤で、2~3枚目にAbnuceals Emuukha Electric Symphony Orchestraというオーケストラを率いて行ったライブが収録されている。このオーケストラ(実態としてはスタジオミュージシャンの寄せ集め?)は例えば後年ザッパと共演するアンサンブル・モデルン辺りと比較すると練度がかなり低く、実際ザッパもMCでそのことを認めているが、個人的にはこの緩さもまあアリかな、という感想。

「Revised Music For Low-Budget Symphony Orchestra」は名演。この曲の初出はザッパがプロデュースしたジャン・リュック・ポンティのソロアルバム「King Kong」だが、どのバージョンも格好良い。ロックと現代音楽が理想的に融合した曲だと思う。「Black Napkins」はこのライブが初演で、オーケストラ演奏をバックにザッパがギターを弾く。「Lumpy Gravy (Extract)/Improvisation」はタイトルで期待しそうになるが、どちらかと言うと集団即興に近い内容。


FZ:OZ (2002)

Hordern Pavilion, Sydney, Australia
January 20, 1976

 ザッパ唯一の来日公演(1976年2月1~5日)の約2週間前の演奏を収録したライブ盤。「How Could I Be Such A Fool?」と「Kaiser Rolls」でカットがあるため、その部分は別の録音で補っている(前者は2月5日の東京公演の録音が使われているが、すぐに元の録音に切り替わるのでそこまで感慨はない)。

 この時期のテリー・ボジオ以外のメンバーはザッパのファン以外からすると殆ど無名であり、何となく「繋ぎ」のバンドのような印象を持たれている節があるように思うが、決してそんなことはないと声を大にして言いたい。確かにこのバンドは前後の名プレイヤーを多数擁する時期に比べればテクニカルなことは出来ないが、少人数編成ならではの熱気に溢れた演奏はそれらに引けを取らない素晴らしさがあると思う。後年になるとサイドギタリストにバッキングを任せるようになるザッパがギターをバリバリ弾いている点も見逃せない。コーラスワークが何気に上手いのも好き。


Philly '76 (2009)

Spectrum Theater, Philadelphia, PA
October 29, 1976

 ビアンカ・オーディンという女性ボーカリストが在籍していた時期のライブ盤。ザッパ・バンドの女性メンバーはかなり珍しく、ゲストを除くとこの人とルース・アンダーウッドと、後は1975年下半期のツアーに途中から参加したNorma Jean Bellくらいか? ちなみにこのライブは「On Stage Vol. 6」収録の「Wind Up Workin' In A Gas Station」の元音源でもある(本曲のベストテイクだと思う)。

 ただ自分はこの時期はそこまで好きではないというのが正直な所で、ぶっちゃけビアンカのコブシの回ったボーカルはザッパ・バンドとはいささかミスマッチなんじゃないかという気が……してしまうんですね……(小声)。とはいえ「Wind Up Workin' In A Gas Station」のようにケミストリーが起こっている曲もあるし、「Black Napkins」ではエディ・ジョブソンのバイオリンソロ(生前のアルバムでは聴けなかった)もあるしで、総合的には悪くない出来ではあると思う。


Zappa In New York 40th Anniversary Deluxe Edition (2019)

December 26-29, 1976
The Palladium, NYC

「Zappa In New York」の40周年記念盤で、2~5枚目に同時期のライブやデモ音源等が収録されているのだが、丸々一公演が収録されているわけではなく、「Zappa In New York」と同じように複数のテイクが繋ぎ合わされているため、一部の極まったザッパフリーク以外にはもはや訳の分からないことになってしまっている(参照)。個人的にはその辺の事情はあまり深掘りせずに楽しむのが良いと思う。「On Stage Vol. 6」収録の「Black Napkins」のノーカット版を含む。

 管楽器隊付きの「Peaches En Regalia」は否が応でも盛り上がる。「Penis Dimension」や「America Drinks」のライブ演奏も珍しい。「The Purple Lagoon/Any Kind Of Pain」では「The Purple Lagoon」のテーマに挟まれる形で、後年「Broadway The Hard Way」に収録される「Any Kind Of Pain」のメロディがほぼ完全な形で提示される。


Halloween 77 (2017)

The Palladium, NYC
October 28-31, 1977


Hammersmith Odeon (2010)

Recording Trucks by Basing Street Mobile, 25-27 January & Manor Mobile, 28 February; 1978

「Sheik Yerbouti」期のライブ盤。1978年1月25〜27日、2月28日に行われたライブを編集して一つのセットリストを組み上げている。

 ここまで長期間のツアーをこなしてきただけあり、演奏は相当にこなれている。エイドリアン・ブリューのギターソロも聴くことが出来る(全体的にまだ未成熟感があるが)。「Watermelon In Easter Hay」の初期版が収録されているが、この時点ではまだギターソロ用の曲といった感じで、「Joe's Garage」収録版のような完成度はない。


Chicago '78 (2016)

Uptown Theatre, Chicago, IL
September 29, 1978 (late show)

「Sheik Yerbouti」期からメンバーを一新して臨んだツアーのライブを収録したアルバム。ウォーレン・ククルロがまだ加入していない(彼は一年後の1979年に参加する)からか、あるいはミックスのせいか、割とスカスカな音になっている。

「Easy Meat」は初期版(正確には1970年の時点で演奏されているが)で、ミドルテンポでややキナ臭い雰囲気がある。「Village Of The Sun」は70年代前半とは異なるアレンジで、アイク・ウィリスがボーカルを取っている。個人的にこの曲が大好きなので、これ以降ライブで取り上げられなかったのが悲しい。


Buffalo (2007)

Memorial Auditorium, Buffalo, NY
October 25, 1980

 スティーヴ・ヴァイ、ヴィニー・カリウタらを擁する1980年バンドのライブ盤。

 テクニック面では歴代最強とも思われるこのバンド、とにかくザッパとカリウタの壮絶なインタープレイに圧倒される。時代がかったシンセの音は少し気になる所だが、ここまで爆発的なテンションだとかえって無骨な迫力があって良いのかもしれない。超速テンポの「Keep It Greasy」、アイク・ウィリスとレイ・ホワイトの掛け合いが最高な「Andy」など歌ものの出来も良い。アンコールは「Dancin' Fool」に引っかけた猥雑なトークとコミカルなポップソングで賑やかに終わる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?