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ゲーム『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上』レビュー

2024年7月24日に発売された横スクロールアクションゲーム『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上』を一通りクリアしたのでレビューする。ネタバレ要素を含むので、まだクリアしていない方は閲覧注意重点。

本作は、今年で連載14周年を迎えたサイバーパンク・ニンジャアクション小説『ニンジャスレイヤー』の第1部「ネオサイタマ炎上」、正確にはそのコミカライズ作品をベースとして制作されたゲームで、所謂キャラゲーに分類される。ゲームのシステムは往年の『ロックマン』シリーズに近く、全部で8つあるステージを好きな順番で攻略することができ、全てのステージをクリアすると、ラスボスが待ち構える最終ステージ(ボスラッシュ)に挑む資格を得られるというもの。

筆者は『ニンジャスレイヤー』という作品については公式のクイズ企画「ニンジャセンタ試験」で優勝した経験があり、ニンジャヘッズ(ニンジャスレイヤーのファン)の中でも実際かなり詳しい方だと自負している。一方、アクションゲームの知識や実力に関しては何とも言えないが、恐らく人並みのプレイスキルは有しているのではないかと思う。具体的には、ニンジャアクションゲームの金字塔『忍者龍剣伝』を遊んだはいいものの、最後のボス三連戦で負けるとなぜか直前の6-3ではなく6-1まで戻されることに心を折られ、そこで初めてクイックセーブ機能を解禁した程度のワザマエである。アレ普通に意味分からなくないか?

7月26日には早くもSteam版に修正パッチが当てられ、ボス敵のクラウドバスターやヘルカイトがムテキ・アティチュードを習得している……もとい、自キャラの攻撃が当たらないことがあるというバグ等が修正された他、自キャラの操作性や攻撃の当たり判定が改善されたり、黄色・白色のクローンヤクザの体力を下げたりと、ゲームをより遊びやすくする調整も行われた。ただ、自分はNintendo Switch版を購入したのでこれらの修正点を実際に確認できておらず、そのためSteam版とこのレビューの内容には一部噛み合わない部分が生じうることに注意されたい。

なお、ゲームのスクリーンショットは惰弱(訳注:「撮るのが面倒」の意)なので文章オンリーのスタイルである。


実際難しい?

自分の感覚では(最新パッチが当てられる前の時点で)それなりに歯ごたえはあるものの、普通にクリアするだけならそこまで難易度は高くないと感じた。よく指摘される自キャラの操作性の悪さも、個人的にはそこまで気にならなかった。ただ一方で、「難しくてボス敵までたどり着けない」という意見も(特に発売直後は)よく見られた。確かに、それこそ『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』等の名作アクションゲームをクリアした経験のあるような人なら本作にもすぐに適応できるだろうが、普段はほとんどゲームを遊ばない人が、原作やコミカライズ経由で本作に触れたというケースを想定すると、これは少し厳しいかもしれない(前述の通り、現在はアップデートにより改善されている可能性はある)。

特に、最初のうちはプレイヤーのスキル自体がまだ未熟な上に、アクション面でも二段ジャンプができなかったり、体力やヒサツ・ワザのゲージが少なかったりと制限が課せられている部分が多く、「最初が一番難しいゲーム」になってしまっている感は否めない所がある。これは大元の『ロックマン』シリーズにもありがちな現象なので、ある意味原典に忠実と言えなくもないが……。付け加えるなら、原作やコミカライズの読者がまず最初に選ぶであろうアーソンのステージが、炎を避けたり穴を飛び越えたりと、比較的テクニカルな動作を求められる構造となっていることも、本作が取っつきにくい印象を持たれがちな原因の一つではないだろうか。

ただ、個人的にはステージやボス戦の難易度云々よりも、チュートリアルが導線としてあまり上手く働いていないことの方が問題だと思った。このゲームの肝は「ニンジャダッシュ」「ヒサツ・ワザ」で、基本的にはニンジャダッシュでザコ敵を轢殺しつつ素早く移動し、強制戦闘地帯ではニンジャダッシュやヒサツ・ワザを駆使して群がってきた敵を一掃する(通常攻撃やスリケンはどちらかと言えばサブウェポン的な位置付け)というゲームデザインになっているのだが、この流れをチュートリアルの中でしっかりと体験させていないため、通常攻撃やスリケンでちまちまと攻撃した結果、敵の弾幕に晒されてジリー・プアー(訳注:徐々に不利)に陥るというケースが頻発しているように見受けられる。一応、ソニックブームのステージは「ここでニンジャダッシュを使ってまとめて轢殺してくれ」と言わんばかりに大量のザコ敵が出現するため、前述の流れが直感的に理解しやすい構造となっているのだが、正直これは本編ではなくチュートリアルの時点で示しておくべきことではないだろうか。

そもそも、公式が謳う「ハイスピードニンジャアクション」の根幹を成すのがニンジャダッシュというアクションなので、ニンジャダッシュを使わないと通れない場所を用意するなりして、このアクションの有用性を最初から明示しておくべきだったと思う。また、スティックを倒さないままニンジャダッシュを出すと近くの敵をホーミングするという性質があるのだが、これについてもチュートリアルでは特に説明されなかった。ナラクおじいちゃんはRボタンで(特に序盤は貴重な)体力と引き換えにスリケンを生成できるというロクに使わない機能の話をするくらいなら、もっと他に言うべきことがあるだろうと思う。そういえば、ナラクはアラバマオトシについて「強敵には通用せぬぞ」と説明していたが、実際にはアラバマオトシはボス敵のインターラプターやゲイトキーパーの弱点として設定されているため、情報が不正確である。本当にボケているのかもしれない。それから、壁キック(忍殺風に言えばトライアングル・リープか)についての説明がなかったのも地味に気になった。「ニンジャなんだから壁くらい蹴れるでしょ」という暗黙の了解があるのかもしれないが、そうは言っても特殊なアクションではあるのだから、きちんと説明しておくに越したことはないはず。ただ、「丁寧な説明」と「自分で発見することの楽しさ」はある程度トレードオフになるので、あえて最低限の説明に留めたという可能性も考えられなくはないか? 個人的にはそういうレトロゲーめいてプレイヤーを放り出すスタイルは嫌いではないが、コアゲーマーからライトゲーマーまであらゆる人が自由にレビューを書く今の時代において、説明の不足が評価を下げられる原因になりうること自体は至極当然だとも思う。


ニンジャアトモスフィア

『ニンジャスレイヤー』といえばやはりこの独特な世界観……すなわち、『ブレードランナー』や『ニューロマンサー』といったサイバーパンクSFの古典の延長上にある「異形の近未来日本」であり、メディアミックスの際にはこれをいかにして作品に落とし込むかがファンにとっての最大の注目点と言っても過言ではないだろう。そこへ行くと、本作は忍殺アトモスフィアの表現については割と頑張っている方だと思った。

ゲーム開始時のNRS(ニンジャリアリティショック)への警告や、ナラクによる妙に馴れ馴れしいチュートリアル等は、言ってしまえば「ニュービー(初心者)向け」という感じで多少の微笑ましさもあったが、ステージの背景の作り込みには素直に感心した。謎の日本語が書かれたネオン看板に埋め尽くされた街並み、ネオサイタマの夜景に浮かぶホロトリイ・コリドー、バイオスモトリの詰まった冷蔵庫が並ぶキルゾーン、高層ビルと和室が入り混じるコトダマ空間、そして最終決戦を高みから見下ろすドクロめいた月……。何しろゲームスピードが速いので普通にプレイしていると見落としがちなのが玉に瑕だが、第1部の猥雑なネオサイタマの風景が見事に表現されており、この点は評価されるべきだと思う。キャラの3Dモデルは背景から若干浮いているようにも見えるが、どこか古の実写取り込みゲームを彷彿とさせるノスタルジックな質感があり、慣れるとこれも意外とアリなんじゃないかと思えてくる。

各ステージの冒頭やボス戦前に流れるムービーは流れをバッサリと端折っているため、『ニンジャスレイヤー』という作品を完全に初見の人がプレイしても第1部の物語を理解するのは恐らく不可能であり、そこは原作かコミカライズを履修済みなことを前提として作られている感は否めなかった。ニンジャヘッズの配信者がこのゲームを取り上げる際には、相当なニンジャ説明力が求められると思う。また、本編(ステージ&ボス戦)のボリュームに比べてムービーがあまりに長すぎるのはダレるという判断なのか、もしくは単にそこまで制作する余裕が残っていなかったのかは分からないが、インターラプターを倒した後、最期のやり取りもなくそのままリザルト画面に移行するのは流石に拍子抜けで、やはりボス撃破後のムービーがないのは些か物足りないと言わざるを得ない。原作のインターラプターは最期にドラゴン・ユカノの行方の手がかりを伝えているのに対して、本作ではそもそもユカノやヤモト・コキの存在自体がオミットされているが、別にそこはユカノに言及した箇所だけ省いても構わないし。

ムービー中に表示されるテキストは、出し方が一辺倒かつ最後の方は妙に巻き気味な印象で、もう少しセリフの「間」に気を遣うか、いっそコミカライズに準拠してフキダシの形でセリフを出すというのもアリではないかと思った。ただ、テキストの内容自体は原作サイドが積極的に関与していることもあり、読んでいてほとんど違和感がない。一つ例を挙げると、「武田信玄」をカタカナ表記にしていないことに研修の成果を感じた。強いて言えば、ラオモト・カンとの最終決戦におけるフジキドとナラクの対話シーンの「お前は否定しようのないの一部だ!」はコミカライズに倣って一人称を「俺」にして欲しかったが、気になったのはそのくらいだった。

ただ、ワガママな意見であることは承知しているのだが、全体的に手堅く作りすぎというか、全編を通して単にコミカライズの縮小版めいたスケールになってしまっているのは残念だった。発売前のインタビューでは「今回のゲーム化により、さらにWikiで補完される要素もあると思う」という旨の発言もあったので、一体どんな話が飛び出してくるのかと内心ワクワクしていたのだが……。一概に比較できるようなものでもないが、以前に発売された公式ゲーム『AREA 4643』は全体的にかなり与太に近いとはいえ、一応第3部最終章の後に起こった騒動の一つとして位置付けられる物語であり、話の内容自体も、ヤクザ天狗がキョート城に特別な反応を示していたり、アガメムノンがロックンロールを危険視していたり(ドールハウスのセリフ「わかった。あなた、ロックンロールが怖いのね」は第3部を読んだ後だと色々感慨深い)、プロト版のニンジャスレイヤーを引っ張り出してきたりと、原作を読み込んでいるファンをも唸らせる要素がさりげなく仕込まれていたのに対して、本作ではそうした新鮮な驚きは感じられなかった。

なので、もう少しゲームというメディアならではのオリジナル要素……例えば、敵ニンジャの攻撃に新規に技名を付けるくらいのサプライズはあってもよかったかもしれない。ゲーム内に組み込むのであれば、ボス敵を倒すと新規書き下ろしのニンジャ名鑑が読めるようになって、そこに攻撃モーションと対応した技名が記載されているとか。アイアンヴァイスを筆頭に、本作には「原作にない攻撃」を繰り出してくるニンジャも少なくない(これ自体は自分は好意的に受け止めている)ので、そこをもっと深く掘り下げてくれたら設定厨的には楽しかった。ニュービーヘッズ向けと言うには話を切り詰めすぎで、重篤ヘッズ向けと言うには新規の情報やIF展開もないという、このどっちつかずの中途半端な内容には大いに改善の余地があると思う。

個人的には、第2部以降に話が持ち越しになるユカノやヤモトの出番を削るのはこの際許容するので、その分「ニンジャスレイヤー=フジキド・ケンジの復讐譚」のみにフォーカスした第1部の物語を見てみたかった。原作は第1部だけでも相当な文章量があるし、コミカライズは時系列がバラバラかつ突然第2部に飛んだりもするし、アニメイシヨンはヒロイン勢の登場エピソードを重点した結果、13話~18話くらいまではニンジャスレイヤーとソウカイヤの戦いに直接関係しない内容が続いていた。なので、第1部の骨子を抜き出して再構築した作品は意外とブルーオーシャンで、ある程度需要も見込めると思うのだが……。ただ、原作の追体験を目指す方向性だと、8ボス制かつコミカライズ準拠の本作ではどうしても担い切れない部分は出てきてしまうが、それでもエピソードの取捨選択やムービーの見せ方次第では近いこともできなくはなかったと思うし、つくづく惜しい作品ではある。

他の人のレビューでは、ニンジャスレイヤー以外のキャラにボイスが付いていないことに不満を抱く意見が散見されたが、個人的にそこはあまり気にしていない(キャラゲーとしてどうなのかと言われれば一理も二理もあると思うが)。まあ、ゴブリン=サンのナレーションくらいはあってもよかったと思うが、何しろテキスト量が少ないのであまり恩恵を受けられなさそうではある……。なお、本作のニンジャスレイヤーのカラテシャウトは従来の森川智之=サンではなく、中山祥徳=サンという方が演じている。自分は声優については完全に門外漢だが、「Wasshoi!」のシャウトがやや軽く感じられた程度で、全体的にはゲームをよく盛り上げてくださっていると思う。


ヒサツ・ワザ

ヒサツ・ワザはタイムアタックだと技の威力やフレーム的にポン・パンチとドラゴン・トビゲリくらいしか振らなくなるが、概ね良い出来だと思う。ポン・パンチの持続フレームが長めに設定されているので、後続のザコ敵まで巻き込めるのは爽快感があるし、タツマキケンで体力をゴリゴリ削っていくのも楽しい。一つ難点を挙げるとすれば、ヒサツ・ワザの使用直後の硬直時間が無敵状態ではないため、倒し損ねた敵や後から湧いてきた敵に囲んで棒で叩かれる状況に陥りやすいのはややフラスト。これは最新パッチでも修正されていないので(今後アップデートされる可能性もあるが)、意図的な調整なのだろうか。


ステージ

第1部はほとんどネオサイタマのみを舞台に展開される物語だが、その中で可能な限り様々なロケーションを用意しようとした努力は伝わってくる。特にノトーリアスとダイダロスのステージが分けられていることに苦慮の跡を感じた。オカメ武力ビルがデカすぎるとかハイウェイが長すぎるというのは無粋なツッコミで、ネオサイタマならあり得なくもないスケールだろう。

背景だけでなくステージデザインも差別化がなされており、専用のギミックがないオーソドックスなステージでも、アーソンのステージが上下に昇り降りする構造なのに対して、バジリスクのステージは概ね右に進んでいく構造となっているなど、変化が付けられていて良い。また、各ステージには永続パワーアップアイテムのバリキドリンクが一つずつ隠されているが、丁寧に探索すればちゃんと見つけられる場所に置いてあるのは高評価。欲を言えば、ドリンクを取得済みのステージにチェックマークを付けてくれれば完璧だった。それから、高ランクを目指すプレイだと必然的にリセットを繰り返すことになるので、ステージに毎回入り直すのではなくそのままリトライする機能が欲しい。

BGMは「ニンジャ×サイバーパンク」の文言から想像される楽曲の最大公約数という感じで、あまり冒険はせず堅実にまとめているという印象が強いが、アイアンヴァイスのステージで流れる、呼び込み君めいたメロディに音が重なっていくBGMは秀逸だと思った。

個人的にはクラウドバスターのステージで、高層ビルの谷間からマグロが飛び上がってくるのが良い意味でバカすぎて好き。お前どこから跳ねてきたんだよ。マグロは倒すと高確率で回復アイテムのスシを落とすので、攻略に役立つのもセンスを感じるポイント。

そういえば、原作者のボンド&モーゼズは「ゲーム的にアレンジされたステージギミックの数々の無慈悲さに震え上がった」とコメントしていたが、これってやっぱり禁断症状に陥ったインターラプターにオハギを食べさせて壁を壊してもらうギミックのことなんだろうか。制作陣は頭ウォーロックかと思わざるを得ない内容だし……。


敵ニンジャの人選

「第1部のコミカライズで一定以上の活躍を披露した敵ニンジャ」という縛りの中から選んだものと見て間違いないだろうが、概ね妥当な人選であったと思う。というより、他にボス敵を務められそうなニンジャを挙げると、フォレスト・サワタリ、フロストバイト、ミュルミドン、ブラックヘイズくらいで、キャラに合わせてステージも制作しないといけないことを考えると、選択肢自体がそこまで多くないというのもあるが。

個人的には、コミカライズでは尺の都合上、戦闘シーンが一瞬で終わってしまったゲイトキーパーがボス敵としてしっかり登場したことに感激した。戦闘前のムービーのモノクロ演出もカッコよく、ともすれば「ぽっと出のキャラ」と見なされがちなゲイトキーパーに対して、最後の関門として相応しい出番を用意しようという制作陣の心意気が伝わってきた。

ただ、ノトーリアスが出演しているのにサワタリはいない(一応ムービーで一瞬映ってはいる?)というのは、どうにも片手落ちの感が否めない。予算等の都合で厳しかったのかもしれないが……。一番良いのはボス二連戦という形で実装することだが、それが難しいのであれば、本作ではサワタリはニンジャスレイヤーのアンブッシュで気絶まではしていないということにして、負傷しながらも画面外からノトーリアスを援護するくらいの展開があってもよかったと思う。当然原作やコミカライズの展開とは異なるが、このくらいの改変なら許容できるというファンの方が多いと思うし、自分もサワタリとノトーリアスの連携攻撃とか普通に見てみたかった。

個人的には、第1部のミニマルさを重点して敵をソウカイヤ一本に絞るという観点から、ノトーリアスを外してフロストバイトを入れるのもアリだと思った(その分ロケーションは狭まってしまうが)。それを言うならクラウドバスターもソウカイヤではなくオムラ・インダストリ所属だが、第1部のオムラはソウカイヤへの隷属性が高いのに対して、サヴァイヴァー・ドージョーは第1部の時点ですでに独立勢力として動いているので、他の面子と比べると浮いて見えるというか……。フロストバイトは原作の時点で氷スリケン、液化窒素の噴射、ヒサツ・ワザの氷クナイ・ダートと第1部の敵ニンジャにしては珍しく色々な技を持っているし、ノボセ老をソウカイヤから守るという体裁でタワーディフェンスめいたギミックも実装できそう。何より、フロストバイトが登場する【メリークリスマス・ネオサイタマ】は、第1部はおろか作品全体で見ても最重要エピソードの一つであり、『ニンジャスレイヤー』の物語面を重点するのであれば絶対に外せない話なので、ステージデザインが他と多少被るとしても、これを入れる価値は十二分にあったはず。ただ、サワタリとノトーリアスがセットで出演できていれば、それはそれでまた違った印象になったとは思う。


ボス戦

ボス戦の難易度については、アーソンは格ゲーのキャラめいて飛びを落としてくるが、他のボスキャラはジャンプしたりニンジャダッシュで滞空していれば大抵の攻撃は避けられるので、やはりそこまで難易度が高いとは思わなかった。当初は「クラウドバスターが強すぎる」という意見が多く見られたが、これは前述のバグが悪さをしていた面が大きいと思っていて、フックロープという明確な弱点(原作再現要素で○)もあるし、対策すればむしろ弱敵まであると思う。一方、ヘルカイトはバグを抜きにしても攻撃を食らった位置によっては針穴に落とされて即死という相当なクソボスだが、コイツは原作からしてクソボスの匂いがするキャラなので、自分はそこまで頭に来なかった。真面目な話をすると、サマーソルトキックを当てれば体力をゴッソリ削れるので、ゴリ押しでも案外何とかなる。

もっとも、カメラが基本的に自キャラに近すぎる関係で、敵の技モーションを確認しづらいのは減点要素か。相手の技の後隙を見出しにくいというのもあるが、自分はどんな技を使ってくるのか確認したかったので、わざと攻撃を食らって技モーションをじっくり見るというイタミ・ニンジャクランめいた所業に手を染めていた。

ボスキャラの技モーションは本作の中でも見所と言ってよいと思う。第1部の敵ニンジャは一部を除いて基本的に技のバリエーションが少ないため、先に述べた通り、オリジナルの攻撃を繰り出してくるキャラも少なくないが、逆に言えばそれらは本作でしか見られない要素なので貴重である。インターラプターの大岩を投げる攻撃は、ビジュアルも相まって山のフドウにしか見えなかった(そういえば暗い過去を持つ点も共通している)が、「流石にそれはなんか違うのでは?」という技はそのくらいで、他は概ねそのニンジャのイメージを壊さない範囲内にまとめられており、自分は好感を持った。特にアイアンヴァイスがカッコいい。原作ではスリケンで固められて首チョンパされて爆発四散という、「エピソードボスには花を持たせてやろう」という配慮すらない第1部のサツバツさを象徴するキャラの一人だが、実際に動く姿を見るとマッシブな体格が映えて普通に強キャラっぽいし、ゆっくりとしたモーションの掴み攻撃も、避けること自体は簡単だが「これに捕まったらヤバイ!」という恐ろしさが伝わってきてワザマエな表現だった。ちょっとルイナーのカラテを彷彿とさせるものもある。


シークレットミッション

各ステージにはそれぞれ「シークレットミッション」が用意されており、クリアするとチェックマークが付く。これ自体はさして珍しくもないやり込み要素だが、本作はミッションの内容について全くヒントがない上に、「ミッションをクリアした後も、具体的にどのようなお題を達成したのか分からない」という謎めいた仕様となっており、かなりの顰蹙を買っている模様。これは正直自分の方でも意図が全く分からなくて、本作の明確な難点と言わざるを得ない。SNS等で情報交換するみたいなことを想定しているのか……? もしくはこれから公式アカウント等で順次情報が明かされていくのかもしれないが、自分としてはこの手の要素はゲーム内で完結させて欲しい。例えばラスボスを倒したら各ステージのお題が表示されるとか、クリアランクA以上を取ったらそのステージのお題が分かるようになるとか、いくらでもやりようはあるはず。

しかも、シークレットミッションが単なるやり込み要素に過ぎないのならともかく、「ミッションを全てクリアするとダークニンジャのステージが解放される」という重要な隠し要素が仕込まれているので、なおさら現在の仕様が不親切に感じてしまう。というか、仮にも主人公の仇敵であるダークニンジャのステージをこんな分かりづらい隠し要素にするのはいかがなものかと思う。ほとんどのプレイヤーは隠しステージの存在に気付かず、トコロザワ・ピラーで初めてダークニンジャと戦ったのでは? 両ステージのダークニンジャを比較すると、どうも隠しステージの方が強く設定されているようなので、制作側の意図としては先にトコロザワ・ピラーを攻略する流れで合っているのかもしれないが、それはそれでどんな判断だよと突っ込まざるを得ない。確かにダークニンジャは主人公の宿敵ポジションの割に第1部の時点では影が薄いと弄られることもあるが、なればこそ逆にこういうゲームでは彼を目立たせようという気概はないのかと問いたい。「妻子を直接に手にかけた男」との戦いをメインストーリーに組み込まず、おまけ要素みたいな形で済ませるって一体どういうこと? 話の流れ的にも、解毒アンプルに関係するノトーリアスとダイダロスのステージを両方クリアしたら強制的にダークニンジャと戦闘することになる展開の方が絶対に興奮したと思う。

色々と文句を書いたが、「クラウドバスターをナラク状態で倒す」「ノトーリアスにサマーソルトキックでとどめを刺す」といった原作再現系のお題は良いと思うので、そこは純粋に評価したい。


今後(デパーチャ)と総評(アライヴァル)

総合的には良くも悪くも古式ゆかしいキャラゲーといった所で、少なくとも『ニンジャスレイヤー』のファン、具体的には原作の主要なエピソードやコミカライズの第1部を読破した人向けの作品ではある。中でも、本作に登場する敵ニンジャが好きな人や、第1部のまだ設定が固まり切っていないゆえのバカ要素に愛着がある人にはオススメできると思う。

また、クリアランクSを目指すとなるとかなり正確なプレイングが求められる(自分はまだクラウドバスターのステージでしかSを取れていない)ため、そこまでやり込む人にとってはスルメゲーになる可能性はある。ステージ自体がタイムアタックを前提として設計されている感がある上に、ニンジャダッシュやヒサツ・ワザのゲージ管理も重要になってくるので、RTA勢による「ルートを緻密に構築した上での走り」はぜひ一度見てみたい。

しかし、Steamのストアページの評価が「やや不評」というのは、少なくとも集合知としての評価はかなり低いと言わざるを得ないかな……。正直「賛否両論」の時点でヤバイという風潮すらありますからね。自分はPCゲームにはあまり詳しくないが、今時は1,000円~3,000円の価格帯のインディーゲームでも相当なクオリティを誇る作品も珍しくないようなので、そうしたゲームと比較した時に、IPの魅力を加味しても肩を並べられるほどのクオリティには残念ながら達していなかったということだろうか。

Steamの評価で言うと、『AREA 4643』は「非常に好評」なんですよね。『AREA 4643』もストーリーは万人受けするような内容ではないので、純粋にゲーム性の面で差がついたか、もしくは発売前の宣伝で注目を集めすぎたのがマイナスの方向に働いてしまったか。仮に後者だとすると、まあ……やっぱりアニメイシヨン(念のために書くと、自分はアニメから『ニンジャスレイヤー』に入ったのであの作品自体に含む所は何もないし、好きな点も沢山ある)への評価が賛否両論で激しく分かれてしまったことを想起してしまう所はありますよね。発売から2日でパッチが当てられるなど、今からでも内容を改善しようという動きは見られるので、一ユーザーとしては穏当な所に着地することを願っている。

個人的にはゲームというメディア自体には可能性を感じるので、今回でこの方面のメディア展開が打ち切りになって欲しくはないと思う。ベタだけど格ゲーとかやってみたい。それから、実現可能性は限りなく低いだろうが、究極的には現在連載中の「AoM(エイジ・オブ・マッポーカリプス)」の世界を舞台としたオープンワールドゲームが遊べたら最高だと思う。デジ・プラーグやネザーキョウ等の都市を訪れることができて、ネオサイタマではカリュドーンの狩人達と死闘を繰り広げられるようなゲームが出たら、これはもう間違いなくサイバーパンク系のゲーム史に名を残す傑作になるはず。

後はまあ、本作を直接プレイするのでなくとも、例えばゲーム配信の視聴等をきっかけに『ニンジャスレイヤー』という作品に興味を持つ人が増えれば、充分に役割は果たしたと言えるのではないだろうか。『ニンジャスレイヤー』にはX(Twitter)での連載に限っても14年という歴史があり、今や大河小説さながらの重厚長大な物語となっているが、そこには復讐譚を基調としつつも多種多様なエンターテイメントのエッセンスが凝縮されており、この作品を追いかけるだけの価値は必ずあると思う。現行の「AoM シーズン5」は、公式が「シティアドベンチャー」や「サスペンスホラー」を謳っている通り、まさにオープンワールドゲームめいて物語の主軸となるメインクエストと、それに関係する内容のサブクエストが交互に来るような形で連載されていて、さらにその中でネオサイタマの闇に蠢く諸勢力の様相が断片的に明かされるという新しい試みがなされており、これまでの物語とは違った面白さをすでに確立しつつある。ここまで読んでくださった方はすでに筋金入りのニンジャヘッズだと思うが、ぜひとも現行の連載にキャッチアップして欲しいということを強調して、このレビューは終わりとする。

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