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Maison Louis Marie。情景再現度バツグンの香水

私はストーリーに魅せられると周りが見えなくなるタイプです。音楽はその最たる例で、生い立ちや作り手のインタビューを読んでしまうと、曲やアルバムが彼らの歩んできた人生の通過点のように感じられ、共感の沼に深く落ちていきます。

今日はそんなストーリーに引き込まれる香水ブランド、メゾン・ルイ・マリーです。NOSE SHOPの紹介文を引用します。

フランス革命時の亡命先で2,000種以上の新種の植物を発見し、フランス植物学の父として歴史に名を刻んだ偉人ルイ=マリー。新たな植物の存在を証明しその特徴を明らかにするための証として、膨大な植物標本の遺産を築いた。その有り余るほどの探究心を原点とした、植物への情熱は脈々と今に受け継がれ、未来へとつながっていく。約200年の歳月を経て、ルイ=マリー家の子孫がその植物学の情熱と叡智を、祖先の名を称えたフレグランスメゾンとして現代に蘇らせた。それは、貴重な天然植物の新しい解釈と変化に満ちた、嗅覚で採集される香りの植物標本。驚くほど繊細で深淵かつ寛容な香りは、採集地として一族にゆかりのある場所、あるいは採集対象である植物の名が記されている。植物に根ざした豊かな歴史を背景に、ルイ=マリーの軌跡を香りで辿る、新たな香水づくりの冒険はつづく。

https://noseshop.jp/collections/maison-louis-marie

このヘリテージとストーリーに惹かれ、ディスカバリーセットを購入しました。いずれも強くは香らず、自分のパーソナルスペースにほんのりと香る感じです。作家性よりも情景再現性が高いフレグランスなので、その情景が自分の過ごしたいシーンと合うなら、しっくりくると思います。

ざっと主観レビューをしていきます。

No.2 ル ロン フォン|ル ロン フォン植物園

No.2 ル ロン フォン|ル ロン フォン植物園

ヒノキといえば、真っ先にイソップのヒュイルを思い出す。ヒュイルは賛否両論のフレグランスだが、このNo.2のヒノキはまるで植物園をそぞろ歩くような自然そのものの香り。パウダリーで優しく、ほんのりと甘い。このセットの6本の中で唯一、香りの持続時間が短く感じられ、気づけばあっという間に使い切ってしまっていた

それほど香りの主張が控えめで繊細なので、レビューに惑わされることなく、本当に自分の過ごしたい時間に寄り添うフレグランスかどうか、自分の鼻で確かめてみてほしい。

No.4 ボワ ドゥ バランクール|バランクールの森

No.4 ボワ ドゥ バランクール|バランクールの森

お香のような香りが、深い森のミステリアスさを描き出し、まるでディプティックのタムダオのような世界を彷彿とさせる。ウッディの中に、ほのかに漂うシナモンがエキゾチックな魅力を添えているが、その香りの変化は控えめで、つかみどころのない香りと感じられるかもしれない

個人的には、タムダオからNo.4に心変わりするほどの決定的な理由を見つけられなかった。

No.9 ヴァレ ドゥ フェルネ | ヴァレ ドゥ フェルネ自然公園

No.9 ヴァレ ドゥ フェルネ | ヴァレ ドゥ フェルネ自然公園

初めの一瞬、フレッシュで爽やか、そしてスパイシーな刺激が走る。ウッディなベースノートに柑橘類の皮のようなほのかな苦み。ラストノートではムスクの優雅さに加え、香りが飛びやすい柑橘がしっかりと最後まで残り続ける。この清潔感あふれる香りを否定できる人は、ほとんどいないだろう

No.12 ブスヴァル|ブスヴァルの夏

No.12 ブスヴァル|ブスヴァルの夏

ヨーロッパの涼やかな夏。風に乗って漂うシトラスの香りは、清涼感に溢れ、甘さとスパイシーさ、そしてフローラルな旋律が親密に調和している。それはまるでマリーの母の故郷の風景をそのまま映し出すかのようだ。深く息を吸い込むと、アンバーやミルラの中に微かに残るベルガモットが、フレッシュさと複雑さを見事に融合させている。

この香りが通り過ぎる一瞬、古びたアルバムをめくるような懐かしさが胸に広がる。それは、過ぎ去った日々の記憶を優しく呼び覚ます、ノスタルジーに満ちた魔法。

No.13 ヌーベル ヴァーグ|新しい波

No.13 ヌーベル ヴァーグ|新しい波

ココナッツウォーターとレモンの爽やかで明るい香りが、フィグのクリーミーな甘さと見事に調和する様子はまるで陽光が差し込む楽園の一角のようだ。その香りは、甘くフルーティーでありながらも、甘さが過剰に主張しない繊細なバランスを保っている。

ウッディな香りがベースを支えるものの、フィグの香りが一際強く存在感を放つ。その特性ゆえ、好みが分かれるかもしれない。

アンティドゥリス カシス | カシス

アンティドゥリス カシス | カシス

今回の6本の中で唯一、番号を与えられていないフレグランス。付けた瞬間、明瞭に立ち上るカシスの酸味とベルガモットの柑橘感が、避暑地で過ごす朝のような清涼感をもたらす。全体的に甘めの香りだが、ホワイトローズのフローラルさが柑橘の酸味を程よく抑え、絶妙なバランスを生み出している。

情景から調香したのではなく、原料から情景を紡ぎ出そうと試みたかのようなフレグランスだが、ストレートに言えば、その名の通りカシスの香りしか感じられず、深みを欠いていると言わざるを得ない。しかし、そのシンプルさゆえに、特定の瞬間にぴったり寄り添うこともあるかもしれない。

まとめ

最後の「アンティドゥリス カシス | カシス」は、他のどの成分よりもカシスの香りが前面に出ている調香なのでしょう。もともと強く香らないブランドだからこそ、カシスの香りが一層際立って感じられるのだと思います。いろいろなシーンで使ってみましたが、私にはしっくりきませんでした。

カシス以外はすべて好きな香りです。個人的には「No.9」と「No.12」はボトルで購入しても良いと思えるほど。NOSE SHOPのスタッフと話していたら、私の好きな香水の傾向(香水っぽくなくさりげなく香る)から見て、メゾン・ルイ・マリーはきっと好みだろうとのこと。まったく同感ですね。

香りの植物標本。フランス植物学の父として歴史に名を刻んだ偉人ルイ=マリーの遺産を大切に受け継ぎ、その軌跡を香りで辿るということに真摯に取り組んでいるブランドだと思います。

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