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香水好きの終着駅? フエギア #3(完結編)
香りが視覚と聴覚を呼び覚まし、ストーリーを映像化するフレグランス。ジュリアン・ベデルの創り出す世界は、香りのノートを平面的な順序ではなく、楽器が奏でるハーモニーのように立体的に構築されている。まるで映画のサウンドトラックのような感覚を味わえるフレグランスです。
これでフエギア探索は本当に終わり。自分に合う香りにたどり着くには時間が必要という結論です。もう一度この世界に浸りたくなったら、ショップに出向こうと思います。
過去のノート
香水好きの終着駅? フエギア #1
香水好きの終着駅? フエギア #2
Equation
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コンスタンチン・ツィオルコフスキー。ロケット研究者の偉大なる業績を銀河にまで誘う雄大なストーリーが広がる。この香りは、鮮烈な木炭の香りと白樺のレザリーさが特徴だ。スモーキーを超えた焦げ臭さのインパクトは思いのほか早く引き、森に踏み入れたかと思うとすぐにオリバナムのミルキーな甘みに支配される。宇宙飛行士によると宇宙はラズベリーのような匂いがすると言われている。そのリアリティをもう少し感じさせて欲しかった。1回つけてギブアップした香り。
Endeavour
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英国の調査船エンデバー号へのオマージュ。この香りは、軽やかなウッディーさとバラのような甘さを持つ希少なブラジルシタンを基調としている。和のヒノキが森林浴を彷彿とさせ、その中にミントとピンクペッパーが点々と香るのが特徴だ。エンデバー号へのオマージュとしては一見想像しにくいが、シンプルでリラックスできる香りは、フエギアでは珍しい。
Indigo
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インディゴ、深海、染めたてのリネン、夕暮れの空。マルコポーロが持ち帰ったインドの神聖な色をテーマにしたフレグランス。天然藍を使ったこの香りは、植物へのオマージュが根底にある。最初は鉛筆のようなシダーウッドの匂いに鼻をつまみたくなるが、それも一瞬。やがてドライでアーシーな香りに落ち着き、青い土があるとしたら、きっとこんな香りだろうと思わせる。デニムに例えるなら、リジットから2年ほど履き慣らしたブルーのような、清潔で落ち着いた香りだ。
La Luna
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熱帯雨林ラカンドナで行われる夜の儀式では、コパル樹脂が月の女神に捧げられ、花々からはフェロモンが放出されるというストーリー。立ち上がりの明瞭なグリーンさに、ドライな甘さとスパイシーさが交差する。甘みを伴う樹木、樹脂、植物を成分とするのが特徴だ。アミリスはたいまつに用いられるが、焦げ臭さは出てこない。このフレグランスを纏っていると、気になる人との距離がいつもより近く感じられるかもしれない。そんな不思議な力を持つ香り。
Negus - Yassin Bey
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1990年代のアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを牽引したヤシーン・ベイとのコラボレーション作。俳優や批評家としても知られる彼の半生を、オポポナックスの温もりあるスパイシーな甘みと、フランキンセンスとグレープフルーツのほろ苦さで表現しようと試みたのかもしれないが、その香りは驚くほど控えめだ。もしそういうオーダーだったとしたら、彼は安住の地を求めているのかもしれない。率直に言えば、商業目的で作られたフレグランスという印象を拭えない。
Pulperia
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ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「ピンクの角の男」と「記憶の人フネス」が会話を交わすストーリー。艶やかなレザーを、ブラックペッパーの苦みとレモンのようなエレミのウッディーノートがふんわりと包み込む。アルゼンチン出身の作家と調香師。この二人が「バベルの図書館」について語り合う姿を想像すると、知的な気分に浸れる。ボルヘスへの敬意が感じられる奥ゆかしい香りだ。
Muskara Phero J.
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作為的な香りに支配されたこの世界へのアンチテーゼ。ほのかな化粧水のような香りが完全にしみわたったとき、肌から穏やかに時間をかけながら、まるでこれが自分の肌の香りかもしれないと錯覚するほどの調和をもって、ムスクの香りが立ち上がってくる。香水とはそもそも何らかの作為をもって生み出される製品だ。その香りを生み出す者が、香りのあり方に一石を投じた。なるほど、これは確かに世の香水へのアンチテーゼかもしれない。官能を過剰に押し出すムスク系フレグランスとは一線を画す香り方。ジュリアン・ベデルが最期に纏いたい香水というのも腑に落ちる。最後に出会えてよかった。
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