小さなミュージアムについて

久しぶりに時間と心の余裕ができたのと、将来の展覧会のリサーチのため、市内の建築を自転車で巡り、いくつかミュージアムも訪問。その訪問したミュージアムの中で、残念ながらかなりがっかりする展示の館がありました。自分が学芸員として小さなミュージアムに勤めている立場から、やるせない気持ちになったので、記録として残そうと思います。

 館名はもちろん出しませんが、金沢市の郊外にあるミュージアムに伺いました。訪問したきっかけとしては、展示の内容に興味があったと言うよりは、館の建築に特徴があったため、外観を写真に収めつつ、内部も見てみようと言った次第です。

 館のテーマとしては、地域の偉人の顕彰と近世の地域史といったところでしょうか。施設の規模はコンパクトですが、一方通行でいくつかの展示室を一周できる効率の良い空間構成は魅力的でした。

 さて、肝心の展示ですがどういったところが残念だったのかいくつかのポイントで整理します。個人的には、日本各地の小さなミュージアムがどこも抱える課題であると認識します。また、一朝一夕には解決できない課題でもある前提で提示できればと思います。


1.無秩序な解説方針
 展示内でメインのストーリーを形成する、解説テキストなのですが、2つの経緯によるテキストが混在し、無秩序さ、言い過ぎかもしれませんが乱雑にも感じました。

 2つのテキストとして、おそらく開館時なのかリニューアル時かに設置されたグラフィック上のテキストと、館の運営を通じて設置された、いわゆる「ハレパネ」に出力されたテキストが設置されていました。ここまでは、ミュージアムではよくあることかもしれません。しかし、何が問題であったかと言うと、前者のグラフィック上で解説している内容を、わざわざ後者のパネルでも全く同じ内容を説明している箇所が何箇所も見受けられました。テキストを読む人間からすると、同じテキストが2回、近接した位置に表示されているのは全く意図が理解できないと思います。

 また、そもそもの問題として気になったのは、展示のメインテーマとなる人物の説明がやや乏しいように感じました。私のようにその地域出身でなく、あまり地域史に詳しくない人間からすると、置いてきぼりの展示が展開されているような印象を受けました。これは次の内容にも関わってくる問題です。

2.史実と乖離した解説映像
 これは、史実と乖離していると言うよりは、フィクションの要素が強すぎるために、かえって入り込みにくく疑問ばかりが残る映像ということです。展示テーマの人物について、壮年期以降の経歴についての10分少々のアニメーションをシアターで見られるのですが、はっきり申し上げて、どの層に向けているかわからない、真実味とアニメとしての面白さのどちらも足りない、中途半端なものでした。そもそも、その人物の人となり等がわかる資料や展示がない状態で見ている都合、どこまでが真実でどこからがフィクションなのか?という疑問が次々に湧いてしまい、全く没入できない出来のものでした。エンディングにフィクションであるという旨の断りがありましたが、ミュージアムとして史実との混乱を招く内容を放映することの是非はあるかと思います。

 また、ツッコミどころとして、明らかに時代遅れなCGアニメーション(今で言うところのlive2Dに近いものでした)が不自然すぎて、それも没入感を削ぐものでした。常設のミュージアムでは、映像などコンテンツはどうしても長く使用せざるを得ないので、その時代の最新鋭の技術を使いたいところですが、そうするとかえって時代遅れになりやすいんですよね。地域の博物館に行くと、やたらと古めかしいCGアニメーションが多く残っていることが多いのは、ミュージアムブームの時代にどこもかしこも最新の技術を使いたがったせいでしょうね…

3.無関係な展示物の配置
 1で指摘した内容は展示物にも当てはまっており、展示テーマの本筋から明らかに外れているような展示物が散見されました。おそらくは地域の方からの寄贈や、過去に企画展で展示したことで収蔵することになった資料を展示しているのでしょうが、失礼な言い方を承知で申し上げて、玉石混交な状況になってしまっていました。

 この展示物はなぜここにあるのだろう、何かテーマと関係するのだろうか、価値があるものだろうか、、、展示物単体として興味深いものであったとしても、展示のストーリーで見ていくと、そういった展示物には違和感をどうしても覚えてしまいます。


 施設の大小やテーマにかかわらず、どんなミュージアムでも収蔵資料・展示資料には誇りやこだわりがあると思いますが、展示がそんな誇り・こだわりを殺してしまうようなことは悲しいですよね。

 例えば、上記の1で指摘したハレパネの展示などは、想像でしかありませんが、地域の人から指摘を受けて館で設置したのか、学芸員が良かれと思って設置したのかともかく、展示内容をわかりづらくするために設置したわけではないはずです。しかし、展示全体を俯瞰すると、追加した解説がかえって混乱を招いているように思います。

 私も学芸員の端くれとして、心に留めておきたいのは、いちいち解説したい思いが湧き上がってきますが、立ち止まって展示全体のストーリーを見てみること重要と言うことです。

 説明不足だと来館者に指摘された。本当に⁇展示物があるのならば、テキストで全てを語る必要はないはずです。補足解説が必要だとしても、壁面解説パネルを追加することのみが手段ではない、音声やWEBに頼る方法はあります。

 また、これは各館どこも抱えている問題だと思いますが、展示の必然性が低いものを収蔵するスペースがない場合、どうするのか。企画展やイベント等で集まった展示物には、収蔵に値しないものも多いと予想します。私は収蔵を断ることもミュージアムの使命の一つだと思います。また言ってしまえば、そのための学芸員という職能だと理解しています。


 私がいま住んでいる金沢市は「文化観光都市」を掲げており、町中にも数多くのミュージアムが立地しています。有名なのは金沢21世紀美術館や国立工芸館のような大きな美術館ですが、(悲しいかな)知られざる小さなミュージアムも上記の有名館の周辺に点在しています。それこそ、人口40万の都市とは思えないほどの密度で立地しているのです。

 しかし、各館に十分な人材が配置され、潤沢な予算が付いているかと言うとそうではありません。そんな状況は、全国どの自治体も同じでしょう。いや、金沢市よりもっと厳しい状況で館を運営している自治体の方が多いと推測します。
 
 今回訪問した館も、展示物の状況を見ると開館時から抜本的な更新は行われないまま、30年前後の年数を経ていると推察できました。本来であれば、展示のリニューアル時期に差し掛かっていると思います。当然、多言語やユニバーサルデザインには対応できていません。リニューアルの予算がつけば…と嘆くのはどこの館も悲しいかな同じです。

 また、今回の館は公共交通機関でアクセスしにくく、周辺に目立った観光地がないという立地も影響しているためか、日曜日の昼間にも関わらず、1時間弱の時間内で来館者は私1人でした。もちろん、平時は地域の社会科教育等に役立てられているかもしれませんし、それはミュージアムの重要なミッションのひとつではありますが、上記のような展示自体が抱える問題を考慮すると、ミュージアムのあり方自体に疑問があります。

 金沢に限らず全国にこのような小さなミュージアムはたくさんあるのではないでしょうか。そして、残念ながらその多くが(奇跡的に何かのきっかけで大流行するなどが起こらない限り)、今後、より厳しい状況に陥っていくことが予想されます。各自治体など所有者は、こういった小さなミュージアムをどのように「仕舞って」いくか、真剣に検討する時期がやってきているのではないのでしょうか。


追記
 映像のクレジットに「〇〇顕彰会」という一文を見て、少し暗い気持ちになりました。学術的な見地を持った団体が大半だと言う前提ですが、中には盲目的にその人を讃えたがる団体もあると言う印象がどうしてもあります…

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