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港区らしさ判定AI、多様性のある都市は儲かる、限界集落のNFT、の話(コンワダさん15週目)

こんにちは、株式会社アーキロイドの津久井です。

今週も社内で話題になった事例から、いくつかを紹介します。バックナンバーはこちら

その1:機械学習で逆ストリートビューを作り、写真から港区らしさを判定する

【概要】
 道路で撮影した写真から、それがどこの市区町村かを当てられるNNモデルだそうです。GoogleMapsのストリートビューでは、市区町村を検索⇛写真の流れですが、このモデルは写真⇛市区町村がわかる「逆ストリートビュー」です。開発期間(データやaugmentationの試行錯誤)は1週間ほど。ちなみに、開発者の大垣さん(医療系メガベンチャーM3のAIチームリーダ)が、奥様としたこんな会話から開発したモデルだそう。素敵なお話ですね。

妻 "こういう路地って新橋らしさあるよねー"
私 "本当です?どういうところで当てられるの?"
妻 "歩道の雰囲気?"
私 "うーん"
ブログ記事より

【この事例について】
 その「街らしさ」は、建築・都市に関わる人間にとって大きなテーマの一つです。一定の指標で定量的に分析することが難しいことが、AI技術により少しずつ解明されています。
 1964年にバーナード・ルドフスキーが、NYCのMoMAで行った展覧会「建築家なしの建築」では、世界中の無名の工匠による、自然発生的、風土的、土着的、田園的な建築郡が紹介されました。日本の国内にも、かつてはこうした非常に強い地域性を持つ個性的な建築が存在しました。時を経て現在、建築の部材が工業化され、土地性を失い、日本全国どこを見ても似たような住宅地が点在しています。私達は街路の写真を見てもそれがどこかを答えることは困難ですが、NNにはそれが分かるようです。同じような街並みを作り上げてきた人間にはわからないけど、機械には分かるというなんとも言えない悲しさと、一様に見えてるけど微細だろうがまだ差異があるんだというちょっとした希望が折り混ざった面白さを感じます。

その2:ビッグデータを用いた都市多様性の定量分析手法の提案~デジタルテクノロジーでジェイン・ジェイコブズを読み替える~

【概要】
 東大、MIT、BBVA(ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行)が共同で行った、都市多様性を定量化し、その街区レベルにおける経済効果を検証した研究です。都市研究、社会学、経済学に影響を与えたアメリカ人ジャーナリスト、ジェイン・ジェイコブズが約50年前に提唱した、「都市における多様性が、小売店や飲食店といった都市を構成する要素にポジティブな影響を与える」という説を、定量的に実証しました。
 この研究では、都市多様性を街路レベルにおける小売店の集積(量)と、それら小売店の種類(タイプ)の豊富さであると定義し、スペインの人口上位50都市を200mグリッドで区切って分析します。その結果、都市多様性指数の定量分析結果(量とタイプ)と、そのエリアで使用されたクレジットカードの決済情報に、正の相関関係があることが発見されました。街路の賑わいを構成する小売店・飲食店の「集積のしかたの違い」によって、経済効果が異なることをデータで裏付けたものです。

【この事例について】
 街区の多様性と賑わいが相関していることを、視覚的な手法や人口、交通などの都市工学的なアプローチではない手法で解いている、というのがポイントです。その上で私としては2点気になることがあります。
 1つは最適解についてです。都市デザインでは、多様性と統一性は永らく議論されているテーマの一つです。この研究ではより多様であると良い事がわかりましたが、一方で多様性に拠る恩恵を失わないのレベルで統一性を持ち込める解があるのか。あったとして同様に計算可能なものなのでしょうか。
 もう1つは、200mグリッドのスケールについてです。例えば百貨店をこの研究の都市と捉えて各フロアを20mで切って、飲食・ファッション・家具などの売り場を多様に配したときに同じことが言えるのでしょうか。逆に都市の範囲を広げ、グリッドも2kmで切っても同じことが言えるでしょうか。おそらくグリッドサイズは身体のスケール、移動可能範囲のスケールなどと関係があるので、無限にスケーラブルということはないでしょう。それでもある程度のスケールが可能ならばそのレンジが知れると、今後多分野での適用が期待できそうです。

その3:世界初。人口800人の限界集落が「NFT」を発行する理由

【概要】
 新潟県の中山間地域に位置し、千年の歴史を持つ山古志村(現在は市町村合併を経て長岡市一部)。今から17年前の中越大地震により、全村避難になるほど壊滅的な被害を受けました。当時2,200人いた地域住民は今は800人になっています。このままでは近い将来消滅してしまうと危機感を持つ「山古志住民会議」は、長岡市公認で錦鯉をシンボルにしたデジタルアート10,000点をNFTとして発行しました。このNFTは「デジタルアート×電子住民票」の意味合いを持ち、山古志に住む800人と、山古志を応援する気持ちを持つ10,000人による新しいクニづくりを目指しています。
 全国的に人口が減少していく日本で、限界集落の人口を増やすのは非現実的ですが、電子住民票を配布することで仲間を増やすことは可能です。エストニアの「e-Residency(電子国民プログラム)」のように、定住人口にとらわれずに人材を集める、ローカルから世界に目を向けた新しい地方創生のチャレンジです。

【この事例について】
 暮らし方(住まい方、働き方など)の多様化により、都心集中から地方移住へというムーブメントは更なる高まりを見せています。通常、所属する(住民票のある)国や自治体は、肉体的な所在によって固定されていますが、この事例のチャレンジの行く先として、肉体的所在と思想的所属を、宗教や信念のようにずらすことができるかもしれません。そうなったときに、ローカル⇔グローバルの概念も変わっていきそうです。
12週目コンワダさんで、マイアミ市の仮想通貨「Miami Coin」について取り上げました。マイアミは大都市で自治体、山古志は限界集落で自治体ではない、という違いはありますが、有志の非行政団体に拠るブロックチェーン技術に依拠した自立分散的な新しい地域貢献のあり方としては共通します。この2事例は先端的であまり類例がありませんので、2事例の今後や、どのような発展形が出現するかを含めてウォッチしていきます。

まとめ

 今週もお付き合いいただきありがとうございました。また書き方の構成が変わってしまいました。今回は都市、街、村、らしさ、といった共通点のある回となりました。今年もあと2回、皆様が「スキ♡」を押してくださると励みになります。

 最後に、非常に個人的ですが、筆者は山古志のNFTの記事に、noteに文章を投じる者の端くれとして強い感銘を受けました。無駄な言葉が一つもなくて、足りない言葉も一つもなくて。淡々とした文章だけど、プロジェクトへの熱い思いがジンジン伝わってきて。クールなのに書きなぐったみたいな力強さもあって。一朝一夕で身につくものなのでしょうか。何度も何度も書き直したのでしょうか。筆者も死ぬまでにこんな素敵な文章を書いてみたいものです。ライトに書いてる場合じゃないぞ。

「今週、社内で話題になった事例」 について
株式会社アーキロイドの社内で話題になった事例(ニュース、リリース、書籍、動画、論文などなど)のうち、いくつかをご紹介します。元記事の配信時期は必ずしも今週とは限りません。数ヶ月前、数年前のものもあるかもしれません。

社外にこれを発信することで、
①アーキロイドメンバーが日々どのようなことに目を向けているのか、を知ってもらいたい。
②せっかく読んでもらえるなら有益な情報をお届けするために、自分たちの情報感度をもっと高めていきたい。
という目論見があります。

メンバーも大半が30代に差し掛かってきたので、備忘録という意味合いが一番強いかも。ご笑覧ください。

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