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『住宅巡礼』を読んで建築家を目指した高校時代 ~アーキロイドメンバーにインタビュー 建築家福井典子第2編~

▲前回のインタビューはこちら(前後編のつもりが、ロングインタビューになってしまいました。今回が第2編です)


人生を決めたのは、父が買ってきた一冊の本だった

――伊礼設計室は福井さんのファーストキャリアですよね。建築設計というと、学校、美術館、オフィスや商業施設など様々だと思うんです。その中でも住宅設計をメインとする伊礼設計室に入ったのはどうしてですか?

福井典子(以下:福井)「確かに、一口に建築と言っても本当にいろいろありますよね。私の場合は高校生の時にはすでに住宅を設計する建築家になりたいと思っていました。もちろん興味の対象としていろんなタイプの建築を勉強したり実際に見に行きますが、私の仕事のイメージは最初から住宅一本でした。」

――高校生の時から?そこまで強いイメージを持つ、住宅に惹かれるきっかけみたいな出来事があったんですか?

福井「そうなんです。きっかけは父が買ってきた中村好文さんの『住宅巡礼』という本でした。父は本を読むのが好きでいろんな本を買ってくるんです。その中でたまたま私がはまったのが『住宅巡礼』でした。」

――お父様のチョイスは素敵だけどやっぱり大人だから渋いですよね(笑)高校生って今ならTikTokとか当時なら雑誌とか、そういう”流行”を追いかけるイメージがあるんですが、何がそんなに当時の福井さんに刺さったんでしょうか?

福井「う~ん、雑誌とかも好きだったと思います(笑)私の実家は横須賀にあって、よくある郊外の一軒家なんです。母は庭で園芸をしたり季節ごとに成った実を取ったり、父は家で勉強や読書をしたり、絵を描いたりして過ごします。今になって思い返せば、実家やそこでの暮らしが"豊か"なものだったのだと思います。きれいな写真とテキストで流行や作品を紹介する雑誌の良さもありますが、地に足の付いた人の暮らしや建築にフォーカスされているこの『住宅巡礼』に、ワクワク感とどこか温かみを感じました。

伊礼さんとの出会い

――素敵なお話ですね。『住宅巡礼』がきっかけになったとのことですが、具体的にどのような契機になりましたか?

福井「まず、著者の中村好文さんが教鞭を執っていた日本大学の生産工学部居住空間デザインコースに進学しました。」

――想像以上に進路に直結ですね(笑)本や作品に感銘を受けてその人を尋ねるというのが、なんだか偉人の行動力を表すエピソードのようです。

福井「え、そうですか?」

――多くはないと思いますよ(笑)

福井「ええ、みんなどうやって進路決めてるんだろう…」

――ぼくはもう少し適当でしたけど(笑)少なくとも誰に師事したいとか、そのレベルで考えることすらなかったですね。でも福井さんの方が素直というか、まっすぐでいいと思います(笑)

福井「逆に気を使わせちゃってすみません(笑)」

――とんでもないです、素敵です。在学中に中村さんの授業を受けることはできたんでしょうか。

福井「はい、できました!伊礼さんと出会ったのもここで、2年生のことでした。日大の居住空間デザインコースはもともと、建築家の宮脇檀が”住宅設計塾”として構想したコースなんです。”眼を養い、手を練れ”という理念のもと、設計だけではなく生活の面白さを学ぶ場所でした。この理念の下に、中村さんや伊礼さんを始め先生方も共に学ぶ姿勢で集っていたのが特徴でした。」

サンチアゴ巡礼

――学外での思い出などはありますか?

福井「大学院に入ってからは旅をしながら現地の住宅を見ることに時間を費やしていました。『住宅巡礼』は世界各地の住宅が載っている本なのでそれもあって。3ヶ月の一人旅でフィンランドでアアルトを見たり、デンマーク、ドイツから東欧、フランスなどをめぐり、スペインのサンチアゴ巡礼800キロを二十数日で歩きました。20キロごとに在る村々を練り歩くんです。その旅で出会った人たちとポルトガルに寄って帰国しました。」

(写真:福井典子)

――サンチアゴ巡礼、800キロを歩くというのは並大抵ではないと思うんですが、やはり見たい住宅があったんですか?

福井「実は、それは住宅巡礼と関係なくて(笑)サンチアゴ巡礼は中学の社会の先生の影響なんです。授業でそういうのがあるよ、と聞いてからいつか歩くと決めていました。たまに村があるけど、村と村の間は荒野です。村ごとに土着的な個性があって、生活が見えて、なんだか力強いと感じました。住宅巡礼とサンチアゴ巡礼をかけ合わせた旅の話をしたら、先生達が面白がってくれました。」

(写真:福井典子)

――土着的な個性、面白いですね。我々が良く参照するルドフスキーの建築家なしの建築でも”土着的”という言葉が出てくるので、興味深いです。

――それにしても800キロって凄いですね…

福井「40キロ歩く日もあります。歩き始めちゃったら20キロは村がないんでね(笑)」

(写真:福井典子)

(つづく)


本インタビューの語り手である福井典子が設計する
『福井典子の家』ーあたりまえを磨く滋味深い家ー
のWEBサイトを公開しております。ぜひご覧ください。設計のご相談・ご依頼お待ちしております。
https://fukuinoriko.archiroid.com/

福井典子の家 より


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