見出し画像

令和2年一級建築士設計製図試験|高齢者介護施設の利用対象者について今更ながらの確認

<見出し画像>介護マーク:介護をする方が、介護中であることを周囲に理解していただくため、静岡県で考案されたもの


設計とは想定することであるとしたら、その建築物はどんな人達が利用するものであるかを正しく理解しておくことが基本であると思います。

高齢者が「勝手に入ってきてしまう」などの想定をし、過剰なセキュリティをかけることが果たして妥当なのか?用途に応じて考えてみる必要があります。

高齢者が要介護者であるなら、立ち上がりや歩行、入浴、排せつ、食事の際に部分的な介助や全面的な介助が必要になりますので、移動するにも介助されながらという想定が必要かと思います。介護スタッフに介助されながら「勝手に入ってきてしまう」のも、おかしな話になるということです。

食堂の席に着くときにも、介助が必要であれば、介助できるスペースの余裕も必要になりますので、カフェのテーブルや椅子をレイアウトするのとは考え方を変える必要があります。

今更ですが、「高齢者介護施設」といっても、一様ではない各施設の利用対象者について、整理しておきたいと思います。

通所者、入所者、入居者、居住者と呼称が異なるように、デイサービス特別養護老人ホーム有料老人ホームサービス付き高齢者向け住宅を利用する高齢者を一括りにすることはできません。要介護者であるか否かが、当然違ってくるからです。

介護保険法第7条によれば、身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、要介護状態区分のいずれかに該当するものが「要介護状態」となります。高齢者に絞れば、要介護状態にある65歳以上の者「要介護者」ということです。

同じく介護保険法第8条によれば、居宅要介護者について、老人デイサービスセンター等に通わせ、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の所定の世話及び機能訓練を行うことが、通所介護です。したがって、デイサービスの通所者は、要介護者等だということになります。

老人福祉法第20条の5で規定されている特別養護老人ホームは、入所者を養護することを目的とする要介護高齢者のための生活施設ですので、入所者要介護者だということになります。

高齢者のための住居となる有料老人ホームは、老人福祉法第29条によれば、老人を入居させ、入浴、排せつ又は食事の介護、食事の提供、洗濯、掃除等の家事、健康管理のいずれかをする事業を行う施設になります。同法で定義されていない「老人」については、社会通念上の解釈をする必要があります。

有料老人ホームには、介護付(食事、洗濯、掃除等の生活支援サービスに加え、入浴や排せつ等の介護、機能訓練、レクリエーション等の介護サービスが付いたもの)、生活型(食事、洗濯、掃除等の生活支援サービスが付いたもの)、健康型(食事等のサービスが付いたもの)とがあり、それぞれ利用対象者が違ってきます。要介護状態となった場合は退去することになる健康型は、身のまわりのことは自分でできる自立した高齢者が利用対象者になります。

サービス付き高齢者向け住宅も、有料老人ホームと同様、高齢者のための住居となり、高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条で規定されています。状況把握サービス、生活相談サービス等の福祉サービスを提供する住宅で、利用対象者は、60歳以上の単身者や夫婦世帯になります。

住宅型有料老人ホームサービス付き高齢者向け住宅を比較してみると、前者は外出にも一定の制限がありますが、後者は好きな時に外出できるという違いがあるようです。

サービス付き高齢者向け住宅は、一般的な集合住宅と同様、夜間も居住者等が出入りすることになりますので、それを前提としたセキュリティへの配慮が必要になってきます。

セキュリティというのは、住宅側に対するものだけでなく、併設されるデイサービス等を夜間閉鎖するなどして出入りできなくする配慮も意味します。

エントランスホールを別々に設ける場合は、これをもってセキュリティが担保されますが、共用する場合は、夜間出入りできる部分と閉鎖する部分を管理区画するなどの工夫が必要になってきます。

様々な用途が想定されるのが、「高齢者介護施設」の厄介なところでもありますので、試験問題をよく読んで利用対象者を理解してから、計画を進めていくことが重要になると考えます。


以下の記事も参考にしてみて下さい。


建築士の塾ロゴ 改1




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?