見出し画像

令和5年一級建築士設計製図試験|身近なようで距離を感じる『図書館』という課題名


やはり今年も、ざっくり用途だけを示し、含みを持たせる課題名の公表となりました。

平成24年「地域図書館(段床形式の小ホールのある施設である。)」以来、11年ぶりの図書館の出題です。
平成元年以降の35年間を見てみますと、他に、平成4年「アトリウムと小ホールをもつ地域図書館」平成9年「緑豊かな吹抜け空間のある地域図書館」があり、今年が4回目の「図書館」ということになります。
ちなみに、令和元年に出題された「美術館」は、同じ35年間で3回出題されています。

地域において美術館よりも身近な存在に感じる図書館ではありますが、課題名は「図書館だ」と突き放され、得たいの知れない不確定要素が伸し掛かってくるかと思うと、身近であったはずの存在にも、距離を感じてしまうものです。
そして、これから縮めていかなければならないのが、ここに生じた距離であり、試験対策を通して図書館を身近な存在に戻していかなくてはなりません。

1.階数

過去3回ともすべて地上2階建て、すなわち平面図2面を要求する出題となっています。平成24年は2階梁伏図も要求され、要求図面としては断面図を含む4面になっており、ここは平成4年、9年と異なるところです。

では、今年も地上2階建てになるのか?
2階梁伏図の要求がなくなった、平成27年以降の公共施設の課題に注目してみます。
平成28年、平成30年、令和元年が公共施設になりますが、すべて地上3階建てとして、要求図面は4面(平面図3面と断面図)要求されています。
こうした近年の傾向を踏まえると、3階建ての図書館として、出題される可能性が高いのではないかと予想できます。
受験者の作図が高速化している昨今、出題する側からしたら、平面図3面を要求し、作図負荷を高めておきたいという思いは正直あると思います。

2.併設

この2年間の試験問題の冒頭に注目してみます。
令和3年「テナントを併設した賃貸集合住宅」令和4年「レストランを併設した貸事務所ビル」と、それぞれ明示されています。
課題名を「図書館」と事前公表してはいますが、今年も「○○を併設した地域図書館」などと、本試験の問題中で、本当の課題名を知らされることになるのだろうと、この2年間の傾向から想像することができます。

過去3回の出題における部門構成から考えてみます。
集会機能とカフェ(喫茶)といったものは要求されてくる可能性が高そうです。アトリウム、小ホール、温室といった大空間の併設も共通していると言えそうです。
平成24年の課題では、カフェに「貸出手続き前の書籍を閲覧することができるようにする。」と受験者を悩ます要求をしてきています。
図書館は、一般的にBDSの設置位置によってエリアがゾーン分けされますので、何がどういう条件で併設されてくるかによって、難易度は違ってくるものだと思います。

平成4年「アトリウムと小ホールをもつ地域図書館」
 「図書館部門」
 「集会部門」多目的ホール
 「共用部門」アトリウム(喫茶コーナー)
 「その他」
平成9年「緑豊かな吹抜け空間のある地域図書館」
 「図書館部門」
 「温室部門」温室
 「管理・事務部門」
 「共用部門」集会室、喫茶コーナー
平成24年「地域図書館(段床形式の小ホールのある施設である。)」
 「図書館部門」
 「集会部門」小ホール
 「共用・管理部門」カフェ

3.法令

今回公表された以下の「注意事項」に注目してみます。

なお、建築基準法等の関係法令や要求図書、主要な要求室等の計画等の設計与条件に対して解答内容が不適合又は不十分な場合には、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」等と判断されます。

令和5年の公表内容より

昨年「建築基準法令」とされていたところが、「建築基準法等の関係法令」と改められ、「不適合又は」が加えられています。
「建築基準法等の関係法令」とは、建築基準法の他に何を想定したものであるのかについて考えてみます。

「要求図書」の注意書きとして昨年公表されていた以下の2点が、今年はなくなっている点に注目します。

(注1)建築基準法令等に適合した建築物の計画(建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)とする。
(注2)「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に規定する「建築物移動等円滑化基準」を満たす計画とする。

令和4年の公表内容より

(注1)(注2)であげられている法令は、「建築基準法」と「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」になりますので、今年の「建築基準法等の関係法令」も、この2つの法令がまずあると解釈することに無理はないと思います。
昨年あった(注1)(注2)を不問にするからなくなったのではなく、「建築基準法等の関係法令」に集約し、「注意事項」に掲げられていると考えるべきでしょう。

美術館と同様、図書館は「特別特定建築物」に該当しますので、以下の内容が試験問題中に記載されてくる可能性は十分考えられます。なぜなら、「建築基準法等の関係法令」として、事前に予告済みだからです。

「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に規定する特
別特定建築物に該当し、「建築物移動等円滑化基準」を満たすものとする。

上の条件を問題中に入れておくことによって、「建築物移動等円滑化基準」を満たしていない計画であった場合に、採点上、不適合として判断する根拠にできるのだと思います。


*以下にある「webサポート資料室|設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?