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一級建築士学科試験|デジタル社会の形成に伴う建築士法改正による押印義務の廃止

デジタル社会の形成に伴い、押印等に係る制度が見直され、建築士法や宅地建物取引業法が改正されています。
改正建築士法については、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」に伴って令和3年9月1日からの施行となっています。

1.押印義務の廃止

①建築士法における押印義務の廃止

法第20条第1項
一級建築士、二級建築士又は木造建築士は、設計を行つた場合においては、その設計図書に一級建築士、二級建築士又は木造建築士である旨の表示をして記名しなければならない。設計図書の一部を変更した場合も同様とする。

法第20条の2第3項
構造設計一級建築士は、前項の規定により確認を求められた場合において、当該建築物が構造関係規定に適合することを確認したとき又は適合することを確認できないときは、当該構造設計図書にその旨を記載するとともに、構造設計一級建築士である旨の表示をして記名しなければならない。

法第20条の3第3項
設備設計一級建築士は、前項の規定により確認を求められた場合において、当該建築物が設備関係規定に適合することを確認したとき又は適合することを確認できないときは、当該設備設計図書にその旨を記載するとともに、設備設計一級建築士である旨の表示をして記名しなければならない。

改正前は「記名及び押印をしなければならない」とされていたところが、上記の通り、令和3年9月1日から「記名」のみに改められ、設計図書への押印義務が廃止されています。

ちなみに、法第22条の3の3で規定する設計受託契約等においては、「署名又は記名押印」を求めており、契約書面(同条第4項により書面交付を電磁的方法に代えることもできる)の扱いは設計図書とは異なります。

②宅地建物取引業法における押印義務の廃止

法第35条第5項
第1項から第3項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない。

同条第7項
宅地建物取引業者は、前項の規定により読み替えて適用する第1項又は第2項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない。

施行までに一定の準備期間が必要な宅地建物取引業法については、令和4年5月からの施行予定で、令和5年の試験から適用されるものとなります。
「記名押印しなければならない」「記名押印させなければならない」とされているところが、上記の通り、それぞれ「記名」のみに改められ、宅地建物の売買契約等に係る重要事項説明書等への押印義務が廃止されます。

2.設計図書への自らの責任の示し方

業務に必要な表示行為を規定する建築士法第20条第1項について、一級建築士としての設計図書への自らの責任の示し方という観点から見てみます。
話を進めていく前に、下記に示す言葉の整理を、はじめにしておきます。

・署名:筆記用具等により本人が直筆で氏名を記すこと
・記名:代筆やゴム印、パソコンを使用し署名以外の方法で氏名を記すこと
・押印:記名されている箇所、署名や記名もない箇所に印鑑を押すこと
・捺印:署名と共に印鑑を押すこと、又は押印と同様に印鑑を押すこと
 *シャチハタクラウド コラム 参考

一級建築士がその者の責任において設計図書を作成した場合は、設計図書に一級建築士である表示をし記名しなければなりません。
また法第2条第6項にある通り、設計図書とは「建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書」になります。
そして一級建築士の責任において申請図書として提出する場合は、自らが直接的に作成したものでなくとも、「設計図書」として、その一級建築士が記名をする必要があるとされているように、設計図書への自らの責任の示し方が、現行法では一級建築士である表示と記名だということになります。

設計図書への自らの責任の示し方として、元々「記名及びなつ印」とされていたところが、平成19年6月20日から「記名及び押印」と改められ、そして今回、令和3年9月1日より「記名」のみが求められるようになりました。

包括的なデジタル社会へと向かう時代の変化に応じて、一級建築士としての設計図書への自らの責任の示し方も変化してきていると言えます。
押印という行為が一つ減った分、一級建築士がその者の責任において設計図書を作成する上での慎重さは一つ増えるのではないでしょうか。


*以下にある「webサポート資料室|法規分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。

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