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令和4年一級建築士設計製図試験|事務所ビルの計画で、法令への不適合を炙り出す用途地域の指定は?

設計条件における用途地域の指定により、建築できる用途が制限され、道路斜線の勾配や指定建蔽率などが決まってきます。
試験問題とはいえ、建築基準法上、事務所ビルが建築できない用途地域を指定してくることはありえないはずです。(仮にあったとしたら、計画すること自体が法第48条への不適合となりますので、白紙の答案のみが正解などということになりかねません。)

第一種住居地域の指定が、平成30年の試験以降、4年連続で続いてきていますが、床面積の合計が3,000㎡を超える事務所ビルは建築できない用途に当たります。
したがって、床面積の合計が大きくなる基準階型を想定すると、第一種住居地域の指定はないと言えそうです。

住居系の用途地域で、3,000㎡を超える事務所ビルが建築できるのは、第二種住居地域準住居地域のみです。
旧「住居地域」が、現在の「第一種住居地域」「第二種住居地域」「準住居地域」の3種類に分けられたのが、平成4年の法改正(5年から施行)になります。
平成5年以降の本試験での用途地域の指定を見てみると、第二種住居地域で2回出題されていますが、準住居地域での出題はありません。
ちなみに、第二種住居地域は「大規模な店舗、事務所の立地も認められる、住宅の環境保護のための地域」とされています。

平成21年『貸事務所ビル(1階に展示用の貸スペース、基準階に一般事務用の貸スペースを計画する。)』が近隣商業地域の指定であったことも加味し、第二種住居地域と近隣商業地域の場合とを比較する形で以下考察してみます。

1.道路高さ制限における斜線勾配の厳しさ

斜線勾配は、第二種住居地域1.25近隣商業地域1.5とされています。
見ての通り、立体構成や配置計画において道路高さ制限に苦しめられそうな度合いは、勾配の厳しい前者の方が高いと言えます。

事務所ビルの階数を5階建て、7階建てと想定してみると、階高4~5mとして、それぞれの塔屋を除く建築物の高さは、21~22m、29m~30m程度になると考えられます。
仮に高さを22mとすると、第二種住居地域で水平距離17.6m、近隣商業地域で水平距離14.7mが斜線の起点から建築物まで確保できれば道路斜線にはかからないことになります。
つまり、前面道路の幅員が10mである場合、第二種住居地域で3.8m、近隣商業地域で2.35m以上、後退距離(ここでは柱面から道路境界線まで)を確保する必要があるということです。
1.45mほどの差(方眼にあわせるなら2m)になりますが、敷地に余裕がない場合の配置計画では、この差に苦しめられることもあると思います。

したがって、出題者からすると、斜線勾配1.25の設定で出題したいところではないかと思います。減点法の試験である以上、減点できるポイントを設定するため難易度を上げておきたいと考えるのが出題者の心理です。この点受験者が望むところの反対側に出題者の心は向かっていますので、受験者が嫌だなと思うところに減点できるポイントは存在していることになります。

2.建蔽率の限度の厳しさ

第二種住居地域においては、50%60%80%のうち、都市計画で定められたものが指定建蔽率になります。つまり、指定建蔽率が70%ということはないということです。

令和2年の本試験の設計条件には、第一種住居地域の指定で「建蔽率の限度は80%特定行政庁が指定した角地にある敷地及び準防火地域内における耐火建築物等加算を含む。)」とありますが、2つの緩和条件への該当による加算分20%を除いた60%が指定建蔽率であることがわかります。

仮に指定建蔽率が80%だとすると、緩和条件の1つに該当すれば+10%で90%、2つに該当すれば+20%で100%になります。これら加算分を含んだものが、建蔽率の限度となります。
建蔽率の限度が70%以下の設定のときは、建蔽率オーバーに十分注意しながら計画を進めていく必要がありますが、80%、90%、100%となるにしたがい、オーバーするリスクが0に近づいていくのは明らかです。

第二種住居地域で、指定建蔽率60%の設定にすると、緩和条件への該当による加算分を含めて、建蔽率の限度70%又は80%ということになります。
斜線勾配と同様、減点できるポイントに出題者がしたいのであれば、当然、建蔽率の限度を厳しく設定し、難易度を上げておきたくなるところです。

近隣商業地域でも指定建蔽率を60%で設定することはできますが、近隣商業地域の指定で出題されている平成17・18・21・22年の過去4年分を見てみると、加算分を除いた指定建蔽率は、すべて80%の設定になっているのが特徴です。

一方、第二種住居地域の指定で出題されている平成14・15年を見てみると、両年とも加算分を除いた指定建蔽率60%で設定されています。

3.裏を返せば……

昨年の本試験『集合住宅』の設計条件のはじめに、「テナントを併設した賃貸集合住宅を計画するものである」と明記されています。
つまり、表向き課題名を『集合住宅』としていましたが、裏を返せば過去の課題名のような『テナントを併設した賃貸集合住宅』であったと言えるのではないでしょうか。

ここ数年、課題名も含めてベールに包む度合いを高くしている傾向にありますので、『事務所ビル』のベールの下には、どんな課題名が隠されているのでしょうか……?
隠されたものを『本当の課題名』とするなら、これ次第で、ゾーニングや動線計画の考え方が違ってくることもあり、ここに難易度の差が生じる可能性もあると思います。
したがって、『本当の課題名』に起因するところから難易度が上がるようなら、「受験生に過度な負担を強いることのないように」近隣商業地域という指定もあるかもしれません。
要は減点できるポイントの設定が多過ぎるのも、難易度上好ましくないということです。学科試験でたとえるなら、全員が満点を取る問題も、全員が0点になる問題も、合否のふるい分けをする試験としては意味がないわけで、必ずしも難易度が高いものほど良問ということでもありません。


以下の記事も参考にしてみて下さい。

*以下にある「webサポート資料室|設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。

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