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「三界」?「飛昇」?中国ドラマに出てくる道教の基礎知識まとめ

中国で広く信仰される宗教には仏教、儒教、道教などがあり、この3つは「三大宗教」と呼ばれています。道教は明確に信者とする人こそさほど多くないものの、「仙人」の世界観で有名な宗教説話が今でもさまざまな形で語り継がれており、ファンタジー系のゲームや漫画、ドラマや小説などの創作物にも道教に関連する概念がたびたび登場します。

こうした創作物をより楽しめるよう、ここでは道教の基本的な思想や頻出の用語について、「霜花の姫~香蜜が咲かせし愛~」という名作中国ドラマの設定を参考に説明していきます。

道教の基本思想

道教の源流は、春秋戦国時代の諸子百家(思想家・学者集団)の一つである、老荘思想(老子や荘子の道家の思想)が中核になっています。老荘思想は、儒教倫理の縛りから離れ、現実逃避して何もしないことを説き、大国を否定し、小さな農村共同体の社会を理想とする思想です。

この思想が、中国古来の神仙を信仰し、不老不死などを願う思想である「神仙思想」や、陰陽の交替を原理とみる「陰陽説」、木火土金水を自然の五元素とする「五行説」、儒学と陰陽五行説が合体した一種の未来予知説である「讖緯説」と融合し、「道教」となりました。

「道教」は、はじめは不老不死、金銭的な豊かさ、家庭の幸福などの現世利益を求める宗教でしたが、道徳観や宇宙観、仏教思想を取り入れて、一つの宗教体系となりました。

文化大革命が起った時には、道教も大きな打撃を受けましたが、今日では「道教」が持つ、豊かな文化的・歴史的蓄積をドラマ等に見ることができます。例えば、道を極めることで不老不死の神仙になれるというのも、道教一要素である「神仙思想」を反映したものです。

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「三界」とは?

中国の「仙人」もののファンタジードラマで、世界を「三界」に分けて描かれることが多々あります。「三界」は、一般的に「天界」、「冥界」、「人界」に分けられます。

百度百科「三界」のページより

具体的に言うと、「天界」は、神仙や聖人がいる天堂で、俗人が行くことのできない世界ですが、修行により道を極めることでこの世界に「飛昇」できると考えられています。

人界」は、中国語で「人间」・「阳间」とも呼ばれ、現実世界の宇宙や地球を指します。「冥界」は、中国語で「阴间」とも呼ばれ、人間の住む地上からはるか下方にある、様々な苦しみを受ける地獄のような場所です。

道教の世界観が核心にある中国ドラマの「霜花の姫」では、天界、魔界、人界、花界が存在しています。ドラマの中で天界は、仙人が暮らし、天帝が治める陽の世界であり、他の世界よりも上空にあるように描かれています。

魔界は、修行を積んだ魔物や、恐ろしい妖魔が闇の中で暮らしており、魔尊が統治する陰の世界として存在しています。魔界は天界と、「忘川」という死者の亡霊がさまよう川に隔てられており、しばしば対立する様子が描かれています。

人界は、人間が暮らす世界で、天界・魔界・花界と比べて時の進みが早く、神仙になるために苦行を積む場としても登場します。

花界は、修行を積む花神や精霊たちが暮らし、女性が圧倒的多く、花が咲き乱れる美しい世界です。食物連鎖の根幹を担う植物を管理しています。

有名な神仙たち

中国で知名度の高い神仙を5人、「霜花の姫」をもとに紹介します。

まず一人目は「斗姆元君(とぼげんくん)」です。彼女はドラマの中で、天界で力を持つ水神と風神、花界の主である花神の師匠として登場します。道教では彼女は目が3つ、頭が四つ、腕が8つあるとされています。名前にある「斗」は星を、「母」は母親を意味し、多くの星々の母として、非常に高貴な地位の仙人です。

斗姆元君 TVドラマ「霜花の姫」より

二人目は「天帝」です。ドラマの中では、欲しいものを手に入れるために、他人の幸福を壊してでも手に入れようとする、卑劣な天帝として描かれています。天帝は天界の皇帝であり、道教神話の中では、神仙、仏、人間、妖怪、全ての主として、その権力は無限とされています。

天帝 TVドラマ「霜花の姫」より

三人目は「天后」です。天帝の妻であり、人間界でいう皇后の地域にあたります。ドラマの中では、元々鳥族の王女として、明るく魅力的な女性だったものの、天帝の元彼女の花神への憎みから、悪事を繰り返していく様子が描かれています。道教の神の「王母」にあたり、古代中国神話の中でも、不死・不滅で、悪を罰する女神であり、女性神仙のリーダー的存在です。

天后 TVドラマ「霜花の姫」より

四人目は、「月下仙人」です。ドラマの中で、少年のような外見であるものの、天界で長い年月を生きた地位の高い仙人であり、男女の縁談を取り持つ役割を担っています。中国では、彼が赤い糸で男女を結ぶと結婚できるといった伝説があり、結婚を司る神仙(月老)として信仰されています。

月下仙人 TVドラマ「霜花の姫」より

五人目は「太上老君」です。ドラマの中では、錬金術(錬丹術とも)を研究し、九天金丹を作ることができる上神として描かれています。金丹とは、道教で説く仙人になるための薬であり、金丹を服用することで不老長生に繋がるとされています。彼は、道教の始祖とみなされる老子が神格化されたもので、道教の最高神格の一人です。西遊記にも登場しています。

太上老君 TVドラマ「霜花の姫」より

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道教的な世界観が登場する中国のドラマやアニメ

「霜花の姫」以外にも、道教的世界観が登場する中国のドラマは多数あります。

例えば、2019年に放送されたウェブドラマ史上最大にヒットしたと言われる「陳情令」があります。原作はアジアを中心にファンを獲得し、日本語版小説が累計40万部を突破した「魔道祖師」というBL小説で、主演の二人はアイドルグループ出身で人気俳優です。日本では2021年にアニメが上陸し、大きな話題となりました。

また2021年にBS12トゥエルビにて放送された「運命の桃花」は、天界と人間界を行き来しながらロマンスと魔物との戦いが繰り広げられるドラマチックな展開が魅力です。

まとめ

中国の仙人もののファンタジードラマを見ていると、なぜ皆空を飛べるのか、なぜ何千年も生きることができるのかと不思議に思ってしまう部分も多々ありますよね。

こうしたドラマが、道教の思想や神々をヒントに制作されているということを知るだけでも、より深くその作品を楽しむことができると思います。物語の内容が気になった方は、是非本編を視聴してみてくださいね!