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【ハンガリー】フン族の遺物(1回目)

場所:ブダペスト、ハンガリー国立博物館
時代:4~6世紀

フン族とは
フン族とは、4世紀末に初めてアジアからヨーロッパへ侵入し東ヨーロッパに住んでいたゲルマン民族を西へ追いやり、混乱に乗じて西ローマ帝国を滅亡された一因となった遊牧騎馬民族である。フン族は遺跡などから、もとは南シベリアやアルタイ地方あたりにいた遊牧民だったと思われるが、4世紀後半になって西方にいたアラン、サルマタイといった遊牧民を攻略し、さらに西へ進出してゲルマン民族をも配下に組み込んでいった。古代中国の秦漢時代に、北方から度々侵入してきた匈奴の一派が西へ向かったものであるとする有力な説もあり、大変興味深い。

ハンガリー国立博物館

ハンガリー国立博物館正面

ここを訪れたのは、もう10年前の2013年12月だった。首都ブダペストの国立博物館は規模的には小さいが、フン族やゲルマン民族、やはり遊牧騎馬民族のアヴァールといったハンガリーの地を通過していった民族に関する遺物コレクションが揃っていて、各種武器や工芸品などが展示されている。
フン族は遊牧民なので基本的に町や村を作って定住する習慣はなかったが、フン族の王アッチラの時代には、現在のハンガリーあたりを指すパンノニアに拠点を構え、もともとローマ帝国の植民都市があったブダペストあたりにはアッティラの居城があったとされている。実際ブダペストのブダ(オールドブダ)には、ローマ帝国の属州であったパンノニアの都市遺跡が残っており、フン族の時代に使われていた可能性がある。実際中世の頃にはブダに残るローマ遺跡を、アッティラの居城跡と考えていたようである。

鍑(ふく)
フン族の遺物で独特なものといえば、青銅製の「鍑」である。

博物館内フン族のコーナー

鍑は春秋戦国から秦漢時代に至る古代中国で原型になる器が作られ、それがスキタイやサルマタイなどの遊牧民に伝わり、その時代や場所により独特の形状を持つようになったと思われる。奈良国立博物館青銅器館にも1~3世紀ごろのオルドス鍑(オルドスは現中国内モンゴル自治区西部)が展示されており、また横浜ユーラシア文化館では、考古学者の故江上波夫氏寄贈の中国北方から出土した春秋時代(前6~5世紀)の古いタイプの鍑が展示されている。上野の東京国立博物館でも収蔵品の中に鍑があるようだが、常設展では展示されていなかった。これらはより古いためか、それとも煮炊き用としての実用一辺倒だったためか、フン族のものより形状が単純で飾り気もほとんどない。
フン族の時代など後のものほど様々な装飾が施され、本来煮炊き用として用いられたはずなのに、熱伝導が良くない寸胴で、圏足(釜を支える脚部)は穴のない円錐形の台座になっているため、底に火があたらない形状をしていること。また副葬品として墳墓からの出土がなく、川のほとりなど水辺の場所から出土していることから、祭祀用ではないかとされている。そのような最も西のハンガリーなどで見つかったフン族型の鍑と、形状や装飾が極めて似ているものが、最も東の中国新疆で出土していることから、フン族・匈奴同一説に信憑性を与えている。

フン族の鍑とエレクトラム製装飾杯

フン族型の鍑は、釜の胴部が寸胴型で縦に長く、把手には3~4個のキノコ形の突起が付いているという特徴がある。また、ハンガリー中部トルテルで発見されたフン族型の鍑は最も大きく、重量は41kgにもなる。製造方法も通常の大きさのものは2つの鋳型から作るが、この鍑はあまりの大きさのため4つの鋳型から鋳造されている。しかしこれまでに実際に発見されたフン族型の鍑はそれほど多くなく、全部で20点ほどしか見つかっていない。ほぼ完全な形のものが10点ほどで、あとは破片のみである。
鍑については特に興味を持っているので、今後他の国の博物館でみたものも紹介していきたい。

左がトルテル出土の大型鍑
鍑を上から見たところ
エレクトラム製装飾杯

変形頭蓋

変形頭蓋骨と金製セミ型ブローチ

フン族の遺物でもうひとつ重要なものは、4~5世紀のフン人の頭蓋変形した頭蓋骨(絶壁頭)である。長い頭骨の頭蓋変形は、テレビ「ヒストリーチャンネル」でも取り上げられたこともあり、宇宙人との係わりを指摘する人もいる。そこまで飛躍しなくても、実際中南米の古代文明では多くの変形頭蓋骨が発見されており、またアフリカ、ヨーロッパ、そして日本を含め世界各地で見つかっている。ただし同じ頭蓋変形でも地域や時代によって目的や方法が異なり、専門的にはインカ型やトゥールーズ型などといった分類方法がある。
ヨーロッパでは古代ギリシアの著述に残っているものもあるが、出土した確実な証拠になるものとしては、ドナウ川中流域から出土した4世紀末~5世紀初頭の初期メロヴィング朝の遺骨に変形頭蓋のみられるものが発見されている。ちょうどフン族のヨーロッパ西方移動期にあたるため、その関連性が指摘されている。しかしフン族の変形頭蓋は、布を巻いたりして人為的に行ったものもあるが、乳幼児のときに使っていた特殊なゆりかごによって変形したものも多いと言われている。

ハンガリー国立博物館の位置


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