【イギリス】聖ローレンス教会
場所:ブラッドフォード・オン・エイボン、ウィルトシャー州
時代:アングロ・サクソン時代(10~11世紀)
このところ国内と東アジアの史跡を扱ってきましたので、今回からしばらくはヨーロッパの史跡に戻りたいと思います。ヨーロッパを訪れ始めたのは2000年ごろからなので、かれこれ20年以上になり、すでに情報が古いものもあるかもしれませんが、ご容赦ください。
今回ご紹介するのは、2013年9月にイングランド北部のニューカッスルから南のポーツマス近郊まで、車で縦断したときに立ち寄った町、ブラッドフォード・オン・エイボンです。ここは、ローマの浴場遺跡で有名なバース(Bath)から12kmほど南東にある、人口1万人ちょっとの小さな町です。町の歴史はバース同様、ローマ時代にまで遡り、13世紀の留置所が付属する橋や中世の建物など古い景観が多く残っている魅力的な町です。その中でも、イギリス国内に残る数少ないアングロ・サクソン建築のひとつである聖ローレンス教会が、ひときわこの町を魅力的にしています。ここを訪れたのも、まさにこの建物を見るがためでした。
町の見どころである教会は、町の中心を流れるエイボン川の北側にあり、南側には、残念ながら入っていませんが、ザ・ブリッジ・ティールムという、まさしく古い英国調の洒落た喫茶店があります。宿泊したホテルは「The Swan」という、なぜかタイ料理が有名なレストランがあるホテルでした。小さいホテルですが、古めかしい英国調の部屋はイングランドの田舎へ来たという実感がありました。注) ホテルのウェブサイトをみると、2024年9月現在閉館中とのことで、近くの姉妹ホテルを紹介していました。
聖ローレンス教会は典型的なサクソン様式の建築で、建てられたときから今日までほとんど改築の手が加わっていない完全なサクソン建築として知られていますが、建造年代については西暦700年ごろに聖アルドヘルムによって創建されたという説、またはサクソン後期の10世紀または11世紀のものという説があります。いずれにしてもノルマン侵攻以前のアングロ・サクソン時代のものであることは間違いありません。デーン人ヴァイキングの襲撃から避難してきたシャフツベリー修道院の尼僧が、1001年にイングランド王エゼルレッド2世(978~1016年ごろ)から与えられた場所であるとされており、このころに建てられたのではないかというのが有力です。そのときに尼僧たちは、王の兄弟で聖人とされていたエドワード殉教王の遺体をこの教会に持ち込んだとされています。このためこの教会が小さいのに、非常に精細で、断片が残るのみですが、豊かな装飾が施された修道院建築の建物になったのではないかと考えられています。
中世の歴史家ウィリアム・オブ・マームズベリによれば、1125年ごろにはまだ聖ローレンスを祀る修道院教会が残っていたことが記録されていますが、その後の建物は長い間教会として使われることはありませんでした。それ以後18世紀には納骨堂となり、19世紀には学校となったこともあり、人々から忘れ去られた存在になっていました。しかし1856年に行われた建物の修復作業のときに、内陣のアーチの上に2体の天使の石像彫刻が発見され、教会の歴史家によりこの建物がサクソン時代後期のものであるがわかりました。また祭壇には8世紀に遡る、教区教会の初期に作られたと思われる彫刻が施された石板が組み込まれています。このときに歴史家によって聖アルドヘルム時代に遡るのではないかと考えられましたが、実際のアルドヘルム時代の教会堂は、すぐ南側にある現在の聖トリニティ教会(Holy Trinity Church)の敷地内にあったとされています。
外国人でこの町を訪れる人は少ないだろうと思いますが、バースから近いので是非立ち寄ってみてください。
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