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WRA10-1 Brighton-Spurs (R Peter Bankes)

みなさんこんにちは。最近プレミアリーグの分析というとピーター・バンクス主審ばかり分析しているあるびとろです。

今日はそのピーター・バンクスさんが主審を務めたブライトン・アンド・オーブ・アルビオン対トッテナム・ホットスパーの試合を分析します。

顔が好きだからとかいうわけではなく、この分析でピーター・バンクス主審を取り上げているのには2つ理由があります。

①プレミアリーグのレフェリーの中ではスタイルが「日本的」なため勉強になること

②1人の審判員がスタイルの違う試合でどのように「変幻自在に」対応するか学ぶこと

以上の2点です。この2点を念頭にお読みいただけると嬉しいです!本日もよろしくお願いします!分析の中で理由についても詳しく説明しますので、少々お待ちくださいね!

STATS

BHA 1-0 TOT
Goal   BHA Leandro Trossard 16'
Cards BHA Neal Maupay (71')  Dan Burn (86')
           TOT Toby Alderweireld (67')

43.2 Possession % 56.8
5 Shots on target 4
16 Shots 8
619 Touches 746
407 Passes 556
19 Tackles 13
15 Clearances 22
9 Corners 2
1 Offsides 1
2 Yellow cards 1
11 Fouls conceded 11

ゲーム状況の違いとポジショニングの違い

こちらの記事にも記した通り、審判のポジショニングは選手の動き方やチーム戦術に依存したものです。前回分析したマンチェスターユナイテッド対シェフィールドユナイテッドの試合はマンチェスターユナイテッドがボール保持する時間が長かったですが、今回の試合では10%程度しか差がないため少し両チームのサッカーの様相は異なってきます。

ボール保持されているチームのDFとMFの「ギャップ」を取りに行くのが基本ポジションになっていますが、保持が入れ替わった際の移動の回数(トランジション)は多くなります。

余談ですが、審判はどちらのチームでもないので、ポジティブ・トランジションもネガティブ・トランジションもありません。トランジションがあったら基本的に切り替えをスムーズに行い、次の展開に適したポジションに移動していきます。

気になったシーン

2:17 学びたいGKボールコントロール時の切り替え

トッテナムが低い弾道のロングボールをFWに入れようとしますが、合わずに流れBHAGK26ロベルト・サンチェスがボールをフリーでコントロールしたシーンでのポジショニング修正が参考になるものだったので、見てみたいと思います。

①ロングボールが入ろうとしている瞬間

スライド1

まずロングボールが入ろうとする瞬間には、「ロングボールがFWに通ったこと」を想定してポジションを選ぶ必要があります。

仮にこのボールが通った時には大きなチャンスになります。そうなると今タイムラインで話題のDOGSOにもなる可能性があります。判定が重要なエリアでのプレーが起こることからしっかりと良い角度・距離で判定を監視する必要があります。

バンクス主審は最適な角度を取って、距離も15m程度と非情に適切な距離感で監視を行っていました。

②GKがボールをコントロールした瞬間

スライド2

ボールがずれてしまい、GKサンチェス選手がコントロールしそうと分かった瞬間にバンクス主審は図のような横移動を行います。

これはブライトンの攻撃に備えたポジションチェンジだといえます。以前のポジショニング類型論でも何度かお話しさせていただきましたが、審判は対角線式審判法という方法を取ることが監視において多くのメリットがあり、その結果としてボールを主審と副審で挟む「R-B-A」(Referee-Ball-Assistant referee)という位置関係を作った方が判定しやすいということがあります。

その動きを作るために、先に角度を修正する動きは見事ですし、学ばなければいけないと思いました。また、ボールを完全コントロールする前(ボールが通らないと分かった時)に移動を開始したのも勉強したい点です。

③パスが動いた方と逆サイドに出されたとき

スライド3

サンチェス選手は右サイドにいたBHA3ベン・ホワイト選手にパスを出します。そうなるとバンクス主審の動いた方向とは逆にプレーが展開されることになります。仮に、同サイドにボールが展開されたらそのままのポジションを取ればいいかと思いますが、逆サイドに展開されたときにはそうはいきません。

図のように戻る動きをして、中央付近にバンクス主審はポジションを修正しました。この動きは非常に重要で、判定すべき事象が起こった時に距離が遠くなりすぎないということにつながります。

注意しなければならないのが、ホワイト選手がそのまま縦方向にずっとドリブルする可能性は極めて低いことです。ですから、ホワイト選手の近くに寄る必要は全くないといえます。このシーンではトッテナムの選手たちはプレッシャーをかけずにリトリートしたからです。そうなるとファウルがホワイト選手の付近で起こる可能性はほぼゼロに近いですので、あまり重要なシーンではありません。

今後の展開が右サイドで起こったとしても対応できるように若干位置を戻すのが重要なのであって、ピッチを横断する必要はないと思います。この微調整が非常に重要ですし、修正力の高さを学びたいと感じます。

プレミアリーグの試合を見ているとこのような修正を丁寧に行う主審は少ないように映ります。バンクス主審に関しては修正能力やポジショニングの部分が日本的であり、学びやすいかと感じます。

4:52 タッチジャッジのシグナルは焦らず

ハーフウェーライン付近のタッチラインからボールが出ましたが、どちらの再開か本当に難しいシーンです。正直映像を見てもどちらかわからないようなシーンでしたが、バンクス主審はすぐに焦ってシグナルせずに選手の雰囲気を観察しているように映りました。

焦って決めに行くと逆をさしてしまう可能性があり、そうなると不満がたまってしまいます。今回は中盤での事象で些細なことのように映りますが、事の重大さに対して信頼を失うリスクが高いのがタッチジャッジです。

事実に対する判定だからこそ正解がありますので、正解を選べないと選手の不満は高まっていきます。ですので、些細に映っても、非常に気を付けないといけないのがタッチジャッジです。

焦らずに、しっかり様子も観察して、副審とすり合わせる大切さをよく感じるシーンでした。少し時間を使ったことで選手は不満をためずにゲームに集中できたので、ナイスマネジメントだったと感じます。

6:50 オフサイドが先か反則が先か

TOT9ガレス・ベイル選手がロングパスに抜け出そうとしたところでBHA4アダム・ウェブスター選手と接触が起こります。しかし、A2のジェームズ・マインウォーニングさんがフラッグを上げてオフサイドを示します。判断は正しいと考えていますが、競技規則で関係する箇所を見てみたいと思います。

①オフサイドポジションから移動した、あるいは、オフサイドポジションに立っていた競技者が相手競技者の進路上にいて相手競技者がボールに向かう動きを妨げた場合、それにより相手競技者がボールをプレーできるか、あるいは、チャレンジできるかどかに影響を与えていれば、オフサイドの反則となる。その競技者が相手競技者の進路上にいて(相手競技者をブロックするなど)相手競技者の進行を妨げていた場合、その反則は第12 条に基づいて罰せられなければならない。

②オフサイドポジションにいる競技者がボールをプレーする意図をもってボールの方へ動いたが、ボールをプレーする、または、プレーしようとする、あるいは、ボールへ向かう相手競技者にチャレンジする前にファウルされた場合、オフサイドの反則より前に起こったファウルが罰せられる。

③ 既に、ボールをプレーした、または、プレーしようとした、あるいは、ボールへ向かう相手競技者にチャレンジしようとしたオフサイドポジションにいる競技者に対して反則があった場合、ファウルより前に起こったオフサイドの反則が罰せられる。

サッカー競技規則20/21日本語版 P.100より引用。番号・太字は筆者

今回のシーンは米る選手がボールをプレーしようとしたところで、マインウォーニング選手がチャレンジしているため、仮に反則があったとしてもオフサイドの反則が罰せられるという③が正しい判断です。非常に複雑ですが、審判員はしっかりイメージをしておきたいところです。

28:58 ナイスアドバンテージ

トッテナムのカウンターで、TOT28タンギ・エンドンベレ選手が自陣深くからドリブルして言ったシーンです。BHA34ジョエル・フェルトマン選手がチャレンジしたところトリッピングになってしまいます。ボールがトッテナムの選手につながったため、バンクス主審はアドバンテージを選択しました。

最終的にTOT23ステフェン・ベルフワイン選手につながり、トッテナムの1stシュートになったため素晴らしいアドバンテージだったといえます。

このようなカウンターのシーンでは深い位置でもアドバンテージを適用した方がチャンスになる可能性が高いです。なぜなら守備側の陣形が整っていないからです。

もちろんしっかりと周囲の状況を確認したうえでのアドバンテージだとは思いますが、カウンターという前提は頭に入れておきたい部分だと感じました。

38:10 スローイン前のマネジメント

トッテナムボールのスローイン。中盤付近から比較的長いボールを入れようとする直前に、BHA8イブ・ビスマ選手の手がTOT23ステフェン・ベルフワイン選手の顔付近に当たったように見えます。ビスマ選手もすぐに謝罪するなど意図的ではないように見えましたが、念のため「時間を作って」二人にバンクス主審は声掛けをしました。

この試合非常にフェアに試合が進んでいて、二人の様子もそんなに危険なにおいはしませんでしたが、少し落ち着かせることや痛みを取る時間をとることを目的に間をとったマネジメントは見事でした。

基本的にプレーが流れ続けるサッカーにおけるマネジメントでは「時間を作ること」「間を作ること」には重要性があります。大切な時にはしっかりと間を取る意識は大事だと感じるシーンでした。

まとめ 出色の出来で学ぶべき点が多い前半

本当にほぼ完璧なレフェリングで、学ぶべき点が非常に多くありました。ポジショニングよし、判定よし、マネジメントよし。この3要素が完璧に行えると選手もプレーに集中できると感じます。

前半はブライトンが完全に押していたゲームが後半どのようになるかであったり、後半も同じ質のレフェリングをできるのかといった点には注目がありますが、前半に関しては完璧だったので、是非審判員仲間の皆さまご覧あれ!

本日もお読みいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。


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