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WRA#2-5 「このオフサイドの解釈が分かりません!」 J1第32節名古屋-横浜FC(池内明彦主審)60分-75分

目次に重要度を星で示しています。お忙しい方は星の多い物のみ読んでみてください。

この試合はTwitterのアンケートで分析試合を決定しました。ご協力いただいたみなさんありがとうございました!(試合開始前にアンケートをしたときはまさかこんな話題性のある試合になるとは思っていませんでした…)

明治安田生命J1リーグ 第32節
名古屋グランパス 0-0 横浜FC
審判団 主審 池内 明彦 副審1 山内 宏志 副審2 村井 良輔 第4の審判員 植田 文平

警告 横浜FC 手塚 康平(90'+3)
退場 名古屋  ガブリエル シャビエル(82')

シュート数    名古屋  13-9 横浜FC
コーナーキック数 名古屋  3-5   横浜FC
フリーキック数  名古屋  15-8 横浜FC
(J. League Data Siteより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24171)

ここまでの展開と見通し

この前の45分から60分にかけては、正直落ち着かない時間帯だった。判定のミスもあり、マネジメントの部分でも不足していた面が正直合ったように感じる。

そのごちゃつきをこの60-75分という後半の中頃で押さえ、90分を終了した時点で、両チームが審判について忘れてサッカー自体についてのみ考えればいい状態にできるかという非常に重要な時間帯になる。

★ 65:13 ファウル 横浜FC30 手塚 康平⇒名古屋3 丸山 祐市

横浜FC30手塚康平選手が名古屋陣内深めにドリブルしていたが、少しタッチが大きくなってしまったところに、名古屋3丸山祐市選手がボールをカットした。丸山選手が前進しようとしたところに、手塚選手が後方からユニフォームを引っ張ってしまい、ホールディングの反則。判定は妥当。

この時丸山選手の前方から横浜FC7松浦拓弥選手もチャレンジをしており、何もしていなかった状態で笛を吹かれたので、手を広げて抗議している。池内主審は引っ張っていたことを示すジェスチャーをしていた。

無言で行っていたが、私だったら「手塚さんのところ」などの声掛けをするかもしれないなーと思ってみていた。

★★★ 67:09 【プレーを妨げるの解釈が難しい】Notオフサイド判定

横浜FC7松浦拓弥選手がペナルティーエリア外からはねたボールをボレーシュートして、名古屋GK1ランゲラック選手がセーブして、コーナーキックとなったシーン。

このシーンでは、横浜FC16皆川佑介選手がオフサイドポジションにいる。しかし、このシーンでオフサイドの反則になるかは見方が分かれるシーンであるといえる。まず、競技規則で関連しそうな条文を抜粋して、引用する。

①明らかに相手競技者の視線をさえぎることによって、相手競技者がボールをプレーする、または、プレーする可能性を妨げる
②自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える。または、
③相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる。

このシーンで関連する条文は以下の3つであると考える。判断が簡単なものから見ていく。

②については、皆川選手は転んでいた状態から立ってオフサイドポジションからオンサイドポジションまで、走って戻っているだけであったため該当しないといえるだろう。

③についても、②のような動きを皆川選手は取っているため、明らかな行動をとっていないといえる。

問題となり、日本語の解釈が難しいと感じた条文が①である。日本語の解釈も難しいので、英語の条文も見てみる。

preventing an opponent from playing or being able to play the ball by
clearly obstructing the opponent’s line of vision

詳しくは次回の「競技規則言語学#2」で取り上げるが、ある競技者が見えている部分とボールを結んだ仮想の直線上に競技者がいる状態が、"by
clearly obstructing the opponent’s line of vision "であるといえる。

前半部分の"preventing an opponent from playing or being able to play the ball "(「相手競技者がボールをプレーする、または、プレーする可能性を妨げる」)という部分が解釈がさらに難しいと感じている。

プレーを妨げる、プレーの可能性を妨げるといってもランゲラック選手のセーブは完了しており、プレーをしているともいえるからである。

だが、ランゲラック選手は視線をさえぎられたことでほんの少し反応が遅れたことでプレーの可能性を妨げられたともいえる。

翻って、反応が遅れなかったとしても、松浦選手のシュートは非常に良いシュートではじくのが精一杯のプレーだったようにもうかがえ、プレーの結果は変わらなかったようにも見える。

何を言っているのかわからないと思うので、見方を3つに分けてみる。

視線をさえぎるときの判断基準の見方

見方① Notオフサイド (視線をさえぎっていない)

皆川選手はボールとランゲラック選手を結んだ直線に入っていないため視線をさえぎっていないとし、オフサイドでない。

見方② Notオフサイド (プレーを妨げていない)
皆川選手はボールとランゲラック選手を結んだ直線上に入っているため、視線はさえぎっている。しかし、ランゲラック選手のプレーはできており、プレーを妨げたともプレーの可能性を妨げられたともいえず、オフサイドではない。

見方③ オフサイド (プレーを妨げている)
皆川選手はボールとランゲラック選手を結んだ直線上に入っているため、視線はさえぎっている。そして、ランゲラック選手の反応は皆川選手の影響で遅れたため、プレーは妨げられたといえるため、オフサイド。

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上図のような位置関係であり、元々シュートコースに皆川選手がおり、皆川選手が移動した後(この間1秒程度)ボールを近くを通った時には、ボールと皆川選手の距離は約50㎝であり、ランゲラック選手の視線(紫色の四角)を通ったため、見方①は該当しないと考える。

見方②と見方③の解釈については、私自身全くどう解釈すればいいか正直分からない。ランゲラック選手自身オフサイドを主張していないことからプレーにさほど影響していないとも見えるし、客観的事実からすると影響があったともいえる。そのため、どちらの解釈が正しいのか判断がつかない。

このコーナーキックの判定に関しては、審判団を尊重するのが正しいと考える。本当に解釈が気になるので、IFABの問い合わせをしてみた。その回答は下記のものである

This is a matter for the free’s judgment and will vary from incident to incident – please ask your refereeing instructors for more clarity.

「自由な判定のシーンで、事象によって異なるからレフェリングしたときインストラクターに意見求めてね!」サッカーらしいグレーゾーンまみれの回答であり、自身も白黒つけなきゃいけないという脳になっていることをIFAB様に教わった。

68:50~70:28 飲水タイム

セットされた状態で飲水をとるよりは、ゴールキックの判定時にすぐに飲水に行った方が良かったかも。

★ 70:54~70:59 副審2村井良輔さんの素晴らしいお手本のようなサイドステップ

名古屋がカウンター気味に攻撃しているシーンで、横浜FCはDFラインを下げている。その中で、副審2の村井良輔さんはすばらしいスピードでサイドステップをして、しっかりとラインキープをしている。勉強になるシーンであり、村井良輔さんは副審をやる上のお手本になる素晴らしいパフォーマンスだった。

★★ 【2種類の手の反則】 72:00 ノーファウル判定 (手の反則)

横浜FC陣内でクリアボールをトラップした横浜FC16皆川佑介選手に対し、名古屋2米本拓司選手が後方からチャレンジする。この時皆川選手はバランスを崩して、転倒するがノーファウル。この判定も見方の分かれる判定であるといえる。

見方① 軽微なプッシングであるとしてノーファウル
見方② 不用意なプッシングであるとしてファウル
見方③ ホールディングの反則としてファウル

このシーンでは米本選手が手で皆川選手に接触したことで起こった反則である。私は押して倒したということで見方②としてファウルをとるべきだったシーンだと思う。しかし、見方①であの程度の接触ならファウルをとらないということでその見方も支持することはできると考える。

その上で、手の反則はプッシングとホールディングで大きく異なっていることを理解しておく必要がある。

ホールディングとプッシングの違い

相手競技者を押す反則(プッシング)

相手競技者を不用意に、無謀に、過剰な力で押した場合に反則となる。程度が軽微な場合は反則とならないことももちろんある

現実的には無謀な(危険な状態であることを無視して、結果的に危険となる)プッシングであったり、過剰な力(相手競技者を危険にさらす)でのプッシングとなることは考えにくいので、基本的には不用意なプッシング(相手競技者への注意や配慮、慎重さを書いたもの)が起こる。

相手競技者を押さえる反則(ホールディング)

基本的に押さえる反則は、押さえる行為自体が意図ある行為とみなされており、押さえれば、程度は関係なく反則となる。

しかしながら、「そうはいっても」という部分は審判員にとってもあるため、審判員自身の中で許されない押さえることの定義をしておくことで、その定義の程度を超えたホールディングをしたときに反則となるといえる

74:28の名古屋の2枚替えに対しても、副審1の山内さんと第4の審判員の植田さんが見事な連携があり、交代がスムーズになされていた。本当に目立たないシーンだとは思うが、審判員の私たちは真似しないといけないシーンである。

75:00ごろに名古屋ペナルティーエリア内で名古屋34オジェソク選手が横浜FC16皆川佑介選手と接触して倒れているが、アクシデンタルなもので反則はなかった。

この15分間のまとめ

この15分間は、反則が一つで、池内主審に関わる議論が分かれる判定についても1シーンしかなく、そのシーンもどちらとも解釈できるシーンであり、大きなミスはなかったといえる。

また、池内主審が対応しなければいけないシーンもなく、選手が自発的に落ち着かせてくれたともいえる。最後の15分同点のようなシビアな試合状況では、何かが起こることがあるので、より気を引き締めていきたい時間帯である。

この試合を分析したシリーズ

#2-0 速報編(話題となったシーンの分析)

#2-1 0-15分

#2-2 15分-30分

#2-3 30分-45分

#2‐4 45分-60分


過去のWRAシリーズ(マガジンでまとめてます)

この試合のハイライト




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