読書感想文(81)東野圭吾『マスカレード・イブ』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回はマスカレードシリーズの二作目で、短編集です。
タイトルの通り、『マスカレード・ホテル』以前のお話です。

尚、今回は少しネタバレを含むのでお気をつけください。

感想

今回、今更ながら「マスカレード」の意味をきちんと把握しました笑。
『マスカレード・ホテル』においても、「ホテルマンはお客様の仮面を取ってはならない」というのは印象的でしたが、今回は特にそれが顕著でした(もしくは『ホテル』を読んだ時の自分が鈍感すぎたのか……)。

特に意外だったのが、先輩ホテルマンの久我さんが電話予約のお客様に対して一番高い部屋しか残っていないという嘘をついたことです。
5分で18万の売上というのは確かに営利企業にとって合理的な判断ですが、あんまり快く思うことができませんでした。まだ予約が完了していないから「お客様」ではないのでしょうか。
ただ、ホテルマンも仮面を被っているというのは『ホテル』でも言及されていたと思います。

この人には、こういう生き方が向いているのかもしれない。自らを犠牲にしてでも誰かに幸せになってもらうことが、結果的に自分の幸せに繋がると考える人なのだ。

「この人」こと宮原さんにはそれほど好感を持ったわけではないのですが、なるほどなぁと思いました。
私自身、これに近い考えも持っているのですが、多分構造は違います。
宮原さんは、子供たちに夢を与える大山さんの仮面を守るために自己を犠牲にし、それが結果的に自己効力感に繋がって自分の幸せに繋がるのだと思います。
私も自己犠牲による自己効力感が幸福に繋がるのは同じですが、その過程に偽りがあることを看過できません。
今回の例でいえば、本当は不倫をするような人がさも潔白な人間であるかのように振る舞い、その偽りによって他人を幸福にすることが気持ち悪く感じてしまうのです。
結果論でいえば、宮原さんの方が良いと思いますが、そこを本当に許してしまっていいのかという疑問があります。

「私たちの間には、もう何年も夫婦関係はありません。でも私たちは同士であり、お互いの最高の理解者です。主人にも恋人はいますが、私は何もいいません。離婚しないのは、理由がないからです。それに夫婦という肩書きは、何かと都合がいいので」
「所謂、仮面夫婦というやつですか。でも御主人はあなたのことを愛しているとおっしゃってました」
「ええ、もちろん私も彼を愛しています。だから仲は良いんですよ。誰よりも信頼できる」 

こういう大人の関係を素直に受け入れてしまえる程度には大人になったなぁと思いました笑。
信頼関係があるのが何よりだと思います。
ふと、江國香織『東京タワー』を思い出しました。詩史さん夫婦もそういう関係なのでしょうか。
自分が将来どうなるのかわかりませんが、嫌いな相手と一緒にいるのは嫌だなぁと思います。一方で、一般的な関係でなくても、お互いが納得していて誰にも迷惑をかけていないのなら良いんじゃないかなぁと思います。
そういう意味では、今回は殺人という迷惑を起こしているのでダメですが……笑

その他、シンプルにどのお話も面白かったです。いや、ミステリーだしシンプルではないか……。素直に面白かった、かな?
「ルーキー登場」の少しモヤモヤの残る終わり方も、「仮面と覆面」のみんな幸せな(?)終わり方も良かったです。
「ルーキー登場」の結末については、実際こんな風に人の狡猾な部分を見た時はかえって安心する方です笑。
私は善人よりも悪人の方が信用できると思っているのですが、これについてはまたnoteに書く機会があれば書こうと思います。

おわりに

今回も面白かったですが、『ホテル』に比べると少し物足りないように感じました。
ホテルマンと刑事を主人公として何作も書くのは難しいかもしれませんが、二人のお話をもっと読みたいです。
次はいよいよ『マスカレード・ナイト』です。とても楽しみですが、先に一冊だけ別の本を読むかどうか迷っています。
どちらを先に読むかは、明日のnoteで是非ご確認下さい笑。

というわけで、最後まで読んでくださってありがとうございました。

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