読書感想文(384)恒川光太郎『化物園』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回はオススメされた本です。
恒川光太郎さんの作品は以前『白昼夢の森の少女』だけ読んだことがあります。

感想

面白かったです。
個人的にはどちらかと言えば『白昼夢の森の少女』の方が好みでしたが、恒川光太郎さんはホラー小説がメインだそうなので、本領はこちらなのかなと思います。
『白昼夢の森の少女』はホラー要素もありつつ、ファンタジー感というか、幻想的というか、不思議な雰囲気を強く感じたのですが、『化物園』を読んでみると、似ているモチーフが結構あって、作家性がほんの少しだけ見えた気がします。
例えば「焼け野原コンティニュー」では謎のドラゴンが出てきますが、読んだ時はどういう発想なのか疑問に思いました。でも、化物園はそもそも化物がメインなので、そういうモチーフが作者の中にあるのだろうと腑に落ちました。
あとは「夕闇地獄」に出てくる雨蛇様もそうですね。
もっと注意深く読めば、この作者の化物観がわかりそうな気がしますが、現時点では全然わかりません。
なんとなく、化物を絶対悪として捉えていないような気はします。
『化物園』は結構悪い人間が出てくるので、人間も言ってしまえば化物だよなぁと思ったり。そう考えると、異形の化物も一種の動物に過ぎません。
今書きながら気づいたのですが、そう思えば最後の「音楽の子どもたち」はそう言った化物観を象徴しているかもしれません。確か、本文に風媧のセリフで明示されていたはずです。ちょっと探して引用してみます。

「私はいろんなものに姿を変えることができます。猫にも犬にも、人間にも。ただ自分が何なのかは私にもわかりません。〈風媧〉は自分では実体に近いもののような気もしますがね」

長い旅のなかで、自分と同じ種族に出会うことが何度かありました。(中略)
同胞といっても、私たちの性格や知性はばらばらで、私たちは環境に染まりやすく、どのような環境に長くいたかで、全く別の生き物のようにその性質は異なるのです。
同胞のなかには人間を食べたり、徒に殺したりすることを楽しみにしているものもいましたし、森林の奥で付近の村落から崇められているものもいました。
私も大昔には人間を食べていました。
しかしある時、音楽好きの盲目の女性の家に、猫として飼われるようになり、次第に人を喰わなくなり、今の性格が形成されていったのです。

P303

改めて読んでみると、まさに人間そのものです。
人間は変身できませんが、日常的に役割を変えて生きているのは変心とも言えます。例えば、会社できっちりしている人が、家ではだらだらしているように。
また、昔と今の変化が大きくても、何となく今の自分が自分だと思っています。この点は中島敦の『山月記』にも見られる考えです。
そして、人間という同じ種族でありながら千差万別であり、環境に性質が作用されるのも同じです。

そう考えると、この作品は化物を通して人間を描いているとも捉えることができます。「音楽の子どもたち」は一番最後のお話なので、この視点を持って最初から読み直してみると、何か掴めるかもしれません。

というか、今改めて全体を俯瞰すると、化物はほとんど存在が匂わされるだけで、大半は化物みたいな人間が描かれていますね。化物園は人間社会でした。

さて、他に何かあるかなぁとパラパラと捲っていたのですが、また突然ひらめきました。
「風のない夕暮れ、狐たちと」について。
これ、最後がなんとなく曖昧に終わっているなぁと思ったのですが、最後に主人公達が向かう狐谷は化け物の棲家とだけ言われ、化け物は出てきません。
なんとなく読み流してしまいましたが、ふと、「もし化け物がいたとしたら?」と仮定してみました。すると、どう考えても怪しいのはセールスマンです。
そして、家族がどんどん変死していることと、息子一人だけを残して伴侶となる女性(主人公)を迎え入れたこと。
これらを合わせて考えられる結論は、この人間のセールスマンに化けた化け物は、人間を養殖(?)しているということです。養殖というよりは、家畜でしょうか。要するに、食料を食べて減らしつつ、産ませて増やしつつ、ということをやっているのです。この二人がまた子どもを作れば、最も若い一人を残して順番に食べていきます。最後の一人になる前に主人公のように新人を迎え入れて、また子どもを産ませる。
なんでそんな面倒なことをするのかはわかりませんが、自分の中では結構しっくりきました。
改めて読めば本文に肯定する根拠が見つかるのか、否定する根拠が見つかるのか。というか、注意深く読んでいれば、読んでいる途中に気づけた気がします。
この作者の文章は一文が短くてスラスラ読めてしまうので、今回はさらっと読み過ぎたかもしれません。

おわりに

今回も楽しく読みましたが、まだまだ未知の部分がある作家さんです。
次は代表作の『夜市』かなぁと思っています。でも、『化物園』を図書館に返却するついでに、まだ文庫化していない作品を借りて読むのもありだなぁと思っています。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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