読書感想文(252)青山美智子『赤と青とエスキース』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は昨年度の本屋大賞2位の作品です。
青山美智子さんの作品は『月の立つ林で』『木曜日にはココアを』を読んだことがあります。

感想

とても良かったです。
納得の本屋大賞2位というか、これでも2位だったのか……と思いました。
まあ去年はちょうど海外で戦争が起きたことも、『同志少女よ、敵を撃て』の票を増やした可能性もあります。
こちらも近いうちに読みたいと思っています。

さて、本書の構成は作者の十八番と言いますか、複数の登場人物が様々なところで繋がっていて、短編連作のようになっていました。
それにしても、まさかここが繋がるなんて!という意外性もあったのが面白かったです。

内容については、半分くらい読み進めてからやっと、それぞれの章でそれぞれの「赤と青」があるのだと気づきました。
赤と青がそれぞれの章で同じものを象徴したり、違うものを象徴したりしていたので、ここをもっと深く読めそうだなと思いましたが、今回はひとまず物語を読むことに専念しました。

印象に残ったところは色々とあるのですが、そのどれもがどう言葉で表現すればよいのか迷います。
なんとなくぼんやりと、でも確かに印象に残っています。
こういう物語が、時を経て自分の中に残っていくのだろうと思います。

とりあえず、印象に残った所を引用していこうと思います。

「でもね、描いているうちに、自分でも予想できないことが起きるんだ。筆が勝手に動いたり、偶発的な芸術が生まれたり。思ったとおりにすらすら描けたらそりゃあ気持ちいいだろうけど、どちらかというとそっちの方がおもしろくて、絵を描くことがやめられない。たとえ完璧じゃなくても」

P33

お互いに、こういう人がいいっていうんじゃなくて、この人がいいって思えたら、それが完璧な組み合わせだと思いますよ。人ってみんな、ひとりしかいないんだから

P75

こんな世の中でまっとうに生きようとしたら、誰だっておかしくなっても不思議じゃないわよ

P166

「よく、人生は一度しかないから思いっきり生きよう、って言うじゃない。私はあれ、なかなか怖いことだと思うのよね。一度しかないって考えたら、思いっきりなんてやれないわよ」

P197

横断歩道の前で、青信号が点滅し始める。
走ろうとして、やめた。
点いては消える青い光を、ただ見つめる。思えば私はいつもいつも、走っていた。ここで急いで渡ったところでたいした違いはないのに。
待っている時間が無駄に思えて、止まっていたくなくて。
横断歩道だけじゃない。私はいつも急いでいた気がする。早く、早く早く早く。
私はいったい、何を焦っていたのだろう。いつのまにかしみついていた強迫観念のようなものだったのかもしれに。

P199,200

最後の二つについては、大事だなと思う一方で、やっぱり自分は急ぎたいんだろうな、とも思います。
なぜなら、点滅した信号を一回分早く渡れたら、その次の信号にまた間に合うかもしれないからです。その積み重ねは大きいと思います。どんどん先に進んで行かないと、見られない景色があります。人生は一度しかないのだから、行けるところまで行ってみたい、という気持ちがあります。
ただこれも、なぜ行けるところまで行ってみたいのか、と考えると難しいです。
死ぬ時にはどれだけの事を知っているかなんてどうでもいいだろうし、勝ち負けの問題もありません。
こんなことを考えていると、「人生の意味は死ぬまでの暇つぶし」という言葉が妙にしっくりきます。
暇つぶしだからこそ、行けるところまで行ってみよう、ととりあえず思っておきます。

おわりに

今年読んだ中で一番かもしれないくらい面白かったです。
三浦しをん『風が強く吹いている』と良い勝負でしょうか。
年末にどちらの方が印象に残っているのか、ということも楽しみです。
今年はまだまだ長いので、できるだけ沢山の良い本に出会いたいと思います。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?