読書感想文(348)東野圭吾『容疑者Xの献身』


はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回はガリレオシリーズの第三巻です。
この作品は何年も前に映画化された時に読みました。
今回、ガリレオシリーズを初めから読んでいるので、再読しました。

感想

面白かったです。
さすが最高傑作と言われるだけのことはあります。
ある程度内容は覚えていたので、伏線も意識しながら読み進めました。
それにしても、やっぱり東野圭吾さんは心理描写がものすごく上手いです。
この作品はミステリーとしてもかなり優れていると思いますが、それ以上に人間ドラマの部分が惹かれます。

以下、特に印象に残った所の引用です。

話が弾むというほどではなかったが、学生時代の思い出を絡めながら数学のことを語るのは楽しかった。ずいぶん長い間、こういう時間を失っていたことに、石神は改めて気づいた。大学を出て以来、初めてかもしれなかった。この男以外に自分を理解してくれる者はおらず、また自分が対等の人間として認められる者もいなかったのかもしれない、と湯川を見ながら石神は思った。

P115,116

天才ゆえの苦悩ですが、天才でない人間にも思い当たる節があるのではないでしょうか。
大学にいた頃は趣味が似通った人が周りに多く、ニッチな話題でも深く議論ができました。しかし大人になるとそういった繋がりは減り、久々に会った友人とも当たり障りの無い会話をして終わってしまう、といったような。
だからこそ、色んな話ができる友人は大切にしたいなと思います。
でも、色んなことに手を出しているとどうしても他人と共有できないものが増え、そこに寂しさを感じているような気もします。最近の一番の悩みはこれかもしれません。他の誰からも理解されなくても、自分の心の中にある童心に、自分だけは味方でいてやらなければいけない、というような。誰もわかってくれないんだ、と諦めて、心の奥底で隠しながら自分の子ども心を育てていく、これが一番良いかもしれません。
なんだか変におセンチな内容になってしまったのでこの辺りでやめておきます。
まあ、こんな黒歴史みたいな文章を書ける若さがあるならまだまだ自分は大丈夫だろう、と思っています。

「僕が最後に石神と言葉を交わしたのが、この場所だったんだ。その時僕は彼にこういった。この世に無駄な歯車なんかないし、その使い道を決められるのは歯車自身だけだ、とね」

P346

この言葉は真相を知った後だと重いですね。

「話を聞けば、彼女は自首すると思うか」
「わからない。僕自身、彼女は自首すべきだと強く思っているわけじゃない。石神のことを思うと、せめて彼女だけでも救ってやりたいような気もする」

P372

今4巻『ガリレオの苦悩』を読んでいますが、湯川がこの事件を引きずっている様子が描かれます。
昨年、『沈黙のパレード』を読んだ時もやはりこの『容疑者Xの献身』が意識されていました。
この作品は少し行き過ぎた純愛が評価されているような気がしますが、それは一歩間違えば殺人の容認にも繋がってしまう読み方です。
けれどもやっぱり、読者は湯川の考えに共感してしまう。
こういう心理を描くのが本当に上手いなと思います。

私のことはすべて忘れてください。決して罪悪感などを持ってはいけません。貴女が幸せにならなければ、私の行為はすべて無駄になるのですから。

P381

この手紙の文章が、先程述べた純愛を最も表しているように思います。
そして、論理的思考に優れた石神が唯一間違えたことがここだと思います。
罪悪感というのは、持ってはいけないと言われて持たないようにできるものではありません。自発的に感じてしまうものです。
このたった一つのミスが、石神が築いた論理を根底から覆したのです。
この崩れ方はまさに数学のようで、そういったところも上手いなぁと思いました。

おわりに

やはり名作と言われる作品は良い作品が多いなぁと思いました。
今は既にガリレオシリーズの続きを読み始めています。
まだまだミステリーが読み足りないので、しばらく続きそうです。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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