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大学受験の英語:『語彙の神話』

こんにちは。札幌で英語講師をしているアラと言います。

今回もフォルス著『語彙の神話』の内容を紹介していきたいと思います。

英文を読んでいるとき、未知の単語が出てきたらどうするべきか。外国語を学ぶときには避けられない疑問です。

ただこの疑問は、二つのより具体的な疑問に分けるべきだと思います。わからない単語を「今」どうするべきか、と、「そもそも」未知の単語を減らすにはどうするべきか、という二つです。

今目の前にある未知の単語は、調べるか文脈で推測するしかないわけですが、常に調べられる環境にいるとも限りません。入試本番では辞書持ち込み可の試験でないなら文脈から推測するしかないわけです。

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『語彙の神話』では、この文脈からの推測を「リーディングのストラテジー」(p.98)として教えるべきだ、としています。別言すると、文章を理解するには当然文脈から未知の単語の意味を推測をするべきだが、それは単語の意味を覚えるのにふさわしい方法ではない、ということです。文脈からの推測は「今」の答えであって「そもそも」の答えではないのです。

日本語の文章を読んでいてわからない言葉にでくわしたとき、高校三年生であればだいたいの意味は推測できるのではないでしょうか。母語であれば推測の的中率が高い、と考えるのが自然です。でもそれが外国語だったら? 日本語の場合そもそもわからない単語が少ないので、一文中に未知の単語が複数あること自体珍しいでしょうが、英語ではザラですよね。この状態で推測すると、仮定に仮定を重ねて推測するわけですから、当然推測の的中率はガタ落ちします。『語彙の神話』では、外国語の単語の意味を推測した時の的中率が23%だったという研究が紹介されています(p.90)。ただしこれがどんな文を用いて行われた研究なのかよくわかりません。しかし、日本の難関大学の入試に出てくる英語の文章よりも難しいとは考えにくい。となると、入試の場合、その的中率はさらに低くなり得ます。ですから、本気で合格を目指す人なら推測を当てにはしないでしょう。

文脈から推測し、あとで辞書で確認すれば、いずれ語彙は増えると思います。しかしこれでは時間と手間がかかりすぎます。それに、これまた『語彙の神話』で参照されている数々の研究の共通した結論ですが、学習者はわからない単語が多くなればなるほど、推測することも調べることもやらなくなるのです(p.94)。端的にいえば、意味がわからないことを苦痛に感じ、学習意欲が削がれてしまうのです。このことは僕の授業の経験と合致します。単語力が低く、辞書を引く習慣も身についていない子は、おどろくほど適当な答えを書いたり、「選択肢に本文と同じ単語があったから」という理由だけで選択肢を選んだり、設問を飛ばしたりしがちです。勉強の質がおそろしく低くなっているのです。

文脈からの推測は、試験本番であれば当然行うべきことですが、そんなものは誰だって言われなくてもやるでしょう。どうせ英語では現代文の設問ほど複雑な問われ方はしないので、正確に読める文を増やしていけば十分に得点できます。そして、未知の単語を推測した場合の的中率は高くないと考えられるのですから、教える側も教わる側も、まずは単語力の増強にもっと時間と労力を割くべきです。そうして正確に読める文を増やしていきましょう。

さて、「そもそも未知の単語を減らす」の方の答えですが、それは、単語を覚えるときは単語を覚える作業に集中する、というものです。当たり前と思うでしょうが、意外にも落とし穴がいくつかあります。次回の「大学受験の英語」では、単語学習の落とし穴について、中田達也著『英単語学習の科学』というそのものズバリの本を参考にお話ししたいと思います。

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