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山をくだる

「その山をくだるときに、一人でいる子供に出会ったら注意しろ。」

男は言った。
昔は、天狗の姿をしていたらしいが、時代に合わせて姿を変えているのだそうな。
基本的にはいいやつなんだが、ふざけたり意地悪することもあるから、機嫌を損ねるようなことをしてはいけない。

「普通の子供と天狗を見極めるにはどうしたらいいですか。」

私の質問に待ってましたとばかりに男が言う。

「その子にどこから来たのか聞いてみるといい。あっちの方とか掴みどころのない答えをしたらそいつは天狗だ。」

なるほど、柏のイオンモールの近くとか答えたら心配なさそうだ。

「俺は以前に出会ったことがあってな、その時持っていたチョコをそいつにあげたんだ。そしたらその後、競馬で大穴当たってね。」

どうやら、意地悪だけでなく幸運をもたらしてくれることもあるらしい。

「でも、どうしてくだる時なんですか?のぼりには出てこない?」

男は、ちょっと呆れて答えた。

「お前さん、次に来るときは必ず誰かにつれてきてもらいな。山で遭難するときはたいていくだりなんだ、道が分岐して広がるから迷っちまう。
のぼりのときは逆に、道がどんどん集まってくるから迷うことはあまりないからね。」


どうやら、天狗はその男だったらしい。
2時間前に私がその山でいた場所は、過去に何人も遭難者がでたポイントなのだそうな。

その男と話しをして別れたあと、気がつくと麓に通じる山道を歩いていた。

からかわれながらも助けられたようだ。

やっぱり山は侮ってはいけないな。

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