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農業スタートアップのトクイテン(下)~共同創業者に現状と課題を聞く

 自律農作業ロボットを駆使して愛知県知多市で有機農業に挑むトクイテン(本社・名古屋市)。連載(下)では、代表取締役・共同創業者の豊吉(とよし)隆一郎さん(41)と取締役・共同創業者の森裕紀さん(41)の共同創業者から有機農業や事業拡大への課題を聞きました。

代表取締役・共同創業者の豊吉隆一郎さん㊧と取締役・共同創業者の森裕紀さん。収穫など農作業支援の自律走行のロボット群とともに(2023年4月21日、愛知県知多市のトクイテンの農場で)

■農業の老老介護
Q:知多半島など農業の現状をどう見ていますか。
A:農業全般で人出不足です。平均年齢は68歳ですが、パイロットハウスのある知多半島の辺りは80,90歳の人が現役でやっています。80歳の人が90歳の人の畑の面倒をみているという「農業老老介護」のような状況。今後10年で4分の1の畑ができなくなります。化学肥料や農薬を使わず環境負荷を減らす有機農業が注目されていますが、そのために情報技術(IT)や農作業ロボットを活用しようということです。
■有機農業への期待
Q:今後の有機農業の見通しは。
A:有機市場は伸びていくと期待しています。ブームが過去何回かありましたが、今回が本当のブームだと思っています。アメリカでもまだ、全体の1割しか有機に切り替わっていませんが、日本で1割が有機農業になれば市場規模は大きなものになるでしょう。私たちのミッション(使命)は、持続可能な農業を自分たちで創っていくことです。
■スタートアップの意義
Q:スタートアップで農業を自ら営む意味は。
A:自動車産業でエンジンを作っている人がモーターを作れるかというと、そうじゃありません。トマトも昔ながらの方法で成功している人が有機に代われるかというと難しい。そこにスタートアップのチャンスがあると思っています。
■トクイテンのビジネスモデル
Q:どのようなビジネスを考えていますか。
A:ビジネスモデルの軸は二つ。ひとつは知多の実験農場のような直営農場を自社で増やしていくこと。規模は実験農場の3倍くらい。作物も最初はミニトマトですが、他の作物も展開していく。二つ目はハウスから環境制御機器、農作業支援ロボット、販売経路支援までパッケージで売ることです。
 課題となるのは土地確保と資金。現状では農業参入企業が増えているので、企業がお金を出して施設を建てくれたら、栽培と販売までやることで事業を拡大していけると思います。
■経営の現状
Q:まず一つ目の直営農場拡大の現状は。
A:直営農場は20㌃。今年度600万円の売り上げ予想です。来年度は1600万円の売上高を目指しています。今年度はまず、人件費を半分にすることが目標。
 パッケージでの販売先は、今年度中に1社の導入先を見つけたいです。収穫量は平均の農家の2倍を目指します。ハウス内の温度など環境の自動制御により達成したいです。
■外販の見通し
Q:パッケージ販売の見通しは。
A:パッケージ販売は2024年後半から本格化させたいですね。いま、企業とコンタクトをとって農業参入したいところを探しているところです。これまでのプレスリリースや新聞記事から問い合わせがあり、トマト栽培会社も見学に来ています。将来はミニトマト以外の作物も検討していて、パプリカなどが候補です。
 システムとして外販するのは、地元企業にとってもメリットがあります。製造業系はスマートファクトリー化で土地も人も余っているので、社員の再雇用や農産物直売開設で地域貢献のメリットがあります。
■農業の常識を見直す
Q:ロボットは完全ではありませんね。
A:実証農園の試行錯誤から、従来の農業のやり方や常識も見直しています。ロボットは脇芽を取るのが苦手です。実験的に新芽をひもで縛って芽かきの作業工程を減らしてみたら実のなり方がよくなったことも。
 ミニトマトを1個ずつひねって収獲するのが常識。1個あたり30秒かかる収穫を、房ごとまとめて取ることとで短縮できないかと考えています。 
■有利販売の価格設定
Q:有機トマトの価格はどのくらい高値になるのか。
A:有機栽培だからプレミアムもつきます。JAもこちらの言い値で取り引きしてもらっています。有機なら「1割ぐらい高くても買いたい」という消費者も多いですから。
 東京方面からも有機ミニトマトの出荷依頼がありますが、まずは足下で実績を積んでいきます。
■太陽熱活用
Q:強い除草薬は使えません。雑草の除去はどうしていますか。
A:太陽熱養生で、雑草除去のシーを敷いています。シートで蒸し込むことで雑草のタネごとなくすようにしています。それでも生えてくる雑草を取り除き、トマトへ栄養が行き届くようにしています。その作業の1割でもロボットがやるようになると、人件費が1割減らせるとアピールできるので、インパクトがあります。
■ロボット単体では売らない
Q:ロボットの引き合いは来ていますか。
A:単体で買ってもらっても使いこなせず、お蔵入りになることを懸念しています。僕らが直接パッケージで指導していく方が先決だと考えています。単体で売ると、使いこなせず、やっぱダメかとなると、期待が縮んで次につながらないですからね。
(2023年6月3日)
※連載(上)はhttps://note.com/aratamakimihide/n/n488f4d2461d6
※連載(中)はhttps://note.com/aratamakimihide/n/n40df69bcc98f

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スマート農業など最新の農政の現場を取材。そこから見えてくる農業の課題に切り込むつもりです。

農政ジャーナリストが愛知県の農業の現場をレポート。最新の農業事情を紹介していきます。

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