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8年前に取材したリネットジャパングループ~社会課題解決の歩み

 中古本のリユースや家庭に眠る小型家電のリサイクル事業で成長するリネットジャパングループ(本社・名古屋市)は8月31日、名古屋証券取引所メイン市場に上場しました。
■いまどき重複上場の訳は
 すでに東京証券取引所グロース市場(当時のマザーズ)に2916年12月に上場しています。近年、大企業は取り引きの少ない名証との重複上場を見直す傾向が強かったのですが、リネット社は逆に地元回帰の思いを込めているようです。
 8年前にリネット社を取材したことがあります。東京夕刊で2回にわたり、新規市場を開拓している若手経営者として取り上げました。(上)は「都市鉱山リサイクルに商機」、(下)は「トヨタ仕込みのカイゼン」。
■社長は社会課題をトヨタ仕込みの手法で解決へ
 もう新聞の見出しからお分かりかもしれません。パソコンや携帯電話など自宅で眠る小型家電を回収し、そこから希少価値の金属類を再利用するリサイクル事業で成長していた会社です。経営者の黒田武志さん(当時49歳)は、トヨタ自動車に就職して、のちにネットを活用した中古本のリユース事業にビジネスチャンスを見出して起業しています。当時、愛知県大府市の倉庫に宅配で買い取った中古本が整然と仕分けられており、棚の間をスタッフがジャスト・イン・タイムさながらに注文のあった中古本を集めて行く様子は壮観でした。
■家庭に眠るパソコン回収を軌道に乗せた
 ブックオフのネット版からスタートした事業は、「都市鉱山」に着目したことで、さらに社会性を増していきます。家庭に眠るパソコンや携帯電話など小型家電の宅配回収と希少金属の活用です。
 資源がないと思いこまされていた一人の新聞記者は、取材を通じて都市鉱山の可能性にわくわくしてきたことを思い出します。眠れる資源を集めることができれば、金は世界一の埋蔵量がある南アフリカを上回り、銀もポーランドなどの諸国に優るというのです。
 環境省から唯一の回収事業者に認定されたものの、取材当時は地元の大府市や沖縄県など26自治体(9都道府県)で事業を始めたばかりでした。
 いまは、政令指定都市20都市を含む全国642自治体と提携して、行政と一緒になって家庭に眠る資源の回収を進めています。黒田社長は「人口カバー率では約8500万人になります」と言います。
■思わぬ業容拡大に驚き 

名古屋証券取引所で自社の銘板を示す黒田社長

 2015年の取材時には、思ってもいませんでした。パソコンなどの回収の拡大もそうですが、新たに2023年4月、障がい者グループホームのトップ企業「アニスピホールディングス」を100%子会社化しました。黒田社長は上場後の記者会見で「中部地区で施設が全く足りていません。我々が力を入れていくソーシャルケア事業の施設を愛知、名古屋でも展開していきたい」と述べています。
 さらに海外からの人材送り出し事業としては、カンボジアから自動車整備職種で日本での就労を支援しています。今後はインドネシアから日本で不足する介護・福祉職への人材投資事業に領域を広げていく計画です。
■東京五輪のメダルに貢献
 都市鉱山が注目されたきっかけの一つが東京オリンピックのメダルでした。リネット社もオリンピックメダルプロジェクトの事務局の1社として、家電リサイクルで培ったノウハウで貢献しています。2026年に愛知県を中心に開催されるアジア競技大会でも、ぜひ家庭で眠っているパソコンなどから選別された金や銀でメダルができるといいのですが。
■黒田社長の思いは草の根活動
 経済産業省の統計によると、日本全国の家庭に約3000万台のパソコンが眠っています。さらに毎年、新品だけでも200万台とか300万台が増えています。リネット社の回収台数は、年間約100万台。黒田社長は「まだまだ掘り起こす余地は大きい。年間300万台は回収しないと」と話します。
 これから力を入れようとしているのは、小中学校中心に草の根のリサイクル運動です。全国の小中学校は約3万校。都市鉱山の意義を理解してもらいながら、エコキャップ運動以上のリサイクル運動にしていきたいと構想を温めています。
 「ビジネスを通じて、”偉大な作品”を創る」
 リネットジャパングループの理念です。
 小学生たちが各家庭で集めた小型家電からアジア大会のメダルができれば、都市鉱山の新たな「鉱脈」となることでしょう。子どもたちにリサイクルやリユースの尊さを学んでもらう偉大な作品にもつながる気がします。
(2023年9月5日)

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