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理系論文まとめ24回目 Nature 2023/7/19 ~ 2023/7/19

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのか~と認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。

アーケオゲネティクスという考古学と遺伝学の融合があるのか!


一口コメント

Autonomous healing of fatigue cracks via cold welding
冷間溶接による疲労き裂の自律的治癒
「金属も自己修復する:疲労対策に革新をもたらす新たな視点を発見。」

A rotating white dwarf shows different compositions on its opposite faces
回転する白色矮星は、反対側の面で異なる組成を示す
「二面性を持つ白色矮星:白色矮星の進化過程を理解する新たな視点を提供」

Superconductivity and strong interactions in a tunable moiré quasicrystal
調整可能なモアレ準結晶における超伝導と強い相互作用
「新種の調整可能なキラル結晶:エネルギーを調整して電子系を制御する。」

A long-period radio transient active for three decades
30年間活動した長周期電波過渡現象
「GPM J1839-10:長時間パルスを発する謎の宇宙ラジオ源」

The global wildland–urban interface
世界的な野生と都市の境界線
「全球規模での自然と都市の境界線:WUI地図の作成とその人口分析」

Early contact between late farming and pastoralist societies in southeastern Europe
ヨーロッパ南東部における後期農耕社会と牧畜社会の初期接触
「遺伝子の視点から描かれる古代ヨーロッパの歴史」


要約

冷間溶接による疲労き裂の自律的治癒

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00031224231180891

金属の疲労とは、金属が何度も力を受けることにより、だんだんと微細なヒビが広がっていき、最終的には壊れる現象のことを指します。この研究では、金属が自己修復するという、まるで生物のような現象を見つけました。

①事前情報 :
金属は力を繰り返し受けることで、細かいヒビがどんどん広がり、これが最終的に金属の破壊につながる現象があります。これを防ぐための方法としては、安全率を高めるか、デザインを工夫することが主流でした。

②行ったこと :
純粋な金属に対して、繰り返し力を加え、その結果として発生する疲労クラック(ヒビ)が、自己修復する現象を観察しました。

③検証方法 :
金属に繰り返し力を加え、ナノスケールでの疲労クラックの進行を直接観察しました。

④分かったこと :
金属のヒビが進行すると共に、予想外にもそれが自己修復する現象が観察されました。これは、局所的な応力状態と粒界移動によるクラック側面の冷間圧接によるものと考えられます。

⑤この研究の面白く独創的なところ :
金属が自己修復するという、これまでの金属理論には存在しなかった現象を見つけました。

応用先
この研究は、橋や建物などの構造材料の設計や評価において、疲労寿命をどのように理解するかの観点から見直すきっかけになります。



回転する白色矮星は、反対側の面で異なる組成を示す

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06171-9

白色矮星とは、死んだ星が密度高く収縮したもので、一部には重い元素が沈んでいます。研究者たちは、この白色矮星の片側が水素で、もう片側がヘリウムで覆われているという、変わった特性を持つ白色矮星を観察しました。

①事前情報 :
白色矮星の表面組成は、重力沈降と競合するいくつかのメカニズムによって変化します。温度が約30,000ケルビン以下に冷却すると、ヘリウム大気の白色矮星の割合が約2.5倍に増加することが知られています。

②行ったこと :
水素で支配された大気とヘリウムで支配された大気の両方を持つ移行期の白色矮星ZTF J203349.8+322901.1の観察を報告しました。

③検証方法 :
白色矮星ZTF J203349.8+322901.1を観測し、その表面の化学組成と磁場を分析しました。

④分かったこと :
この特異な特性は、表面上で温度、圧力、混合強度の非均一性を生み出す小さな磁場の存在によるものと考えられます。

⑤この研究の面白く独創的なところ :
この種の白色矮星は、白色矮星のスペクトル進化の背後にある物理的なメカニズムに光を当てるのに役立つ可能性があります。

応用
この研究の結果は、星の寿命や進化の理解を深めるための重要な情報を提供します。


調整可能なモアレ準結晶における超伝導と強い相互作用

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06294-z

三層のグラフェンを2つの異なる角度でねじることにより、新種の"モアレキラル結晶"を生み出しました。これは調整可能なキラル結晶で、エネルギーを変えることで、周期的な領域と強くキラルな領域の間で電子系を調整することができます。

事前情報
キラル結晶は周期的な構造やアモルファス構造に比べて探索されていません。これは、その複雑さと稀少性が一因となっています。

行ったこと
グラフェンの三層を2つの異なる角度でねじることにより、相互に非整合性のある2つのモアレパターンを形成しました。

検証方法
この新しいキラル結晶の電子系を低エネルギーと高エネルギーで調整し、その特性を観察しました。

分かったこと
この新型モアレキラル結晶では、低エネルギーでは周期的な領域、高エネルギーでは強くキラルな領域が観察されました。また、キラル領域では、弱く分散する状態の大きな密度と、フレーバー対称性が破れる相転移近くでの超伝導が観察されました。

この研究の面白く独創的なところ
この調整可能なキラル結晶は、関連する周期的なモアレ結晶の電子秩序に関する洞察を提供するだけでなく、キラル系の研究にも役立つ可能性があります。

応用
この研究は、新たな量子材料の探索や強く相互作用するキラル結晶の特性の調査に貢献する可能性があります。


30年間活動した長周期電波過渡現象

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06202-5

宇宙から長時間に渡り発生するラジオパルス(電波のパルス)を観測しました。これは、GPM J1839-10と名付けられ、そのパルスは明るさで2桁も変動し、30秒から300秒まで持続します。これらの電波は1988年から少なくとも繰り返し発生していることが分かりました。

①事前情報:
いくつかの長周期ラジオトランジェントが最近発見されていますが、その起源についてはまだ議論が続いています。強力な磁場を持つ中性子星(マグネター)からのものと解釈されるケースもあります。

②行ったこと:
21分という長周期のラジオトランジェント、GPM J1839–10の観測を行いました。

③検証方法:
観測されたパルスの明るさの変化、持続時間、そしてクォーシ周期性の下位構造を分析しました。また、ラジオアーカイブの調査を行い、源が少なくとも1988年から繰り返し発生していることを確認しました。

④分かったこと:
観測されたパルスは、2桁の明るさの変動と、30秒から300秒の間の持続時間を持つことが分かりました。また、アーカイブデータにより、周期の微分が3.6 × 10-13 s s-1未満であることが分かりました。

⑤この研究の面白く独創的なところ:
この研究は、単一の中性子星からの二重極ラジオ放射を予測する従来の理論モデルの限界を押し広げる可能性があります。

応用
この研究の結果は、高磁場を持つ天体からのラジオパルス放射の理解を深めることにより、宇宙物理学の理解を進めることに貢献します。


世界的な野生と都市の境界線

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06320-0

自然と都市の境界線である野生生物都市インターフェース(WUI)の地球規模の地図を作成しました。地球の土地の4.7%しかカバーしていないにも関わらず、WUI地域には地球の人口のほぼ半分(35億人)が住んでいます。

①事前情報:

WUI地域は、山火事による住宅や命の喪失、生息地の喪失と断片化、および人獣共通感染症の拡大などの人間と環境の衝突とリスクが集中する可能性があります。

②行ったこと:
リモートセンシングによる建物の面積と野生の植生のデータセットを用いて、2020年の全球的なWUI地図を10m解像度で作成しました。

③検証方法:
リモートセンシングによる建物の面積と野生植生のデータセットを用いて、WUI地域の広がりと人口密度、土地被覆の種類、バイオマスレベルを調査しました。

④分かったこと:
WUIは地球の土地の4.7%を占めていますが、地球の人口のほぼ半分(35億人)が住んでいます。ヨーロッパ(15%)と温帯広葉樹と混合林バイオーム(18%)で特に広範囲にわたっています。2003年から2020年までの間に火災の近くに住んでいた人々(4億人)のうち、3分の2がWUI地域に住んでおり、そのほとんどがアフリカ(1億5千万人)に住んでいます。

⑤この研究の面白さと独創的なところ:
この研究の独創性は、リモートセンシングに基づくグローバルなデータを使用して、WUI地域の全球的な広がりを地図化した初めての研究です。

応用
この研究の結果は、人間と環境の衝突とリスクの管理、防火対策、生息地保全、人獣共通感染症の管理に役立ちます。


ヨーロッパ南東部における後期農耕社会と牧畜社会の初期接触

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06334-8

古代のヨーロッパに住んでいた人々がどのように進化し、移動し、互いに影響を与え合ったかを遺伝子の視点から解明しようとしています。専門用語をいくつか説明すると、「アーケオゲネティクス」は考古学と遺伝学を組み合わせた研究領域で、古代のDNAを分析して人間の過去の移動や交流を明らかにすることを目指しています。「遺伝子ターンオーバー」は、一定の地域や集団における遺伝的構成が時間と共に変化する現象を指します。

事前情報
西部ユーラシアでは、紀元前7000-6000年頃に農業が広まり、紀元前3300年頃には牧畜が拡大し、この間に金属加工や車輪、馬の家畜化などの重要な技術革新が起こりました。しかしながら、紀元前4250年頃に銅器時代の集落が消えてから牧畜が拡大するまでの間に何が起こったのかはあまりわかっていません。

行ったこと
研究者はこの未解明の時期を探るため、南東ヨーロッパと黒海北西部の接触地帯に住んでいた135人の古代人のゲノムデータを分析しました。

検証方法
遺伝子データは、1.24百万の単一塩基多型(SNP)と呼ばれる遺伝的変異のパネルを用いて濃縮し、PCA(主成分分析)という統計的手法を用いて分析しました。これにより、古代の個体がどのような遺伝的背景を持つ現代の集団と最も近いかを判断しました。

分かったこと
分析の結果、紀元前4500年頃から、黒海北西部の集団は銅器時代の集団と森林/草原地帯の集団の両方から派生した混合した祖先を持つことが判明しました。これは、農民と遊牧民の間で重要な革新が伝播したことを示しており、その接触は既存の予測よりも約1000年早かったと推定されます。

この研究の面白く独創的なところ
古代の人々がどのように進化し、どのように地域や文化を超えて交流したかを具体的な遺伝的証拠をもとに描き出していることです。これにより、農耕社会から牧畜社会への移行という人類史の重要なターニングポイントを新たな視点から理解することができます。

応用
この研究の結果は、古代の人間の移動や文化交流を理解するための手がかりとなり、これを基に人類学、考古学、歴史学などの分野で新たな研究や議論を引き起こす可能性があります。また、古代の人間の生活や社会構造を描くための教材や資料としても活用できるでしょう。


最後に
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