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理系論文まとめ25回目 Nature 2023/7/19 ~ 2023/7/19

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなAmerican Sociological Reviewです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのか~と認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。

腎臓の地図がわかってきた!


一口コメント

RNA polymerase II associates with active genes during DNA replication
RNAポリメラーゼIIはDNA複製中に活性遺伝子と会合する
「DNAが複製された直後も、読み手であるPol IIはレシピ本(DNA)のそばにとどまり、すぐに読み始めることができる。」

Diverse modes of H3K36me3-guided nucleosomal deacetylation by Rpd3S
Rpd3SによるH3K36me3誘導型ヌクレオソーム脱アセチル化の多様な様式
「ヒストン修飾を読み取り、遺伝子発現を調節するRpd3S複合体のダイナミックで複雑なメカニズムが明らかになった。」

Spin–vibronic coherence drives singlet–triplet conversion
スピン-振動コヒーレンスによる一重項-三重項変換
「プラチナ化合物の電子状態の微細な挙動を解明し、物質の性質制御に新たな道を開く。」

An atlas of healthy and injured cell states and niches in the human kidney
ヒト腎臓における健常および傷害細胞の状態とニッチのアトラス
「健康な腎臓と病気の腎臓の複雑な状態を理解するための高解像度GPSであり、より良い診断と治療戦略のための洞察を提供する。」

Mixing of moiré-surface and bulk states in graphite
グラファイトにおけるモアレ表面状態とバルク状態の混合
「BNとグラフェンを用いて、3次元材料の電子状態を2次元のツイストロニクスのアプローチで制御することが可能であることを示した研究」

Mixed-dimensional moiré systems of twisted graphitic thin films
ツイストグラファイト薄膜の混合次元モアレ系
「ボロン化窒素と石墨を用いて、3次元材料の電子状態を2次元のツイストロニクスのアプローチで制御することが可能であることを示した研究」


要約

RNAポリメラーゼIIはDNA複製中に活性遺伝子と会合する

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06341-9

遺伝子はDNAというレシピ本のようなもので、このレシピを読んで細胞が必要な物質を作り出します。このレシピ本が複製されるとき、読み手の一つであるRNAポリメラーゼII(Pol II)はどうなるのか、そしてどうやって新しくできたレシピ本に戻るのかがこの研究のテーマです。

①事前情報 :
遺伝子の情報がDNAからRNAに書き写される過程(転写)には、Pol IIという酵素が関与しています。DNAの複製が行われる際、このPol IIは一度DNAから取り除かれ、複製が完了した後に再びDNAに結合して転写を再開すると考えられていました。

②行ったこと :
DNAの複製後にPol IIがどのようにして転写を再開するのかを明らかにしようとしました。

③検証方法 :
複製フォーク(DNAの複製が行われる場所)を通過した直後の新生DNAにPol IIがどのように関与しているのかを観察しました。

④分かったこと :
複製フォークが通過した直後、Pol IIは他の一般的な転写タンパク質とともに、新たに複製されたDNAの両方のストランド(先行鎖と遅行鎖)に再結合し、すぐに転写を再開します。これは、転写活性を持つPol II複合体がDNAの近くに保持され、Pol IIとPCNA(複製を助けるタンパク質)の相互作用がこれを支えている可能性があります。

⑤この研究の面白く独創的なところ :
従来は、Pol IIが転写を再開するにはエピジェネティックマーク(遺伝子のオン・オフを制御する情報)が必要とされていました。しかし、この研究では、Pol IIがエピジェネティックマークなしに新しく複製されたDNAに結合し、転写を再開することを明らかにしました。

応用先
この研究は、DNAの複製と転写の連続性を理解することで、がんや遺伝性疾患など、細胞分裂が関与する多くの疾患の原因や治療法の開発に役立つ可能性があります。



Rpd3SによるH3K36me3誘導型ヌクレオソーム脱アセチル化の多様な様式

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06349-1

この研究は、我々の遺伝子の働きを調節する超複雑な微小マシンの働きについて深く探るものです。このマシンはRpd3Sという名前のタンパク質複合体です。この複合体はDNA、特に我々の遺伝子にある特定の化学的「フラグ」を読み取り、それによりこれらの遺伝子を「オン」にするか「オフ」にするかを決定する独特の能力を持っています。

①事前情報 :
ヒストン修飾という現象があり、ヒストン(DNAが巻きつけられているタンパク質)に小さな化学物質を追加したり取り除いたりすることで、私たちの体はどの遺伝子をオンにするかオフにするかを制御します。これらの修飾の一つ、H3K36me3という修飾は、酵母細胞のRpd3S複合体によって「読み取られ」、それによりヒストンから酢酸基を取り除く(脱酢酸化する)ことで遺伝子をオフにします。

②行ったこと :
Rpd3Sの構造を解析しました。これは自由状態とH3K36me3マークを持つ遺伝子に結合した状態の両方で行われました。彼らは、この複合体がどのようにこれらのマークを認識し、それに応じてヒストンを修飾するかを理解したかったのです。

③検証方法 :
クライオ電子顕微鏡は、分子の構造を非常に高解像度で観察することを可能にする技術です。この場合、研究者たちは、Rpd3SがH3K36me3マークを持つ遺伝子にどのように結合し、結合に伴ってその構造がどのように変化するかを視覚化することができました。

④分かったこと :
結果として、Rpd3Sがユニークな構造を持っていることを発見しました。特定のタンパク質(Eaf3–Rco1)の2つのコピーが非対称に組み立てられ、他の成分と一緒にコア複合体を形成します。この複合体は2つのH3K36me3マーク、ヌクレオソームDNA、およびリンカーDNAを認識し、脱酢酸化のための触媒中心を配置します。また、他のヒストンマークの存在に応じて特定の脱酢酸化を指向する代替的な作用モードも持っています。

応用
この研究の結果は、政策立案や経済計画に対する理解を深め、また、女性の労働力市場進出が経済的流動性にどのように影響を与えるかについての洞察を提供します。


スピン-振動コヒーレンスによる一重項-三重項変換

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06233-y

分子や物質の性質を制御するためには、電子の励起状態を上手く操作できることが大切です。本研究では、光を当てることで起こるプラチナ化合物の電子状態の変化を特別な方法で観察し、その詳細な挙動を明らかにしました。これにより、物質の性質を自由自在に操るための新たな設計指針が得られるかもしれません。

事前情報
電子の励起状態間での転換(特にシングレット状態からトリプレット状態への転換)は、分子や物質化学で非常に重要です。これまでの研究では、スピン軌道相互作用とバイブロニック効果(電子と分子の振動との相互作用)がこの転換を加速することが示されてきました。

行ったこと
4種類の構造的に関連する二核プラチナ(II)金属-金属-リガンド電荷移動(MMLCT)錯体に焦点を当て、コヒーレンス分光法による実験を行いました。

検証方法
光励起によりPt-Pt結合の形成が活性化され、ストレッチング振動パケットが発生します。このパケットの分子構造依存性のデコヒーレンスとリコヒーレンスのダイナミクスを観察し、スピン-バイブロニックメカニズムを解析しました。

分かったこと
Pt-Ptストレッチング座標に沿ったベクトル運動は、シングレット状態と中間状態のエネルギーギャップを不可逆的に調整し、結果として最低安定トリプレット状態の形成を推進します。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、スピン-バイブロニックメカニズムの精密な実験的現象を初めて明らかにしました。また、バイブロニックコヒーレンスをプローブとして使用することで、スピン転換プロセスにおけるスピン、電子、核のダイナミクスの相互作用を明確にする新たな手法を提示しました。

応用
この研究は、、新たな分子設計のガイドラインとなり、励起状態の性質を制御する新たな材料やデバイスの開発に繋がる可能性があります。


ヒト腎臓における健常および傷害細胞の状態とニッチのアトラス

https://www.nature.com/articles/s41586-023-05769-3

この研究は、健康な腎臓と病気の腎臓の詳細なGoogleマップを作成するようなものです!それは単に様々な細胞タイプ(正確には51種類)の位置についてだけではなく、それらが互いにどのように相互作用するか、それらの状態についても扱っています。そして、マッピングだけで終わらず、腎臓の異なる部分が損傷にどのように反応するかを研究し、腎臓が自己修復できるか機能が悪化する状態に移行するかを予測する特定のシグナルを見つけました。

①事前情報:
腎臓は私たちの体の健康にとって非常に重要です。腎臓が損傷を受けると、自己修復するか(成功した修復)または悪化するか(不適応な修復)のどちらかになります。損傷や病気の際に腎臓が微細レベルでどのように変化するかを理解することは重要ですが、これは難しい課題でした。

②行ったこと:
研究者たちは、45人の健康なドナーと48人の腎臓疾患患者から腎臓を研究しました。これを行うために、彼らはシングルセルおよびシングルヌクレウスアッセイ(40万以上)、空間イメージング技術、大規模3Dイメージングを組み合わせて使用しました。

③検証方法:
彼らは、自身の発見をHuman Biomolecular Atlas Program (HuBMAP)、Kidney Precision Medicine Project (KPMP)、Human Cell Atlas (HCA)の3つの主要なコンソーシアムと照らし合わせて確認しました。

④分かったこと:
彼らは、腎臓の細胞レベルでのアトラスを作成し、51の主要な細胞タイプを強調しました。その中には、まれなものや以前には記述されていなかったものも含まれていました。また、腎臓損傷において変化した28の細胞状態を見つけ、空間トランスクリプトミクスを用いて、これらの状態を損傷部位内で位置づけることができました。

⑤この研究の面白く独創的なところ:
健康な腎臓と病気の腎臓の細胞レベルのロードマップのようなものです!さらに、彼らは腎臓が自己修復するか機能が悪化するかを予測する特定のシグネチャーを見つけ、これは腎臓疾患治療にとって画期的な可能性があります。

応用
この研究は、医師や研究者が腎臓病や腎障害をより深く理解するための重要なリソースとなる。また、新たな治療法の開発の指針となり、腎臓病の予測や管理方法に革命をもたらす可能性もある。


グラファイトにおけるモアレ表面状態とバルク状態の混合

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06264-5

ツイストロニクス(2次元材料における電子状態のデザイン)がこれまで不可能だとされていた3次元材料でも可能であることを、BNとグラフェンを用いて示した研究です。

①事前情報:

ツイストロニクスは、2次元材料での電子状態のデザインを可能にする手法で、特にモアレ超格子を用いたものがよく知られています。この手法は、グラフェン等の2次元材料で、未知の物理現象、強い相関や超伝導性を明らかにしてきました。

②行ったこと:
研究者らは、3次元のグラフェンにBNの結晶を配置し、これによる超格子ポテンシャルがグラフェンの電子状態にどのような影響を与えるかを調査しました。

③検証方法:
グラフェンとBNの結晶を結晶学的に整列させ、その結果、いくつかのLifshitz遷移やBrown–Zak振動が表面近くの状態から生じることを確認しました。また、強磁場下では、フラクタル状態のHofstadter's butterflyが石墨の内部深くにまで影響を及ぼすことも確認しました。

④分かったこと:
この実験により、2次元のツイストロニクスのアプローチを用いて3次元のスペクトルを制御できることが明らかになりました。具体的には、ボロン化窒素とグラフェンの結晶を配置することによって、グラフェンの電子状態に影響を与え、Lifshitz遷移やBrown–Zak振動を引き起こし、またフラクタル状態のHofstadter's butterflyがグラフェンの内部深くにまで影響を及ぼすことが示されました。

⑤この研究の面白さと独創的なところ:
2次元材料に特有のツイストロニクスを、3次元材料である石墨に適用し、その電子状態を変えることができるという事実は非常に革新的です。これは、未知の物性を3次元材料で開拓する新たな道を開く可能性があります。

応用
この研究の結果は、次世代の電子デバイスや、新しいタイプのセンサー、さらには高性能なエネルギー貯蔵システムの設計に対する洞察を提供する可能性があります。


ツイストグラファイト薄膜の混合次元モアレ系

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06290-3

ツイストロニクス(2次元材料における電子状態のデザイン)がこれまで不可能だとされていた3次元材料でも可能であることを、ボロン化窒素と石墨を用いて示した研究です。

事前情報
ツイストロニクスは、2次元材料での電子状態のデザインを可能にする手法で、特にモアレ超格子を用いたものがよく知られています。この手法は、グラフェン等の2次元材料で、未知の物理現象、強い相関や超伝導性を明らかにしてきました。

行ったこと
3次元の石墨にボロン化窒素の結晶を配置し、これによる超格子ポテンシャルが石墨の電子状態にどのような影響を与えるかを調査しました。

検証方法
石墨とボロン化窒素の結晶を結晶学的に整列させ、その結果、いくつかのLifshitz遷移やBrown–Zak振動が表面近くの状態から生じることを確認しました。また、強磁場下では、フラクタル状態のHofstadter's butterflyが石墨の内部深くにまで影響を及ぼすことも確認しました。

分かったこと
2次元のツイストロニクスのアプローチを用いて3次元のスペクトルを制御できることが明らかになりました。具体的には、ボロン化窒素と石墨の結晶を配置することによって、石墨の電子状態に影響を与え、Lifshitz遷移やBrown–Zak振動を引き起こし、またフラクタル状態のHofstadter's butterflyが石墨の内部深くにまで影響を及ぼすことが示されました。

この研究の面白く独創的なところ
2次元材料に特有のツイストロニクスを、3次元材料である石墨に適用し、その電子状態を変えることができるという事実は非常に革新的です。これは、未知の物性を3次元材料で開拓する新たな道を開く可能性があります。

応用
この研究の結果は、次世代の電子デバイスや、新しいタイプのセンサー、さらには高性能なエネルギー貯蔵システムの設計に対する洞察を提供する可能性があります。


最後に
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