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クリームソーダ

この店に来たのは3年ぶりだった。
それまではよく彼女と通っていた。初めて彼女とこの店に来た時「ねえ、クリームソーダ頼みなよ」
と言われた。コーヒー好きの僕にとっては喫茶店でクリームソーダを注文するという選択肢は考えてもみなかった。

「なんかクリームソーダって子供じみていて僕は好みじゃないな」とブレンドコーヒーを頼もうとしている僕を差し置いて

「何言ってるの、クリームソーダっていうのは子供から大人まで誰が飲んでいてもおかしくないんだから」と彼女は店員さんにクリームソーダを2つ注文した。

「クリームソーダがない喫茶店って最近増えてるんだよね。昔の喫茶店には必ずと言っていいほどあったのにさ」

彼女は平成生まれの20代なのにときどき昭和の香りを漂わせる発言をする。

「それはさ、今はコンビニや自動販売機とかで、身近に飲めるようになったからわざわざ喫茶店でのまなくなったんじゃないかな」とまだメニュー表を眺めている彼女に言うと

「でもそれは、コーヒーでも同じことが言えるじゃん」とふてくされたように返された。

コーヒーは喫茶店でしか出せない味があるんだよなと言ったところできっと、クリームソーダだって同じだと言われるんだろうと思っていたところに「お待たせしました」とシュワシュワ音を立てたクリームソーダが僕と彼女の目の前に置かれた。

さっきまでふてくされていた彼女が急に目を輝かせ「宝石みたい」と写真を撮りだした。

初めて喫茶店でクリームソーダを飲んでみたが、なるほど実際にアイスクリームがのったクリームソーダはペットボトルのものとは違っていた。
クリームが溶ける前と後では味が違うし、炭酸も優しく飲みやすい。
それからというものこの喫茶店に来ると必ず彼女と二人でクリームソーダを頼むようになった——————————————

3年前の記憶をこんなにも鮮明に思い出す。今は目の前に彼女は座っていないし、どうやらあの時、僕らの注文を取った店員さんももういないようだ。僕もこの店も少しだけ変わった。ただ、メニューの端の方にまだクリームソーダは書き記されている。僕は新しい店員さんにクリームソーダを一つ注文した。シュワシュワと音を立てた宝石のようなクリームソーダの味はなにひとつ変わらなかった。

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