【太夫、傾国の娼妓(やり手爺)ときて今世悪妃とは、これ如何に?】第26話

「ふむふむ、なかなか良き出来です」

 大岩の上に種を設置して現在進行形でご満悦中のわたくし

 丞相より頂いたこの宮の図面と羅針盤を持って敷地内をうろうろしていれば、いい加減お腹が空いてしまいました。

 羅針盤は方位磁石とも申します。初代の知識を使い、二代目の私がこの世界に初登場させた代物です。コレは更に改良し、小型化しま物で、爺となって海を渡る時に重宝したものです。懐かしいですね。

 それはそうと何故私がこのような事をしているのか。もちろん理由がございます。

 なんと! 昨日からずっと! ご飯が出る気配がないのです! 育ち盛りですよ、私!

 小屋にあった年代物のカボチャの種を見つけたので、いくつか剝いて飢えを誤魔化しておりましたが、そろそろ飽きました。

 という事で、行動に移した次第です。

 水仙宮内で見つけた庭園跡と思しき場所にデンと構えた岩の上にいた私。そこからピョンと飛び降り、片手に石を持って岩陰に潜んで気配を殺します。

 足元には朽ちた離宮にあった、鉄製の小洒落た平たい花生けがそっと鎮座しております。

 玄武を象徴とする北の宮だけあって、大岩をや枯渇した池の跡がある規則性をもって点在しておりました。当時はこの宮を活用していたという事でしょう。

 三国を統一した皇帝の居城だけあり、後宮の規模は初代が住んでいた吉原が幾つか分はございます。広すぎです。整備に滅茶苦茶お金かかります。

 皇貴妃や貴妃である夫人は、三人から四人となりました。しかし嬪は三嬪のまま。

 とはいえ、この水仙宮の隣の敷地にある冬花ドンファ宮に四人目となる嬪が入る事はないでしょう。夫人は正妻、嬪は妾となりますが、慣例では各夫人の縁者が嬪に選ばれるようですから。

 後宮の夫人には大きな宮、嬪にはその半分規模の宮が充てがわれます。過去にわらわらいた後宮の女人達は、夫人や嬪達の宮に部屋を設けて入っていたようです。

 つまり後宮は大きく分けると、四つの派閥に別れていたという事ですね。廃される前にこの宮にいた夫人は、派閥争いに破れてしまったそうですよ。小屋に住むが教えてくれました。

 今の四夫人の中で、貴妃は私のいる水仙スイシェン宮(北宮)、蘭花ランファ宮(西宮)、梅花メイファ宮(東宮)、そして皇貴妃は牡丹ムゥダン宮(南宮)に各自居を構えております。

 各方位別に、四神と称されし神獣を模した装飾を、建物や衣服に使用する権限を持ちます。

 四神とは初代の世界のとある将軍も、幕府や城の内外の配置に気を使ったと噂話にも出てくるあの神獣です。

 北の玄武、西の白虎、東の青龍、南の鳳凰ですね。順に冬、秋、春、夏と季節を象徴しています。これらを地形に利用した土地が、四神相応の地。家屋にも応用可能です。

 ちなみに皇城のあるこの場所も、そうした事を考えた末にらこの場に建築されたのではと、今世の私は考えております。

 太夫ではそうした話をちょくちょく聞いてゲン担ぎしておりました。ご贔屓さんに詳しい方もおられ、閨の睦言や逢引茶屋で語らって下さり、詳しくなたのですよ。

 そして今は廃された嬪も含め、四嬪はこれまた順に冬花ドンファ宮、秋花チュファ宮、夏花シャファ宮、春花チュンファ宮と呼ばれる宮に居を構えます。もちろん各季節と各方位に対応した場所に存在していますよ。

「おっと、早速」

 種に寄せられ、鳩がやって来ました。ツンツンと種をつつき、ふふふ、食べ始めます。

 今です!!

 カッと目を見開いて手にした石に、それとなく魔力を纏わせます。こうすると心なしか操作能力が上がるのです。

 鳩に向かってビュンと投げ……よし、命中です!! 近づいて南無南無と合掌……。

「おい、野生児」

 おや? やっと物陰から出る気になったのですね。とっくに気づいておりましたが、私の狩猟を邪魔せぬよう、気配を殺していたので、あえて無視しておりました。

 もちろん紫色を纏う法律上の夫です。

「すぐに下処理をせねば、肉が臭くなります。後でおいで下さい。それとも手伝っていただけると?」

 しかし今は、お邪魔でしかありません。こう言えば大方の殿方は腹を立て、威圧なり覇気なりを駄々漏らしながら消えてくれる……はず? おや?

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