【太夫、傾国の娼妓(やり手爺)ときて今世悪妃とは、これ如何に?】第60話〜小雪side
「兄様! 兄様! もういいよ! 何もしなくていいから! 手を離して逃げて!」
泣き叫ぶ私の体は、今よりもずっと小さい。
けれど崖にぶら下がっている私の手を掴んで必死に耐える兄様の体もまた、少年と呼べるほど幼い。眼下には凍える河が流れている。
私が兄と呼ぶ少年の体は、痛ましさを覚えずにはいられないほど火傷だらけだ。特に私を庇って炎に曝された右半身は酷い。
額から瞼にかけての3本爪の古い痕といい、いつも兄様は私のせいで大怪我をする。
「いたぞ! 将軍! いました