児童教育における挫折のデザイン

目的

子供が挫折しそうな時、又はあえて挫折を選択させにいくとき、どのように子供への悪影響を少なくするかを考察するもの。

要約

  • 挫折は否定的な体験ではない

  • 挫折による影響は、小学生も高校生も同じ

  • 挫折による否定的な意味づけを回避する

    • 何をやっても無意味だという無力感を避ける

    • 自分はできないという自尊感情の低下を避ける

  • 挫折を肯定的に評価することで、成長や自尊感情の高まりが期待できる

  • 準備を経た挫折すなわち「教育的挫折」の可能性もある

言葉の定義

  • 挫折

    • ある目的や目標、期待をもって行ったこと、続けてきたことが途中でくじけ折れ、とてもネガティブな気持ちになる体験

      • 参考 北村(1983)

    • 頻度:少ない

  • 失敗

    • 何か回避したいものを自分で回避できないこと(統制不可能性)

    • 自分の行動と結果がつながっていないと思うこと(非随伴性)

    • 頻度:多い

  • ストレスフルな体験の「同化」

    • 自身が持つ世界観や自己感に一致するように出来事を再解釈すること

  • ストレスフルな体験の「調節」

    • その出来事によって示唆された新しい情報を取り入れるように自身の世界観や自己観を変化させること

失敗と挫折は異なるもので、失敗は珍しくなく、成功のもとになるが、挫折は頻度が少なく、人生の転機になりうる。

挫折の時間軸

  • 挫折の発生前後

    • 1. 非自発的挫折

      • 1-1. 急に発生する場合

        • 予期せぬ事象により、急に挫折を引き起こされる

          • 例)突然の別れ

        • 事前準備ができていない

        • 衝撃・落ち込み・怒り・悲しみ・自責・挫折対象への固執や取り返し行動が強く発生する

      • 1-2. 緩やかに発生する場合

        • 挫折となる事象が事前に想定され、徐々にそれが発現していくか、その発生までに徐々に時間が経過する

          • 例)試験合否の発表、年齢制限のある消防士試験

        • 多少の事前準備ができている

        • 急に発生する挫折に比べて、衝撃や落ち込み等は緩和されるものの、ゼロにはならない

        • 急に発生するよりは自分や環境をコントロールできる

    • 2. 自発的挫折

      • 2-1. 自己の選択により発生する場合

        • それ以上待ったり物事を進めたりしても成果が出ないことを踏まえ、自ら挫折を選択する

          • 例)長年追った夢を諦める、仕事を辞める

        • 1-1の急に発生する挫折に比べて、衝撃や落ち込み等は緩和され、かつ自分で選択しているために1-2.と比べて固執や取り返し行動も緩和されると想定されるものの、ゼロにはならない

  • 挫折の発生後

    • 種々の落ち込みや怒り、固執を経て、「断念」することが次のステップにつながる

    • 迷いや拒否感情から、現状の受け入れ、他者の支援を経て、精神的な安定と前進への準備が可能になる

    • 挫折を思い出し、再発の不安を持ちながらも、自己成長し、肯定的な評価ができるようになる

  • 参考

    • 挫折時の感情の流れ

『挫折経験から立ち直りまでのプロセス』P.61

急な挫折を避け、挫折に向けて事前準備が可能な場合はする。(とはいえ、急な発生を防げないことも容易に想像がつく。)
挫折後は、まず「断念」に持っていく。その後は、本人の気持ちの整理及び周知の支援を踏まえて、挫折に肯定的な意味づけをしていく。

挫折した/する時の対応

  1. 挫折に肯定的な意味づけをする

    • 「調節」による成長

      • 自身の世界観や自己観を変化させる

  2. 挫折からの否定的な意味づけを回避する

    • 学習性無力感や自尊感情の低下防止

    • 「同化」によるストレス減少

      • 自身が持つ世界観や自己感に一致するように出来事を再解釈する

具体的な対処法

  • 1. 挫折に肯定的な意味づけをする

    • 1-1. 他人に話す(家族・友人・ソーシャルサポート等)

      • 他人との会話を通して、挫折が持つメッセージを受け取ることで、自分を変えることにつながる

      • 他人のサポートを受けるほど、気づきがあり、自己成長感が高まるという

    • 1-2. 挫折に意味づけをする

      • なぜ挫折したか。なぜ自分か。どうやって乗り越えるか。そこから得られるものは何か、等々を自ら考える

      • 挫折を経験したことを肯定的に評価することが、自分は社会の中で頑張っていけるという自信につながる

  • 2. 挫折からの否定的な意味づけを回避する

    • 2-1. 学習性無力感を回避する

      • 「自分の行動が結果を伴わないことを何度も経験していくうちに、やがて何をしても無意味だと思うようになっていき、たとえ結果を変えられるような場面でも自分から行動を起こさない状態」

      • つまり次のチャレンジや行動が起こされなくなる危険がある

      • 行動と連動した結果を探す。無意味ではなかったことを確認する。

    • 2-2. 「自分はできない」というマインドセットを回避する

      • 結果だけではなく、プロセスに焦点を当てる

      • 頑張れたのであれば、「頑張れること」は否定できない

    • 2-3. 他人と会話する

      • 少なくとも気持ちは晴れ、回復が早くなる

児童への適用

参考にした論文は20歳前後を対象としたものが主だった。ただし、児童の挫折についての研究もあり、児童期に挫折をしていても、それを肯定的に評価していれば、他の児童よりも相対的に自尊感情*が高いという結果を示していたものがあった。
* 自分や自分の可能性を評価し、今の自分を受け入れ、他人を大事にできること

この挫折と自尊感情の関係には、少なくとも小学生から高校生までは学年差もないという研究結果であることから、児童について特殊な対応は必要ないと考えた。

結論

それを踏まえると、挫折すること自体に問題はなく、挫折した後に以下ができるかが重要になる。

  • 何をやっても無意味だという無力感を避ける

    • 行動と結果が伴っている部分に焦点を当てる

    • 学習・成長できたことを発見する

    • 無意味ではないことを理解する

  • 自分はできないという自尊感情の低下を避ける

    • 努力できた点に焦点を当てる

    • 学習・成長できたことを発見する

  • 挫折を肯定的に評価する

    • 挫折によって得られたことを発見する

    • 挫折を乗り越えられたことに焦点を当て、社会の中で頑張っていけることに自信を持つ

    • 上記は他者との会話で発見し、受け入れられる場合もある

    • どうしても肯定的に評価できない場合でも、否定的な評価は避ける。今の価値観の延長線上で、自分の都合の良い解釈をしても良い。

上記の難易度を低くするために、挫折に向けた準備をするか、自発的に挫折を選択することで、立ち直るプロセスのいくつかは緩和されるかもしれない。挫折の衝撃や怒り、悲しみを超えて、早期に「断念」し、現状や他人からの支援を受け入れ、肯定的な評価へのステップを踏むことができる。
挫折を乗り越えた経験を経て、今後もうまくやっていくという自信がつけば、今後も挑戦を続け、挫折を乗り越えて成長していけることだろう。

児童教育においては、挫折をデザインし、挫折への準備、挫折のタイミング、立ち直るためのステップや支援を適時適切に提供することで、成長の機会とする「教育的挫折」の可能性もあると思う。

裏結論

子供が習い事を1年以上続けたものの、なかなか前に進まない。挫折の足音が日に日に大きくなってくる。頑張っているのを見ているのも辛いし、子供の評価をたくさんの大人から聞くのも辛い。
挫折を自発的に選択させるつもりである。

(挫折論とはズレるが)挫折を選択する場合、うまくいかないことをすぐに辞める癖がつく可能性がある。挫折選択前に、できることを全て洗い出させよう。それを全てやってもダメなら、仕方ないと理解させよう。

初めての挫折である。挫折を選択したとしても、即学習性無力感にはつながらないと思うものの、これは積み重ねだ。学習性無力感のかけらを1ミリでも残してはいけない。もちろん、自尊感情を損ねることもしてはいけない。子供が学習・成長できたことを一緒に発見しよう。
子供が努力できたこと、頑張ったことを褒めよう。
周囲が前に進んでいく話を耳にしても、子供が気にしないレベルにまで、ちゃんと「断念」させよう。
うまくいかないこともあることを子供に理解させよう。

子供が次に頑張ることを見つけよう。

愛するもの、打ち込むものが1つでもある人間は、尊い。

参考

挫折経験の意味づけと自我同一性の発達の関連
第3回 やる気のない無気力な子
大学生の挫折経験に関する心理学的考察
挫折体験の意味づけが自己概念の変容に与える影響
挫折経験から立ち直りまでのプロセス
児童期後期から青年期の自尊感情と挫折経験との関連


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