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1991年 軽々しくふたりで有限会社をつくってみた

有限会社のつくりかた

どうしてそう思ったかはおいといて、まず、会社をつくろうかな、と思いました。

本屋さんに行くと、ちょうどいい具合に『有限会社のつくりかた』という本を売っていたので買ってみました。

友達に「会社をつくろう」ともちかけてみました。「つくろう! つくろう!」と盛り上がりました。が、「一緒に会社をつくろうね」といってた友達の「会社をつくろう」の気持ちと自分の「会社をつくろう」の気持ちは、なんだか違っていたみたいで、どうも話が前へ進みませんでした。他も2、3あたってみたのですが、やはりなかなか上手く進みません。

しょうがないので近場で済ませる事にしてみました。姉妹で手を組む事にしたのです。多分、家の近所のメルヘンチックなカフェレストランで話し合いをしたと思います。

「わたしは『有限会社のつくりかた』という本をもってるから、有限会社をつくれるんだけど、どう? 一緒に」とかなんとか。お互い同じ様に「会社をつくろうと思うけどどうにも進まん」状況だったので、そういうことになりました。

私達は、会社をつくるということを、多分、他の人よりも軽々しく考えていたのでした。そして、本に書いてある通りに軽々しく会社をつくっていきました。

無題 - 2021年1月29日 09.35.04


電話帳まくら

ややこしい手続きも自分達でなんとかやり終えて有限会社ができました。

さぁ、出社です。でも仕事がありません。当然です。何も考えなしで会社をつくったからです。

そこでNTTへ行って大阪府の職業別電話帳をいっぱいもらってきました。これで大丈夫です。大阪府の会社とは全て取り引き可能になったのです。安心です。

そして季節は春(4月1日設立)。ぽかぽかです。これからどうするか、寝ころがって考えるといいアイデアが浮かぶかも知れません。「今日は南大阪の電話帳をまくらにしてみようかな」「これは薄いからふたつ重ねることにしよう」。こんな仕事内容だともちろん給料は出ませんね。当然です。

しょうがないのでお金がなくなると、さいとうは健康診断車へ看護婦に、よむらは映画村へ似顔絵描きに。日々の糧と、会社の運用資金を稼ぎに出かけたのでした。

無題 - 2021年1月29日 09.49.43

CI戦略

「よし、そろそろまじめに会社の方針を考えるぞ。そう、企業コンセプト。これがない会社はだめやね」とえらく気負って考え始めました。商品をつくるにしても、どんな商品をつくっていくのか『シンプルでミニマムでストイック』なものか『チャーミングでプリティでチープでシック』なものなのか『市場では何が求められているのか』。考えるうちにだんだんあほくさくなってきて、「そんなこと考えてる間になんかつくったほうがいいで」とまともな考えにいきついたのでした。

自分達の考える、メーカー、家内制手工業の誠意の原点、『いいもんつくって、一所懸命売る』。そこで、まず、それぞれ自分の思う『いいもん』『つくりたいもの』を自分の納得のいくようにつくる事にしました。

布でつくったアクセサリーと、イラストのポストカードが出来上がりました。


心臓には毛を

「かわいいな」「かわいいで」「こんなかわいいの、見た事ないわ」。お互いほめあって、なんとか勇気を出して、アクセサリーとポストカードを大きなボードに貼り付けて、初めての営業に向かいました。

アメリカ村に『へなちょこ』というほんとうにへなちょこな雑貨屋さんがありました。古い古いビルの小さな小さな一室で、暗い暗い店内には自称アーチストの作品や駄おもちゃが置いてありました。「あのあのあの有限会社アランジ アロンゾというものです」「こここんな商品をつくっているのですが置いていただけないでしょうか?」。商談は進みます。「何人でやってる会社なんですか?」「2・・・2、3人です」。わけがわかりません。なんとなく2人よりも3人の方がちゃんとした会社っぽいかなと思ったのですが、うそはいけないので、2、3人ということにしたのです。結局その日はとびこみで大阪の雑貨屋さん9軒くらいまわって、へなちょこともう1店から「置いてもいいよ」といってもらえました。

「APOはとられていますか?」「アポ? あぽ?」。私達は営業に行く前に電話予約、そうアポイントを取る事さえ知らなかったので、たいていの店ではちゃんと取り合ってもらえませんでした。なので次の日からはなるべく電話してから行くようにしました。学習したのです。

次の日もその次の日も営業活動は続きます。1週間程京阪神をまわって、4店とお取り引きできることになりました。ちゃんと商品を見て「おもしろいね」「かわいいね」といってくれた、変な会社名のおどおどした人間に対して偏見のない、見る目のあるすばらしい店々です。が、もちろんそんなすばらしいお店ばかりではありません。せめて、営業とつくる人が別だったら痛手も少なかったかも知れませんが、自分達でつくった商品を目の前でばかにされたり、けなされたり、無視されたりは、なかなかこたえるものです。そういう店を後にすると2人ともついつい、地面を見てトボトボ歩いてしまいます。

「今後の課題は、まず、あれだね」「心臓に毛を、生やさなくちゃね」「ぼーぼーだね」「毛むくじゃらがいいよ」「ふさふさ」。気を取り直して次の店に向かうのでした。

ふさふさ黒


30年後のつけたし

有限会社という会社形態は2006年に廃止されてしまって、今はもう新しく有限会社をつくることはできません。当時、株式会社は最低資本金が1000万円、それに対して有限会社は10万円!お手軽にちゃんとした法人を名乗れて、小さいけれど独立独歩なかっこいいイメージを「有限会社」に抱いていました。




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