あらみきょうや

偽名です。 小説を書いたり書かなかったりするかもしれません。

あらみきょうや

偽名です。 小説を書いたり書かなかったりするかもしれません。

最近の記事

台所の屍体

 さても問題はこの屍体である。こんなものが床に転がっていては夕飯の支度も儘ならない。いや暖気に料理をしている場合でないことは重重承知しているのだが、どうしても眼の前の現実を受け容れることができない。  わたしが殺したことに相違はない。そのこと自体、後悔はしていない。こんなやつは地球上に存在してはならないのだ。  夕飯を作っていたときのことだ。背後に不穏な気配を感じて振り返ると、黒い影がいきなり飛び掛ってきた。声をあげる余裕もなく、無我夢中で応戦していたら気づいたときには足許に

    • ラビウム

       成熟とともに片側だけが肥大して、いつしかもう一方に重なるようにして入口を覆い隠している。歪な蕾はその中に甘やかな蜜を秘め、開花のときを夢見てただ静かに眠っている。  なだらかな丘の上、若く柔らかな叢を抜けると、その先に聖域がある。いまだ何者の侵凌も許していない、未開の聖域。すべての来訪者を拒むかのように固くその唇を鎖している。  かつて聖域は今よりずっと狭く、小さかった。禁忌とは知らず、稚い好奇心からその未熟な核に触れてしまった。雷のような衝撃が全身を貫いた。存在そのものに

      • 世界猫の日

        「今日は世界猫の日なんだって。知ってた?」 「セカイネコ?」 「そう。この世の涯には世界中の猫を統べる世界猫がいて、とこしえの眠りを貪っているんだ。何でも山のように巨大な猫で、その寝返りは大地を揺るがし、欠伸ひとつで嵐を巻き起すのだとか」 「災害の元兇じゃないか。一刻も早く滅ぼさないと」 「ところが世界猫にはどの国も手を出せないんだ。条約で保護されているんだって」 「ふうん、何て条約?」  しばらく待ってみても返答はない。ぼくは諦めて質問の趣旨を変えた。「それで、今日はその世